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地底湖の戦い2

 ナナトとルッカは、神出鬼没の地中からの攻撃に神経を研ぎ澄ましてかわしながらなんとか応戦していた。


 地中を移動するモグラは、思っていた以上に素早い。


 一つの穴から出現したところを逃れ、十メートルほどの距離を取ったところまで離れても、五呼吸しないうちに近場の穴から爪を伸ばしてくる。移動速度はまるで水中を泳ぐ魚のようだ。


「防戦一方じゃないか。俺たちもなんとか力になれないか?」


 ウサギ化した村人が寄り固まって心配そうに様子を見守っていた。何匹かは協力してナナトから受け取ったナイフを使い、残りの仲間が捕まっている檻の鍵の破壊を試みている。鍵は壊れて順調に仲間の救出が進んではいるのだが、今の姿ではモグラ退治に手を貸すどころか、この場から逃げることさえできない。


「ひひひ。いい眺めだ。おっと…」


 二人が苦戦する様子を見てほくそ笑んでいたヒュワラーは、リヤカーのタイヤの一方を踏み外して穴へと落とし、リヤカー全体を傾けてしまった。


「なにをしているんだ!」


 走行不能になったリヤカーを元に戻すべく、落ちたタイヤを持ち上げようとするアンバオ。しかし、山盛りに原石が積まれたリヤカーは推定で二百キロを超えており、もはや二人の力では数ミリしか持ち上げることができない。


「駄目だ。重すぎる。少し捨てるぞ」


 そう言って原石へ手を伸ばしたアンバオにヒュワラーが目を剝いた。


「ふざけるな! これは全部持って帰るぞ! ツルハシを持ってこい! の部分をてこにしてタイヤを持ち上げるんだ!」


 ヒュワラーとアンバオはしばらく睨み合ったものの、結局アンバオが舌打ちして不承不承といった態度でツルハシを取りに駆け出した。

 

 ナナトは、考えた。

 すでに五発は電撃弾“青”を撃ち込んでいるのに、モグラの移動速度は全然衰えない。このままではこちらが先に弾が尽きてしまう。起死回生のためには、策を講じないと。

 ナナトは辺りを見回し、そして見つけた。周囲の穴から三メートル以上は離れたところにポツンとある、一か所の穴。

 ナナトは爪の攻撃をかわしたついでにその穴の傍へ駆け寄ると、他の穴が開いてある地面には背を向けて、目の前の穴に銃口を向けてリボルバーライフルの弾を入れ替えた。


 待ち伏せ作戦だ。


 モグラの手のリーチを考えると、他の穴から出たのでは自分には爪が届かない。もしナナトを攻撃したければ、必ずや今、銃口を向けているこの穴から出現するはず。そして姿を現したそのときに、至近距離で電撃弾“赤”を集中砲火する。

 ナナトの様子を見て作戦を見通したルッカは、迎撃を止めて、モグラの攻撃を躱すことに専念した。銃声が響き渡っていた洞窟がモグラの低いうなり声だけになり、やがてモグラの攻撃も止まった。


 しん、と洞窟が静まり返る。しかし最大限の緊張が場を満たす。


 地底湖側の地面に立っているルッカは、トンファー型ライフルを地面に向けて瞬きせずに周囲を警戒する。

 壁側。一つだけ離れた穴に銃口を向けて待ち伏せしているナナトは、今だとばかりに足元の石を拾って、リボルバーライフルの銃身に軽く石を当てた。


 コツ。コツ。コツ。


 音でモグラをおびき寄せているのだ。果たして、三秒と立たないうちにナナトの周囲の地面が揺れ始めた。来る。目の前のこの穴から。直観を肌で感じ取ったナナトは石を投げ捨てると、両手で銃の取っ手を握りしめた。

 突然、ナナトの真下の地面が割れてモグラが姿を見せた。

 地中から、ちょうどモグラの頭突きをくらったように空中へ突き上げられる。予想外の出現に面食らったルッカは喉が裂けんばかりに大声を上げた。「ナナト!」

 空中に投げ出されたナナトは「いたっ!」と言いながら仰向けに倒れると、そぐさま転がって腹ばいの姿勢になる。間一髪、ナナトが倒れていた位置に振り下ろされた爪が突き刺さった。


 待ち伏せは、失敗した。岩土竜いわもぐらは新しい穴を掘って現れたのだ。


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