アジト
ポピル、ナナト、そしてディーノの三人は宿屋を出てから三十分ほど歩き、旧市街のダーチャのアジトの前へとやって来た。
ポピルの提案で三人はアジトの前を通り過ぎ、近くの路地裏へと身を潜める。袋小路の狭い路地裏だ。ゴミを集める大きな缶があるところを見ると、どうやらゴミ捨て場らしい。悪臭がひどい分、周りに人はいないので、三人はゴミ缶の後ろへと移動し、五十メートルほど離れた通りの斜め向かいに見えるアジトの入口をそっと覗き込んだ。
「変だな。門番がいない。俺が朝連れてこられたときには武骨な二人が立っていたのに」
ディーノが言うと、ポピルが訊いた。
「あの建物の中にモネアがいるんだな?」
「いや、実際に入ったところを見たわけじゃない」
ディーノが説明した。
「俺たちは昨日の晩、この街から出た西にある大きな橋の前で野営したんだ。今朝早くに起こされた俺は、モネアの部下四人を連れて一足先にこの街へと入った」
♢♢♢♢♢
タズーロの街へ入ってから、ティーノたちは即座に旧市街へ赴いた。
ディーノは馬の手綱を引きながら先頭を徒歩で歩かされ、馬に乗ったモネアの部下四人を引き連れていく。ディーノが連れてこられた理由は、小間使いとして使役されるのと同時に、万が一、誰かしらと銃撃になったときに盾代わりにされるためだ。
ディーノの首には革製の首輪が締められ、その首輪には縄がつけられていて、先頭の馬に乗ったモネアの部下が奴隷を逃がさないようしっかりとその縄の先を握っている。据えた匂いが充満する早朝の旧市街を五人は練り歩いた。
ディーノは店を開ける準備をしている主人の背中から近付いて、モネアの部下からの指示さらた通りに質問をした。
「ダーチャが住んでいるところはどこだ?」
店の主人は面倒そうにディーノを振り返ったが、ディーノの背後にいる馬に乗った強面の四人の男たちを見て怖気づき、指を差してアジトを教えた。
こうして道を尋ねながらついにダーチャのアジトの前へ辿り着いた五人は、入口の扉を守っている門番の前で止まった。ディーノの首縄を握っている先頭の男が馬上から門番に話しかける。
「ダーチャ氏は今日ここにいるか?」
門番が警戒して睨み返した。
「誰だお前ら?」
「客人をダーチャ氏と会わせたい。もしいないのであれば出直すが」
門番は考えあぐねた末、ぶっきらぼうに言い放つ。
「お頭なら中にいるぜ。で、誰が会いてえんだ?」
「ここにはいない。今連れてくるから一時間ほどダーチャ氏に待っているよう伝えてくれ。おい、行くぞ」
部下はダーチャの在を確認して満足し、モネアの元へ戻ろうとする。
今だ!
ディーノは首輪についている縄を両手で掴んで思い切り下へと引っ張った。縄を握っていたモネアの部下は、突如、大きな力が加えられてバランスを崩し落馬する。その拍子で手から縄を放すところを見たディーノは、すぐに駆けて逃げ出した。
「くそがっ! 奴を捕まえるぞ!」
落馬した男が息巻いたが、二番目にいた男が制する。
「待て! 一人はモネア様を迎えに行くんだ! 奴隷を連れ戻すのは三人いれば十分だろう!」
こうして四人いたモネアの部下のうち、一人がモネアの元へ向かい、三人がディーノを追いかける。
ディーノは一度も振り返らず、脚がちぎれ心臓が破れても構わないという覚悟で必死に逃げた。人通りの多い道へ行き、助けを求めたかったが、不案内な道を行きあたりで進むのは袋小路に入ってしまうのが怖かった為、逆に街から出て、近くの森の中へと駆けていく。




