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ポピルを追って

「失礼。このあたりでライフルを背負った男の子たちを見なかったかしら?」


 ナナトたちの行方を追うスキーネは、対向から歩いてきた中年の男に尋ねた。男は肩をすくめてみせる。


「いや見なかったね」


「そう…どうも」


 スキーネは途方に暮れて辺りを見回した。


 完全に三人を見失ったわ。


 すぐに追いつけると思ったのが甘かったのかもしれない。宿の窓から見下ろしたナナトたちの行く方向におおよそ見当をつけて歩き出したはいいが、影も形も見当たらず、闇雲に歩き回るほかなかった。何本もの大通りを横切り、路地を回りこむうち、段々と街の様子が寂れた様相に変化してくる。賑わっていた人通りもいつの間にかなくなり、開いている店もないこの薄汚れた通りにはポツポツとしか往来人がいない。今の周りの風景は、まるで廃れゆく街のようだ。


 迷子を自覚したスキーネは、次に会った人にナナトたちのことを聞いてわからなければ宿に引き返そうと心に決め、路地に座り込んでいる初老の女性に声を掛けた。


「失礼。ライフルを背負った男の子たちを見なかったかしら? こんなふうに」


 スキーネは自分のライフルを女性に見せた。女性は道端に座って酒を飲んでいたようで、茶色い液体の入った瓶を手に持ちながら虚ろな目でスキーネを見上げる。


「ああ、男の子ね、見たよ。そこの道に入っていった」


 女性が近くの路地を指差した。駄目もとで訊いたスキーネだったが吉報を聞いて表情を明るくする。


「本当に? 二人の男の子たちの他に成人の男性もいた?」


 女性は考え深げに空を見つめる。


「いた…かな? ああ…そういえば三人いた気がする。どれ…そこまで案内しよう」


 女性は重たそうに腰を上げて立ち上がり、路地へ向かって歩き出した。その背中を追いながらスキーネが感謝の言葉を投げかける。


「どうもありがとう。持ち合わせはあまりないのだけれど、少しばかり謝礼を支払うわ」


「期待しとくよ」


 女性が背中越しで答える。スキーネは歩きながら無意識のうちに髪を整え始め、すぐに身づくろいをした自分に気が付いて戸惑った。


 なにをいまさら改めようとしているのかしら。ただ一言、謝るだけじゃない。


 きっとポピルは私の失言について忘れている。いや、そもそも失言と受け取らなかった可能性だってある。謝っても唖然した顔を見せてすぐに“気にすることはない”と言ってくれるだろう。そこまでわかっていながらもやはり口に出して謝りたかった。でないと私は、私を許せない。


 路地に入ってからも意外と歩くことに、スキーネは当初何も思わなかった。


 だが女性の後ろを歩くうち、周りの景色はより汚く、より人が少なくなっていく。五分ほど歩いて疑問に思ったスキーネが女性に後ろから尋ねた。


「ねえ、まだ歩くの? 本当にここに…」


 突如、太い腕が後ろから伸びてきてスキーネの口を塞いだ。驚いたスキーネが叫び声を上げようとするも声が出ず、さらに体に腕を回されて拘束される。背の高い大柄な男に後ろから羽交い絞めにされているようだ。


 前を歩いていた女性が振り返り、下卑げびた笑みを見せた。


「ひひひ。連れてきたよ。上玉だ」


 どこからともなくもう一人の男が現れ、スキーネに近付いてくる。


 スキーネは力一杯もがいたが、背負ったライフルに手を回すことさえできない。迂闊だった。半獣人であるルッカならこの状態からでも拘束から抜け出せるかもしれないが、ヒトである十五歳の女の力ではどうやっても男の腕力に敵わない。


 スキーネの声なき悲鳴は、路地裏の影に飲み込まれた。


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