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橋の前の戦い4

 針で突き刺したような痛みに堪えつつ、スキーネは自然と目が潤んできた。


 涙する理由は痛みもそうだが、それ以上に悔しさのためだ。ポピルの身が心配だから手を貸したいと自ら危険地帯へ飛び込んだのに、手助けするどころか足手まといになるなんて。


 自分の非力さ、不甲斐なさがただ悔しかった。ポピルが大人しく倒木から姿を現せばきっと私たちは殺される。生かしておく理由が何もないのだから。仮にポピルが自分を捨てて…絶対にそんなことはしてくれないだろうが、見捨ててくれたら少なくとも今日この場で死ぬのは私だけで済むのに。


 モネアは人形の髪を掴んで持つかのように引っ張り上げる。あまりの痛みに目を開けていられないほどだ。だがスキーネは奥歯を強く噛んで決して声を上げなかった。情けない命乞いや悲鳴などこいつらに聞かせてなるものか。それだけが今の自分にできる精一杯の抵抗だ。


 涙ににじんだ視界の奥で、三十メートル先の倒木の裏からポピルが立ち上がり、倒木を飛び越えて着地したのが見えた。ポピルはおもむろにチャージ・ライフルを下げている紐を肩から外すと、安全装置をかけ、モネアに向かって思い切り投げる。ライフルはポピルとモネアのちょうど真ん中。十五メートル付近の地面に落とされた。


 モネアの口角が上がるのがわかった。


 スキーネは目を瞑る。まなじりから流れた一粒の涙を、雨が覆い隠した。


「ポピル…ごめんなさ…」


「スキーネ!」


 喉が破けんばかりにポピルが叫び、スキーネは思わず閉じた瞼を再び上げた。


「これから走ってそいつを殴る! 撃たれないよう、なんとかしてくれ!」


 言下に、ポピルはモネアへ向かって全速力で駆け出した。一歩一歩大股で弾むようにして彼我の距離を潰していく。速い。あっという間に投げ捨てたチャージライフルの横へ来た。


「な…止まれっ!」


 予想外の行動に狼狽したモネアがダックフットピストルをポピルへ向ける。しかし撃たずに再びスキーネの顔へと向けた。


「撃つぞっ! 止まれっ!」


 その瞬間スキーネは見抜いた。

 このダックフットピストルは一度に四方向へ同時に撃つことができるものの、弾の装填に時間がかかるのだ。ポピルかスキーネ、どちらかしか倒せない。


 森に隠れたモネアの部下たちが一斉にポピルへ射撃を開始した。空気を切り裂く弾の音がポピルの耳に届き、腕と足の至る所に蜂に刺されたような痛みが広がる。


 だがポピルは止まらなかった。モネアまで残り五メートルを切ったところで握り拳を固めて腕を引く。


 モネアは慌てた様子でダックフットピストルをポピルに向けた。だが、スキーネがモネアの腕に飛びついて照準をずらす。


 ダン!


 モネアのピストルから放たれた弾丸がポピルの首に擦傷を作った。


「おおおあああ!」


 渾身の力を込めて放った拳が、モネアの顔を直撃した。


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