工場の戦い4
ナナトは隙を突いて工作機から移動して後ろへ下がり、ルッカが身を隠している剥がれた皮の束の裏へと回り込んだ。
「撃たれてないですか?」
「うん、僕は大丈夫」
だが状況はこちらの劣勢だ。ぐずぐずしてたら再びモネアが爆発する弾をこの付近に落としてくる。
「ルッカ、ディーノの救出を頼めるか?」
四メートルほど離れて水瓶の後ろに隠れているツアムがナナトとルッカに聞こえるよう声を絞って囁いた。ルッカはツアムの言わんとすることを理解する。ルッカのトンファー型ライフルは近距離で真価を発揮する武器。ディーノの救出を頼むということはつまり、敵陣に切り込めということだ。
ルッカはツアムに向かって小さく頷いた。
「ナナトと私で盾男の注意を引き付ける」
そう言って、ツアムはボーチャードピストルを握り直した。ルッカの横にいたナナトがツアムに呼びかける。
「ツアムさん」
ツアムが顔を向けると、ナナトは天井へ向かって指を差した。ツアムが見上げると、十メートルほどの高さのある天井にはそこかしこに穴が開き、曇った空が見えている。壁と床は石造りだが、屋根は木の板が敷かれているようだ。ナナトは天井を撃てとツアムに伝えている。
ナナトには考えがあった。自分の意図が伝わったと察したナナトは、リボルバー・ライフルのシリンダーを開けて空の薬莢を取り出し、腰掛け鞄から別の弾と入れ替え始める。
「降参ですか? 大人しく出てくれば見逃しますよ。この弾は高いんです。これ以上の出費はできれば控えたい」
モネアは盾を最長の状態から一段階収納して持ち運びやすくした状態で一歩一歩慎重に前へ進み、ナナトたちへと近付いていく。
投降を呼びかけた今の言葉は半分が事実だった。
これ以上、こんな奴らとの戦闘に貴重な弾を使いたくはない。だがもう半分は嘘だった。モネアの言葉を鵜呑みにして遮蔽物から体を晒せば、即座に電撃弾“赤”の弾が込められたピストルで命を取る。
突然、ツアムが隠れている水瓶の裏から連続で銃声が鳴り響いた。すかさずモネアは盾を伸長し、再び全身を覆い隠す。だがツアムの撃っているのはこちらではなかった。頭上で音がしたのでモネアが見上げると、高い天井から木の破片が落ちてくる。
「ちっ!」
モネアは盾ごと移動しながら落ちてきた破片を避けた。拳ほどの大きさをした木片が床に当たる。頭に当たったところで致命傷を受けることはないだろうが、モネアは自前のコートが汚れるのを嫌がった。そこへナナトが銃口を向け、射撃する。
キン! キン! キン! キン!
弾はモネアの盾に全て当たった。
愚かな奴だ、とモネアは相手の考えを読む。
間髪入れずに盾へと攻撃すれば衝撃で体のどこかがさらけ出す、と考えているのだろう。
自分に攻撃してくるこいつは金の力を知らない。最先端の素材と最新の技術でもって製造され、五十センチ、百センチ、百五十センチの三段階を意のままに伸長、収縮できるこの可変式盾は一見すると金属製に見えるが、実は極めて硬度な木材が主材料となっている。金属に比べて非常に軽く、それゆえ銃撃の衝撃をくらっても持つ腕が痺れてくるといったこともない。
こういった戦法を取る相手とは過去にも何度か戦った。盾の一か所だけを集中的に攻撃し、踏ん張るために腕力を振りぼることだけを意識を向けさせ、盾から体の一部が出てしまうという隙を狙っているのだ。だがこの盾には通用しない。どれだけ撃ち込もうとも盾を支えるのは容易だし、大砲クラスの威力でもなければ貫通も叶わない。
せいぜい弾の無駄遣いに勤しむがいい。




