アジトの前で
ナナトとポピルは草むらから草食獣を狙う肉食獣のようにダーチャのアジトの入口を見張っていた。
ディーノと別れてから建物の様子は何も変わらず、人の出入りは見られない。本当に人が住んでいるのかと疑うほどだ。ゴミ缶の悪臭に耐えかねてポピルが呻きだした。
「鼻が曲がりそうだ。ここに来てからどれぐらいが経ったと思う?」
「二十分ぐらいじゃないかな」
「だよな。気分としてはもう半日いる心地だが」
ポピルが空を見上げた。
「雨でも降ってくれれば、多少は匂いが収まるかな」
「誰か来る」
ナナトが気付き、ポピルが顔を下ろした。二人はライフルを手に持ち、そっと様子をうかがう。ダーチャのアジトの前に二人の男が歩いてやってきた。前を歩く小柄な男は上機嫌な表情で見覚えのあるライフルを持ち、後ろの腕が太い大柄の男は一人の小柄な女性を担いでいる。女性は手足を縛られ、口に猿ぐつわをくわえているようだ。体をよじって暴れようとするものの、男の手からは逃れられないでいる。髪の色はブロンドで一つに結われ、身なりのいいその出で立ちは…。
「スキーネ!」
ナナトとポピルは同時に気が付いた。思わず声が漏れてしまったものの、アジトの入口まで五十メートルは離れているので男たちには気取られなかったようだ。男たちはアジトの中へと入っていく。
「どうしてスキーネが…どうしよう、ポピル!」
「どうやら拉致されたようだな」
ポピルが歯噛みした。
「今すぐ助けに行きたいが、建物の中の様子がまるでわからない。敵がうじゃうじゃいたら助けるどころか俺たちだって捕まってしまう」
「ツアムさんたちは無事なのかな?」
ナナトが心配した表情で言うと、ポピルはそうだと気が付いた。
「ナナト、宿屋までの道のりは覚えているか?」
「う、うん。覚えてるよ」
「なら宿に戻ってツアムの姐御たちを連れてくるんだ。俺はここで見張っている。俺は道順を忘れたから」
「わかった。すぐに行ってくる」
「頼んだぞ」
曇天の下、ナナトは路地裏から出て大急ぎで道を駆け出した。




