表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/143

地底湖の戦い

 突然ルッカの体が揺らめいた。

 全体が見える位置に立っていたナナトは、ルッカの周辺だけ地揺れが起きたかのように見えたので、はじめは目の錯覚かなと考えた。だがルッカも何か気配を感じているらしい。その場に立ち止まり、不思議そうに周りの地面を見渡している。次の瞬間、ルッカのすぐ背後にあった穴から毛むくじゃらの茶色い手が見えた。


「後ろ!」


 ナナトが叫び終わったのと、ルッカが跳躍したのはほぼ同時だった。


 今の今までルッカが立っていた場で、脚を薙ぎ払うように切り裂いたのは巨大な生き物の爪だ。生き物は空を切ったその手をすぐに引っ込めると、再び穴の中へ姿を隠した。

 「これを」とだけ告げてナナトは近場のウサギに持っていたナイフを渡す。そしてすぐさま、リボルバーライフルの安全装置を外してルッカの元へ駆け寄った。


「ナナト、今のは…」


「モグラだよ。それも腕だけでルッカの身長を超す、大型のモグラだ!」


 ナナトとルッカは並び立った。


「正式名称は岩土竜いわもぐらという」


 ローブを羽織ったアンバオが静かに告げた。そのアンバオのすぐ近くの穴からモグラが現れる。宝石泥棒たちが石鼠に襲われない理由がこれだった。

 

 上体だけを地面の上に晒したその姿は、顔だけで一メートル近くもあった。両腕の爪は闇を結晶化させたように黒く、五十センチはあり、全身が焦げ茶色の毛で覆われ、目がどこに付いているかわからないにもかかわらず、牙を見せ、敵意を剥き出しにした表情でナナトたちと対峙している。精神状態が高ぶっているのは明らかだった。交戦状態にある肉食獣の状態だ。


「こいつは今、私の命令しか聞かない。そして命令する。この場にいる人間は全て餌だ!どこまでも追いかけ、食ってやれ!」


 アンバオが叫ぶと、岩土竜は驚くほどの速さで巨体を地中へせり出し、別の穴へ頭から潜っていった。その過程でモグラの全長を見たナナトとルッカは、少なくとも五メートル以上はある巨体に息をのむ。

 そしてその大きなモグラの胴体に、鎖が交差されているのをナナトは見た。すぐに地中へ姿を消したが絶対に見間違いではない。ルッカは銃を身構えながら言った。


「ナナト、あのモグラは洗脳されてます。呪術の一種です。体のどこかに呪術師が呪いを込めた呪根じゅこんがあるはずですから、それを取り除けばモグラは大人しくなります」


「一瞬だったけど体に鎖が巻かれているのを見たよ! もしかするとそれかな?」


「それです! 絶対に呪根じゅこんと関係があります。胴体を狙って! 目標は鎖です!」


「わかっ…」


 ナナトとルッカの真後ろの穴からモグラが顔を出し、両手を伸ばして二人を襲ってきた。ナナトとルッカは横方向へ逃れて爪による攻撃をかわすと、ほぼ同時に引き金を引く。銃声が洞窟にこだまし、二人の放った電撃弾がモグラの頭部に直撃した。が、モグラは少しくぐもったうなり声を上げただけで、すぐさま地中へと引き返していく。


「まずいですね…」


 ルッカの独り言がナナトにも届き、ナナトも同様の感想を持った。胴体を狙おうにも、モグラは体の大部分を隠し、顔と手だけを伸ばした状態で地上に攻撃してくる。このまま戦闘が長引けば、こちらの弾が切れるのは時間の問題だ。

 

 同じ頃、遠回りしつつも洞窟の底へと向かっていたツアムたちは、洞窟内に反響する銃声を耳にした。


「ツアねえ! この銃声は」


「おそらくルッカたちのものだろう」


「下の方から聞こえてきた。彼らはもう地底湖に着いたのか?」


「急ごう」


 松明たいまつと銀色の拳銃を手にしたツアムを先頭に、三人は足早に洞窟の奥へ進んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ