地底湖の戦い4
ナナトが言うと、ツアムとスキーネが並び立ち、二人ともリヤカーの方へ銃口を向けた。アンバオも何事かと振り返ると、ちょうどヒュワラーが立ち上がる。手には導火線に火の点いた爆竹が吊るされていた。
「この手はあまり使いたくなかったが仕方がない。お前たちが悪いんだぞ。これから起こることは、お前たちの責任だ!」
そう言うとヒュワラーは近くの壁側の穴に爆竹を放り投げた。破裂音が響き渡り、一拍置いて壁の穴という穴から石鼠が湧いてきた。爆竹の音に驚いて飛び出してきたのだ。
「わっ、気持ち悪い」
スキーネが思わずのけ反り、ツアムと共に壁側から離れた。
「まずいよ! ウサギたちが無防備だ!」
ナナトの一声で、ツアム、スキーネ、ルッカがウサギの集団を振り返った。獲物を認識した石鼠たちが一斉にウサギに向かって直進していく。
「これが目的か!」
ツアムがヒュワラーたちを睨みつける。しかし二人はリヤカーを置いて駆け出し、洞窟の端、ちょうどウサギたちと正反対の方向の壁側の穴へと向かっていた。おそらくは、あの穴が地上に通じる出口なのだろう。
「檻を壊したのはお前たちだ! その人数でウサギを守り切れるかな!」
ヒュワラーが顔半分を振り向けながら大声で叫んだ。ツアムたちが石鼠の駆除をしているうちにこの場から逃げる算段だ。
湖上の氷に立つルッカが悔しさのあまり歯噛みした。率先して檻を壊してしまったのは自分だ。迂闊だった。あの檻は、石鼠から守る措置でもあったというのに。
ツアムは地面に向けて石鼠を正確に狙い撃ち、横にいたスキーネに呟いた。
「スキーネ。散弾だ」
「うん。そのつもり」
スキーネは急いで弾を込める。そしてベルトから散弾の入った袋を地面に投げ置いた。
「ポピル、弾をここに置くからリロードするときに手渡して」
「心得た!」
ウサギ・ポピルは傅くようにスキーネの傍へ寄る。装填の終わったスキーネの銃が火を噴いた。
散弾銃は効果覿面だった。放たれた弾は銃口から飛び出ると同時に二十粒以上の小さな電撃弾となって放射状に広がり、たった一発で五匹以上の石鼠がひっくり返る。ツアムとスキーネは押し寄せる鼠の大群を銃で押しとどめた。
「ルッカ!」
ナナトは湖へ振り返ると、銃口を湖の水面に向けて引き金を引いた。
キン! キン! キン! キン! キン!
およそ三メートルの間隔をあけて、円の形をした氷が直線状に生成された。ゴール地点は、ヒュワラーとアンバオが今まさに向かおうとしている穴の前の陸地まで繋がっている。
「あの二人を捕まえて!」
それだけ言うと、ナナトは再びライフルに弾を装填して鼠の駆除にあたった。ルッカは思わず口元を緩める。気が利く子だ。持っている銃を使いこなす利発さがあり、観察力も高い。三メートルの氷の間隔は、獣化した自分がちょうど跳躍できる距離でもある。洞窟内で見せた壁でのジャンプをナナトは冷静に見ていたのだ。
ルッカは獣化すると目の前の点々とした氷の道を跳んで渡った。ヒュワラーたちが三日月型の陸地を大回りし、さらに地面に開けられた穴を避けながら蛇行して走るのに対し、ルッカは湖の上を最短距離で進んでいく。
やがて陸地に辿り着いたルッカは出口の穴まで駆け、ヒュワラーたちがあと四メートルで辿り着くというところで、その前に立ちはだかった。ヒュワラーとアンバオは突如横から現れたルッカに呆気に取られた表情で立ち尽くす。ルッカは獣化を解きながら二人に対してトンファー型ライフルの銃口を向けた。
「逃げたら引き金を引きます。私に攻撃してきても同様です。どちらを選択しても結構ですが、観念することをお勧めします」
百匹近くもいた石鼠たちは、主にスキーネの散弾銃によって、ほとんどがウサギたちに辿り着くことなく息絶えた。数が少なくなってくると、最終的には石鼠たちはあちこちへ逃げ出し、洞窟はようやく静けさを取り戻す。
「終わったかな」
ツアムが銃口を地面に下ろす。同様にスキーネも警戒を解いた。
「ウサギたちは無事ね。あっちも捕まえたみたいだし」
スキーネの視線の先には、両手を上げて投降の意を示したヒュワラーとアンバオが、ルッカに銃口を突き付けられてこちらへ歩いてくるところだった。
「ツアムさん、スキーネ」
ナナトが穴をまたぎながら二人に駆け寄ってきた。
その頃、戦闘が終わって弾継ぎから解放されたウサギ・ポピルは、倒れている岩土竜の横に落ちていた大きなトパーズを手に取っていた。鎖に繋がれた留め具を外し、松明の灯かりにかざしてみせる。吸い込まれそうな黄色い輝きを見て、ウサギ・ポピルはあることを思いつき、ニヤリと笑みを作った。




