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騒ぎ

「お客さん。こちら、あの方からです」


 ウエイターがそういってツアムの前に運んできたのは、淡いピンク色をしたカクテルだった。


「チェリー酒を使った当店自慢のオリジナルです」


 誇らしげに言うウエイターに対し、ツアムはケープの下からお金を出してお盆に載せた。


「お礼にあの方へウイスキーを一杯」


 酒をおごってくれるという相手に対し、好意に甘えて飲んでしまえば直接その相手に礼を言いにいかなければならないが、こうして返せばそれは「あんたらとは飲まないよ、悪いね」という返事になる。酒場ではこういったやり取りの意図は誰しも心得ていることだ。

 大男はウエイターがお盆に載せてきたウイスキーを見ると、不機嫌をあらわにして一気に飲み干した。そしてツアムへと近づいていく。


「嬢ちゃん、俺の酒には手をつけてくれねえのかい?」


 見ると、ツアムはカクテルに指一本触れず、キウイを食べ終えたところだった。


「悪く思わないでくれ。酒は夜にしか飲まないと決めているんだ」


「なら夜になるまでここにいればいい。こっちへ来いよ。見ての通りうちの面子めんつは野郎ばかりでむさ苦しいんだ。ちょっとばかり話に付き合ってくれりゃこの飯代は俺が持つぜ」


「あいにく食後はすぐに村を出る予定になっててな」


「予定を変えりゃいい」


「そうはいかない」


 取り付く島もないツアムに対して、しびれを切らした大男がツアムの肩を掴んだ。


「ちょっとぐらいいいだろ? なんならそっちの二人も一緒に来てくれたっていいんだぜ」


 大男は口角を上げながらスキーネとルッカを見た。ねぶるような視線にスキーネは思わず身震いする。


「離してくれないか。食事も済んだし、あたしたちは店から出る」


 ツアムは肩に乗った手をどけようとしたが、大男はそれなりの力を込めていて席を立たせようとしない。


「ねえ、もうやめなよ」


 そのとき、いつの間にか席を立っていたナナトが大男の反対側の手を掴んで言った。


「ツアムさんが嫌がってるのはわかってるんでしょ? 人に好かれたかったら嫌がることしちゃ駄目だよ」


 ナナトの抗議の目に、大男が舌打ちする。


「ガキは大人しく外で遊んでろ、よ!」


 大男はナナトの手を払いのけると、その手で頭をはたこうとする。しかしそれは空を切った。ナナトが素早くしゃがんでかわしたのだ。


「お? てめ、この!」


 癇に障った大男は両手を繰り出してナナトの頭を叩こうとするが、ナナトはこれを全部かわして当てさせない。さらに追撃しようと大男が詰め寄ってくると、距離を開けるためにナナトは手近にあったイスを二人の間に挟んだ。

 ガン、という音がしてイスが大男の脛に当たり、大男は呻いてうずくまる。その一部始終を見ていた大男の仲間たちは声に出して笑い出した。


「あ~あ、あしらわれちゃって。酔いすぎじゃねえのか大将!」


「女の目の前でみっともねえや!」


 ナナトは心配になって大男に近づいた。


「ごめんなさい。大丈夫?」


「っ! このガキ!」


 恥をかかされ、顔を真っ赤にした大男はナナトの胸倉をつかむと片手で持ち上げた。ナナトの脚がブラブラと地面から離れる。そして反対の手で握りこぶしを作って引いた。


「お仕置きだ!」


 ダン!


 ツアムの抜いた拳銃が火を噴き、大男とナナトの顔の前を通って天井に穴を開けた。途端に男たちの顔から笑顔が消え、各自が銃を構えて一斉にツアムを向ける。ツアムはもう撃つ気はないばかりに拳銃の銃口を天井に向けた。

 しんと店内が静まり返る。

 大男はナナトを下ろすと、穴の開いた天井を一瞥し、次いでツアムの前に体を向けた。


「酒場で銃を撃つことがどういうことかわかってんだろうな、嬢ちゃん? 俺たちと喧嘩しようってんだな?」


「あんたたちとじゃない。あんたとだ」


 ツアムが冷静に言った。


「この一件、発端はあたしとあんたにある。だから一対一の決闘で勝負を決めよう。それとも保安官を呼んで仲裁を頼もうか?」


 大男は考えるようにアゴを撫でた。


「この村に保安官はいねえ。かといって隣の町からわざわざ呼んでくるのも億劫だ。いいだろう、その決闘受けて立つ。俺が負けたら、先に銃を抜いたことは水に流してやるよ。だがもしお前が負けたらどうする気だ? 謝るから許してくださいじゃ済まねえぞ?」


「わかってる。そうだな…」


 ツアムは一度逡巡する様子を見せてから言った。


「あたしが負けたら、今夜一晩あんたと付き合おう。それでどうだ?」


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