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出陣

 ツアムからの予想外の答えにスキーネの表情が凍りついた。


「駄目って…どうして?」


「危険だからだ」


「そんなのわかりきったことじゃない!」


 スキーネが声を上げて抗議した。


「相手は懸賞金を懸けられた犯罪者なのよ? 関わった犯罪は数知れないし、ここで逃せば他の場所でまた罪を犯すかもしれない! いえ、きっと犯すに決まってるわ。私たちがここで食い止めなくちゃ」


「あたしたちが戦う必要はない。この街にいてる保安官に事情を説明すれば済むことだ」


「それは駄目だ」


 ポピルが即座に否定した。


「時間が惜しい。モタモタしてたらモネアが街から逃げ出してしまう。すぐに行動を移さないと」


 ツアムは微動だにせず口を動かした。


「いずれにしてもあたしの仕事はスキーネ、お前を無事な姿のままで家へ送り届けることだ。家に帰る道すがら物見遊山するのは結構だが、それも全てお前に怪我を負わせない前提であたしは動いている。やむを得ず戦わなければならない状況ならともかく、自ら賞金首の犯罪者を捕まえるために命の危険を冒すのは同意できない」


「なによそれ…私と一緒に旅をするのは、ツアねえにとって子守をしているようなものだというの?」


「…そう受け取ってくれて構わない」


 スキーネは悔しそうな顔でツアムを見つめていたが、隣にいたルッカを振り返った。


「ルッカ! あなたなら私に付いてきてくれるわよね?」


 ルッカは憂いに満ちた瞳で弱々しくかぶりを振った。


「残念ですがスキーネ様。私もツアム様に賛成です。もしものときは体を張ってでもあなたをこの部屋から出しません」


「そんな…あなたまで…」


 一連の会話を見ていたポピルがスキーネに話しかけた。


「スキーネ。ツアムの姐御あねごの言う通り、君はここで待っていてくれ」


 スキーネは驚いてポピルを見た。


「どうして…」


 ポピルは視線を落として自分の拳を見つめながら語る。


「はっきり言って、敵は強い。ベネアード一派の幹部を任さているのは相当に腕が立つからだ。幹部五人は特定の武器や道具の扱いに長け、それぞれが異名を持っている。保安官たちの援軍に頼りたくないのも、安易な功名心で奴に近付けば犠牲者が増えるだけだからだ。俺は負けるつもりはないが、正直、戦いの中で君を守りきる保証はできない」


「だからなおのこと助けがいるんじゃない!」


「スキーネ…」


 ポピルは自分の拳から顔を上げてスキーネを見つめた。その目つきは、意外なほど優しい。


「俺は、奴らにある日突然両親を奪われた。君にもしものことがあった場合、最も悲しむのは君のご両親だ。最期の挨拶なんてしていないだろう?」


 スキーネは思わず押し黙った。ポピルが優しい口調で続ける。


「当然だ。俺だって十か月前のあの夜が最後の会話になるなんて思っていなかった。もし最後と分かっていれば、もっと話したいことや聞きたいことがたくさんあったのにと今でも思う。スキーネ。俺は君に、俺のような後悔をしてほしくないんだ」


「……ずるいわよ。そんな言い方…」


 スキーネが力なくベッドに座り込んだ。


「僕は行くよ」


 ナナトが声を上げた。


「ディーノさんと同じような目に遭っている奴隷を助けてあげたいんだ。僕のことは止めないよね、ツアムさん? 仕事とは関係ないんだし」


 ナナトは窓際のツアムを見た。


 一瞬、ツアムがとても悲しそうな表情をした、ようにナナトは見えた。瞬き一回ほどの速さで浮かんで消えたので見間違いかもしれないと思ったが、ナナトには確かにその顔が見えた。


「…ああ。止めないよ。止める権利はあたしにはない」


「いいのか? ナナト? いくら言っても言い足りないほど危険な相手だぞ」


 ポピルが怖い顔で確認してきたが、ナナトの決意は動かない。


「わかってる。覚悟してるよ。なによりポピルを一人で行かせるのが心配だからね」


 ポピルはじっとナナトの目を見ていたが、納得したように頷いた。


「恩に着る。この先なにがあっても俺はお前の味方になるからな」


 ナナトとポピルが同時に立ち上がった。


 準備にはさほど時間を要さなかった。持てるだけの弾を持ち、ナナトは防弾ケープを、ポピルは防弾ポンチョをそれぞれ羽織ると、ディーノと共に部屋の入口へ向かう。


「全てが終わったら、またこの部屋へ戻ってくる」


 ポピルはそれだけ告げると、ドアの取っ手を握った。


「二人とも気を付けてな」


 ツアムの言葉に見送られ、三人は部屋を出ていった。


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