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略奪の跡

 放たれた火は、丸一日の間、収まらなかった。


 略奪と殺戮の限りをつくしたベネアード一派が村から引き上げたのは襲撃から半日が経った頃だ。だが火は収まっておらず、残党が村にいるかもしれないことを恐れ、逃げ出した村人が焼けただれた村へ戻って来たのは襲撃から二日目の朝になってからだった。


 ポピルは弟のパピフを連れ、見るも無残な姿と化した村の中を歩き進んだ。


 多くの家は黒く焼け落ち、辛うじて全焼を免れた家も略奪の跡が見て取れ、至る所に遺体が転がっている。遺体の中にはつい数日前、ポピルと一緒に元気よく遊んでいた同年代の友人の姿もあった。火災に巻き込まれて全身大火傷で亡くなった者、盗賊の銃撃を浴びるようにくらって息絶えた者など死因は様々だが、みな一様に苦しんだ表情のまま固まっている。ポピルは吐き気を我慢しながら酸鼻を極める状況を見回した。


 殺された皆は、死ぬその瞬間どれほど怖かったことだろう…。

 どれほど、悔しかったことだろう…。


 ポピルの両親の遺体は、村の中央にあった。


 父親ゴラスは銃弾を胸に浴びて仰向けに大の字となって地面に倒れ、母親レドナは、その投げ出されたゴラスの手を握ろうとしたかのように、ゴラスのすぐ横で、片腕を伸ばした状態でうつ伏せのまま息絶えていた。その様子から、二人の死の瞬間は容易に想像がつく。おそらく先に凶弾に倒れたのは父親ゴラスだ。母親レドナも近くにいて奮戦したのだろうが、ついには致命傷を受け、最期は夫の傍で死にたいと這いつくばって地面を進んだのだが、途中で力尽きたのだ。


 生きているゴラスとレドナの最後の姿を見たのは、村の村長だった。村長は落涙しながら当時の状況を語った。


「儂が連中に連れていかれるところを、お前たちの父親と母親の二人が突入して救い出してくれた。儂が逃げおおせれたのは、村の隠し財産を知っていたため連中が殺すのを躊躇ためらったからじゃ。いや儂だけじゃない。ゴラスたちがその場で盗賊たちと戦い、注意を引き付けてくれたおかげで何十人もの村人が逃げることができた…」


 村長は声を震わせた。


「六十の儂が生かされ、若者が死ぬとは…儂が…死ぬべきじゃった…」


 ポピルとパピフは、父親の遺体の前に立った。


 物心ついたときからいつでも優しい瞳を向けてくれた父親の眼球は今、曇天を映すただのガラス玉となっている。泣きじゃくる弟パピフの肩に手を置き、ポピルは静かに語った。


「誇りに思うんだ、パピフ。父上と母上は英雄だった。自分たちだけ逃げることだってできたのに、村の保安官として、命を懸けて大勢の人を救うことを選んだんだ。誰にでもできることじゃない。二人の血を引いていることは俺たちの誇りだ。だからパピフ…もう…泣くな!」


 そう告げるポピルの目からは、大粒の涙がこぼれていた。


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