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ポピルの腕前

 百メートルを示す赤い紐の地点まで辿り着くと、五人は小休止を入れることにした。あらかじめツアムが用意して持って来ていた五人分の水筒とパン、それに小さな氷砂糖をそれぞれ分けて皆に手渡し、ナナトたちは木漏れ日が差す地上百メートルの樹の枝の上で、涼しい風を全身に浴びながら軽食を取る。


「うわ! いい眺めだね」


 水筒の水で喉を潤したナナトが、下界の景色に興奮して言った。すでにここは、ノーイス村の家々の屋根が、伸ばした自分の親指にすっぽりと隠れてしまう高さだ。さらに、葉の開けた枝の先へ向かうと、昨日自分たちが歩いてきた尾根を越えてワンガホの街まで見渡せる。新緑の引き立った山肌、羊の背中のような尾根、点在する人の住まう住居。正面から背中に吹き抜ける心地よい風を感じながらこの景色を見ていると、まるで自分が鳥になって枝に止まっているかのように思えてくる。


「景色よりも狩猟だ!」


 ナナトが振り返ると、ポピルがスキーネとルッカに直談判しているところだった。


「ここまで俺は一発も撃っていない。討伐した鳥の下ろし役に文句を言うわけじゃないが、ここから先は俺も狩りに参加させてほしい! 頼む!」


 目を輝かせて訴えるポピルに、スキーネは氷砂糖を口へ放り込みながらルッカを見た。


「ちょうどいいわ。ルッカと交代しましょう」


 これに目を見開いたのはルッカだ。


「ええそんなっ! スキーネ様、勝負は…」


「あなたのためでもあるのよ? ここまで先陣を切ってきたあなたは弾が一番減っているでしょ? 先はまだ百メートル以上もあるんですから、温存のためにも百五十メートル付近までポピルと交代しておくのがいいと思うの」


 うう、と呻きながらルッカが視線を下げる。スキーネが「あ、それと」と続けた。


「勝負は続行中ですからね。今あたしが二十三羽で、でルッカ四十一羽。ちゃんと数えておいてね」


 そんな殺生せっしょうな、という目でルッカはスキーネを見たが、スキーネはどこ吹く風で銃を手に取った。


「お手並み拝見しようかしら、ポピル」


「よしきた。俺の雄姿をとくとお見せしよう」

 ポピルが銃を構えた。


 百メートルを超えたあたりから、ラシンカは目に見えて大きい個体が増えてきた。地上付近の個体はニワトリからサギほどまでの間だったのに対し、ここではすでにヤギの成体よりも大きい鳥が枝の中にいる虫をついばんでいる。十メートル上にいるその一羽に銃口を向け、ポピルがすうと息を吸った。


 バン!


 けたたましい発射音と共に火を噴いたライフルは、ラシンカを枝ごと撃ち抜き、弾の当たった鳥は一つ上の枝に体を打ちつけられてから落下してきた。


「おっと」


 まっすぐに落ちてきたラシンカの足を掴んだツアムは、そのまま麻袋に詰め込む。


「大した威力だ」


 ツアムがそう漏らすほど、破壊力のある一撃だった。ポピルの持っているライフルはレバーアクションで次の弾を装填するため、一発放ったポピルは、銃の下側についているレバーを一度上下させて使用済みの弾薬を排出するとともに、新しい弾を装填した。


「さあ、行くぞ」


 上に登ろうとして枝に足を滑らせ転んだポピルだったが、すぐさま跳ね起きて掛け声とともに樹を登り始める。


 ポピルのライフルから放たれる火炎弾は、良くも悪くも高威力だった。


 良い点を挙げるなら、下から上に向けて枝越しに鳥を狙っても確実に仕留められることだ。細い枝が密集した程度の遮蔽物であればお構いなしに貫通するので、枝上にいるラシンカを狙うには都合がいい。ただその長所は短所にもなり、ポピル本人は鳥だけを狙ったつもりでも、弾は周りの枝や幹を巻き込むので、下にいるスキーネたちの頭の上に余計なゴミを振り落とす結果になった。


「ポピルっ! もっとスマートに討伐できないの?」


 今まさに髪の毛へ降ってきた木片と木の粉を手で振り払いながらスキーネが声を上げた。ポピルが申し訳なさそうに下に叫ぶ。


「すまない。俺の銃は古いものだから火炎弾しか撃てないんだ」


「もう。これじゃ下にいる人がたまらないわ」

 スキーネがプリプリと怒る。


 さらに、ポピルの銃の腕前も一般的な猟師のレベルからすると及第点きゅうだいてんをつけるのが難しいものだった。十五メートル離れたじっとしている鳥であっても、十発中、四発を外してしまう。銃声に驚いて逃げ惑ったり興奮して攻撃するために動いているラシンカへの狙撃は、ただの一度も成功していない。


「威力は高いけど命中率が低い。ツアム様とは対照的ですね」


 急所を外して藻掻もがくラシンカに電撃弾で止めを刺したルッカがツアムにそう囁いた。ツアムもポピルを見上げる。


「銃の威力が強すぎるんだ。反動を抑えるための筋力も足りてない」


 一言でいえば、銃の選択ミス。

 なぜポピルはわざわざあの銃を選んだんだと、ツアムは疑問に思った。


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