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自己紹介

 太陽が山の稜線の後ろへ姿を隠し、夜の帳が空の大部分を覆い始めた頃、四人は山から村へ戻ってきた。角熊(つのぐま)を一頭退治したという報せは瞬く間に村へ知れ渡り、四人が宿泊する宿屋の女主人も礼を言って四人のギルダーを最大限の手料理で労ってくれた。


 所狭しとテーブルに並べられた料理の上で、四人が改めて自己紹介する。


「僕はナナト。ここからさらに東のトルカっていう村から来たんだ」


 ナナトが笑顔で名乗った。それを受けて銀髪翠眼のツアムが口を開く。


「あたしはツアム。金髪の娘がスキーネで、黒髪の娘がルッカ」


 スキーネが右手の甲を差し出しながら言った。

「助けてくれて感謝します、ナナト。でもこれだけは言わせて。意地っ張りと思うかもしれないけど、あなたの手助けがなくても私はあの熊をやっつけられたわ」


 スキーネは手の甲に口付けする上流社会の挨拶のつもりで差し出したのだが、そのしきたりを知らなかったナナトは、わざわざ甲を横に向けさせてスキーネと握手した。

 思わぬ握手に戸惑うスキーネがおかしくて少し吹き出したルッカは、ちゃんと握手のために手を差し出す。


「正しい名前はクオルッカというんですけど、ルッカと呼んでください」


 挨拶が済んだところで四人は料理に手を伸ばした。


「みなさんはヤスピア出身なの?」


 ナナトの質問に答えたのはツアムだ。

「いや。あたしとルッカは南の国カドキア生まれで、スキーネは(なか)の国ヴァンドリアだ。しかもヴァンドリア国、防衛大臣の三女ときてる。要するに、貴族のお嬢様だ」


 立場がよくわからないといった表情のナナトに、ツアムは最後に付け足した。防衛大臣という役職を知らないナナトは、村長の娘みたいな人かなと考えた。


「スキーネさんは偉い人なんだね。どうしてこんなところまで来たの?」


「スキーネでいいわよ。堅苦しいのは嫌いだし、一応、あなたは恩人だしね。私がここまでやって来た理由はね、家出したのよ」


「家出?」


「そ。お父様が来月行われる国王主催の晩餐会の前に男を引き合わせたいって言い出してね。つまりはお見合いしろと迫ってきたの」


「お見合いとは勘ぐりすぎではありませんか。当主様は単にスキーネ様に知人を紹介したかっただけでは?」


 パンを小分けにして食べながらルッカが言うと、スキーネは首を横に振った。

「いいえ。お父様が紹介しようしたフィバスタ家の次男というのは、兼ねてから私にお目にかかりたいと手紙を寄こしていたの。恋文とまでは言わないまでも、あれだけ文章の端々に私のことを誉めそやす思いを綴っていたのだからそれに近いものね」


 スキーネはぶどう果汁に手を伸ばす。

「お父様の考えはこうよ。十五になっても射撃や狩りに行ってばかりの私になんとか花嫁修業をさせるため美男子を紹介して恋慕の情を抱かせようと企んだの。噂では、フィバスタ家の次男は子供の中でも特に美しい顔立ちをしているっていうし。でもあいにく私はまだ外で冒険したりない。だから引き合わされる数日前の夜に寝室から逃げ出したのよ」


「で、この家出娘を連れ戻すためにあたしがスキーネのご両親に雇われたというわけ」


 ツアムはそう言いながら行儀よく食べるスキーネの額を指で小突いた。スキーネはあう~と大袈裟に首を逸らす。ツアムはその様子を見て微笑みながら言った。


「あたしはフリーのギルダーで、スキーネのご両親とも面識があったんだ。何度か依頼も受けてこともあって、今回も周囲には内密で娘を連れて帰ってくるように頼まれた」


 ナナトはふと疑問に思った。


「でもよく家出した行方がわかったね」


「ああ。それが傑作なんだ」

 ツアムがククッと笑った。


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