判断
「モネア様! いいんですか? せめてあいつらが逃げた先を確認すべきでは?」
四人のうち部下の一人が、早歩きで工場を後にするモネアの背中に告げた。すでにモネアは銃をしまい、盾を籠手のように右手へ装備して歩を進めている。
「もしあそこが行き止まりの部屋だとすれば炙り出すのは容易です。ここは旧市街。銃の発砲は日常茶飯事でまだ人がやってくる様子はありません! 命令を頂ければ、俺たちだけでも奴隷を取り返してきます!」
「くどいですねえ。私が“いい”と言っているのです」
モネアは歩く速度を緩めない。
「奴隷一人のためにかける労力としては釣り合いが取れません。奴らがあそこに留まろうが逃げ延びていようがもう関わるだけ損です。早急にアトラマスへ帰還します」
モネアが宣言し、部下たちはそれ以上何も言わなかった。モネアは、部下に聞かせるというより独り言のように呟く。
「常に損得勘定を忘れないことです。そうですね。仮に奴らが一千万リティを持っていたとすれば、奪うついでで殺して差し上げたでしょう。儲けの出ない事柄に時間をかけるのは馬鹿がすることです」
しばらく街を歩き、モネアは馬車へとやって来る。そこには二人の部下と馬車の御者、そして奴隷たち三人がそれぞれ馬を用意して待機していた。
モネアに気付いた御者が恭しい態度で頭を下げ、馬車の扉を開けてタラップを下ろす。馬車に乗り込む前に、モネアが御者に命令した。
「今日中にヤスピアを出ます。再びウスターノから砂漠経由でアトラマスへ」
御者は頷いた。
馬車へ乗り込んだモネアはベルトを外して銃を向かいのシートの上へ置く。眼鏡を外し、コートの内ポケットから白いハンカチを取り出して眼鏡のレンズを拭いて再び顔に掛けると、おもむろにポケットから汚れた金貨を取り出してハンカチで磨き始めた。




