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依頼

「これより決闘を開始する!」


 審判役を務める男を間に挟むようにして、大男とツアムが向かい合う。二人とも防弾ケープを脱いだ姿だ。


「弾は一発! 銃に込めろ!」


 二人はお互い相手の拳銃に一発しか弾丸がないことを確認して装填する。大男がツアムを見下ろしながら言った。


「降参するなら今のうちだぜ? “青”弾とはいえ、防弾衣ぼうだんいなしに受けりゃ一時間は痺れてまともに動けないうえにアザが一週間は残る。その白い肌に傷を付けたくねえだろ?」


「一週間も? それは知らなかった。決闘で相手の弾を食らったことがないんでな」


 大男は舌打ちする。

 ナナトは不安げに決闘の様子を見つめていた。


「心配することないわよ、ナナト」

 ナナトからみて右隣に立ったスキーネが呟いた。その表情には驚くほど不安の色が見当たらない。


「十秒後にあのヒゲモジャはツアねえに喧嘩売ったことを後悔することになるから」


 今度は左隣に立っているルッカが口を開く。

「ツアム様の腕前をよく見ていてください」


 ナナトには二人がどうしてこんな冷静でいられるのか全然わからない。


「二人とも銃を腰に差し、互いに背を向けて!」


 向かい合っていた大男とツアムは背を向けた。


「十歩進んだ地点で決闘の開始とする! 一!」


 二人が進行方向に一歩ずつ進み、距離が離れた。


「二!」


 三歩、四歩と二人は歩みを進めていく。ナナトの心臓が高鳴る中、ついにカウントは九を迎えた。そして。


「十!」


 先に反応したのは大男だった。身を翻して腰のホルスターに下げられたリボルバーを握る。

 だが大男の目に飛び込んできたのは、自分に向けられている銃口だった。

 ツアムは振り返らない。

 相手に背を向けたまま、右手で腰から抜いた銃を左脇の下から大男に銃口を向ける。

 背面撃ち。

 大男がそう思った刹那、銃声が響いて胸に激痛が走った。

 ツアムの放った銃弾を受け、大男はその場で地面に倒れ伏す。見ている人間は数秒間、何が起こったのか理解できず唖然としていた。時間と共に銀髪の娘が勝負に勝ったとわかると驚きの声がわき、やがてそれは歓声へと変化する。

 スキーネが笑顔でナナトの肩に手を置きながら言った。


「どう? 凄いでしょ! あれがツア姐の得意技、ノールックショット(見ず撃ち)よ」


「背を向けたまま撃ったの?」


「そう。あんなことができるのは軍人、ギルダー含めツアム様だけ。ヴァンドリアでは知る人ぞ知る拳銃の名手なのです」

 ルッカも誇らしげに説明した。


「う…ぐ…」


 声にならない声を上げて痛みに耐える大男。地面の乾いた匂いと、すぐ目の前の砂しか近くに感じられない。だが前方から近づいてくる足音に目を向けると、銀髪の娘が自分を見下ろしていた。


「ま、まぐれ勝ちだ…偶然…当たったに過ぎねえ…」


 脂汗をにじませながら声を絞る。頭の上からかかってきた返答は意外なものだった。


「そうだな。今日はあたしに運があった」

 ツアムは持っていたリボルバーを逆さにして大男の目の前に置く。


「あんたとは二度と闘いたくない。もし次にどこかで出会ったときはお互い関わらないようにしよう」

 それだけ言うと、ツアムはその場から立ち去った。


 そして応援していたナナトたちと合流する。スキーネは観客に劣らないほど大喜びした様子だ。

「さっすがツア姐! やっぱり私の憧れはあなたが一番よ!」


「お見事でした」

 笑顔で迎えたルッカだが、すぐさま疑問を口にする。

「ですがどうして運が良かったなんて言ったのですか? 何度やっても同じ結果になると伝えてやればよかったのに」


「そしたら遺恨が残るだろう。女の嫉妬は無視していれば自滅してくれるが、男の嫉妬はやたらと絡んでくるから厄介なんだ。まぐれ勝ちだったと顔を立ててやれば諦めやすくなるのさ」


「ふ~う慣れてるのね」


 上機嫌になったスキーネは、先ほどのノールックショットを真似しながらナナトに近付いた。


「私も当ててみたいなあ、ノールックショット。相手が自分の後ろの直線上にいるとわかってても弾は一発しかないのよ? しかも自分も相手も歩いているうち微妙にズレてくるかもしれない。そんななかでナナト、あなたツア姐の真似できる?」


 スキーネに問われてナナトはブンブンと首を横に振った。

「できないよ。ツアムさんは技術も勇気も本当に凄い」


「練習次第で誰でもできるようになるよ」


 歩き出した四人は酒屋の表側の通りへとやって来た。


「これからどうするの、ツア姐? 弾薬を補充してから村を出る?」


「そうだな。次の町まで…」


「あの、すみません…」


 突然、話の途中で四人は背後から声をかけられた。振り返ってみると若い女性が立っている。歳は二十代前半ぐらい。黒字に青の花柄の入った衣装を襟元から左、右と交差させた着込み、上半身に合わせた色のロングスカートに波模様の前掛けをしている。一目見てこの村の人間ではないとわかる民族衣装だ。


「先ほどの決闘、拝見しました。あなた方はギルダー…なんですよね?」


 ツアムが代表して「そうだ」と肯定すると、その若い女性は苦悶の表情で願い出た。


「お願いです! どうか私の村を助けてください! 男たちが呪いにかけられて、いなくなってしまったんです!」


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