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樹上の戦い

 先に飛び出したのはルッカだ。巨体ラシンカが落とした大きな羽を紙一重で跳びながらかわすと、銃撃でけん制しながら、巨体ラシンカへ近づいていく。


「スキーネ様! 射程距離に入ったら援護して下さい! 私が一気に距離を詰めて仕留めます」


「ずるいわよ! 勝負はまだ続いてるんですから!」


「い、いまはそれどころじゃ…」


 ルッカが羽をかわして枝に跳び乗る。


 ルッカたちの十メートル下で状況を見ていたツアムは、すぐさま危険を予知した。


「スキーネ、近づきすぎだ! もっと下から撃ってルッカを援護するんだ!」


 巨体ラシンカから見て、十メートル下にルッカ、その五メートル下にスキーネという位置になる。

 と、ラシンカは何を思ったのか、急に枝の上でジャンプを始めた。ドスン、ドスンと何度もその場で跳躍してみせる。振動が枝から幹、そして枝へと伝わり、ルッカはもちろん、スキーネの乗っている枝も小刻みに揺れ始める。


「的を絞らせないつもりね? でももう距離は十分! ここからなら私の銃でも致命傷を与えられるわ!」


 スキーネの算段は、読みが甘かった。


 ラシンカの幾度とないジャンプにより、揺らされた樹から小さい枝や木の葉が雨のように落ちてくる。とても目など開けられていない量だ。スキーネは堪らず目を閉じ、ライフルを下げて手で頭の上を払った。そこへ巨体ラシンカが羽を広げる。


「スキーネ様!」

 ルッカが放たれた矢のごとくスキーネに向かう。


「スキーネ!」

 ツアムもまた、スキーネのいる位置の真下へ駆け出す。


 ラシンカの羽が、降り注いだ。


 間一髪、ルッカの跳び込みにより、スキーネは針の串刺しをまぬがれた。ルッカがあと一瞬遅かったら、スキーネの体は鮮血で染まったことだったろう。自身と、そしてルッカの体の無事を確認したスキーネは、十メートル上にいるラシンカを睨みつけた。


「見てらっしゃい。いまに…」


「スキーネ!」


 そのとき、ナナトの悲痛な叫びがスキーネのちょうど真下、五メートル下から聞こえてきた。スキーネが目を向けると、そこにはうずくまったツアムの姿がある。真っ赤な血が、枝に滴り落ちているのがここの位置からでも見えた。


「ツアねえ!」


 スキーネとルッカは、一目散に下へと降りた。


 ツアムの体を介抱し、樹上からの攻撃に気を配りながら、巨体ラシンカより三十メートル以上、距離を開ける。ここまで降りれば問題ないと判断した位置で、ツアム、スキーネ、ルッカ、ナナト、ポピルの五人が揃った。ナナトとポピルは銃を上に構えて樹上の警戒にあたり、その二人に挟まれるようにして、ツアムが座り込んだ状態でルッカから治療を受けている。


「羽軸が腕をかすっただけだ。心配ない」


 ツアムが左腕を差し出して見せた。その上腕には、縦五センチ程度の切り傷がある。そこへルッカが消毒液を垂らした。


「大事には至っていません。骨も筋も無事です。ただ切れ味が良かったので出血がひどくなったのでしょう」


 ルッカがポケットから清潔な布を取り出して傷の上に載せると、包帯を丁寧に巻き始めた。


「どうして私の真下の位置にいたの?」

 スキーネの疑問にはナナトが答えた。


「スキーネを守るためだよ」


「え?」


「あの状況だと、スキーネが枝から落下することも考えられた。もし落ちた場合、すぐに受け止められるようにツアムさんは真下へ向かったんだ。結果として、スキーネのかわした羽がツアムさんの伸ばした手をかすめて通った」


「そんな…」


 スキーネはショックを受けた様子だ。


 やがて包帯を巻き終わると、ツアムは立ち上がって左手を握ったり開いたりして見せた。


「うん。大丈夫だ。ありがとう」


「縫うほどの怪我ではないと思われます。ですが念のために、今日の夜も消毒をかけて新しい包帯に取り換えましょう」


「そうだな」


「あ、あの…」


 スキーネがツアムの前に立った。

「ごめんなさい、ツア姐。私の責任よ。私が…意地を張ってルッカとの勝負にこだわったから…ルッカを援護するようにって助言もちゃんと聞こえてたのに、私情で聞き流した。本当にごめんなさい」


 スキーネは、叱られるのが怖くてツアムの目を見れなかった。

 視線はツアムのお腹の位置に向けて、あとはただツアムの反応を待つ。と、ツアムが手を上げたのが視界に入った。ぶたれるかもしれない、と思い、スキーネが思わず目を固く閉じて身を縮こまらせる。


「スキーネとルッカに怪我がなくて良かった」


 ツアムは優しくそう言うと、スキーネの肩に手を置いた。スキーネが目を開け、ようやくツアムと目を合わせる。翡翠ひすいを彷彿とさせるツアムの深緑色の双眸そうぼうは、とてもよく澄んでいた。


「スキーネ。あたしが怪我を負ったことに関して何も思わなくていい。ただ、仲間を信頼せず先走った行動を恥と思いなさい」


「はい…」

 スキーネが頷いた。ポピルが顔をツアムに向ける。


「それで、どうする?」


「もちろんリベンジだ。乙女の肌に傷をつけた代償をあの鳥に払ってもらう」


「それでこそ姐御あねごだ! 俺のライフルのチャージ3ならあんな鳥、一発で焼き払えるぞ!」


「いや、まず当てるのは枝でいい。それよりあの鳥のさらに上へ行けるか?」


「上?」


 ツアムは四人を集めて作戦を伝えた。


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