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4.行き先変更

 西大島の運転は、何も危なげなところがない。舗装されている車道の凸凹がほとんどないせいか、ハンドルを取られるような場面もなかった。それに車の性能が良いからかも知れないが、エンジン音がごく静かで誰もが眠気を誘う。実際、運転席の真後ろにいる菊川は早くも熟睡モードに入ろうとして、こっくりこっくりと船を漕いでいた。


 篠崎は初対面の執事が右にいるので、何か失言なり粗相でもしようものなら執事の口から部長の耳に入るから気をつけなければという緊張感に包まれていて、ずっと前方を凝視したまま眠るどころではなかった。あの山のどの辺りに行くのだろうか、それとも山を迂回するのだろうか、と一人で勝手に推理を働かせたが、それはこの緊張感から逃れたい一心で気を紛らわせていたのである。


 曙橋は左の窓から後方へ飛ぶ景色の中から、畑の作物の種類や生育具合に興味を()かれ、ほとんど瞬きせずに見つめていた。



 車が山に近づいて上り坂を進み始めると、舗装状態も悪いのか、さすがに西大島のハンドルを持つ手に力が入る。


 しばらく行くと、斜め左方向に密集する樹木の隙間から、尖塔がいくつもある古風な城の一部が見え隠れし始めた。


 篠崎は、一之江部長は縦ロールの髪型で学校でも常に扇子を携帯しているお嬢様だから、きっとあそこが終着地点だろうと推測する。


 彼ら三人は部長から事前に「合宿の場所は、わたくしの別荘ですわ」と聞いていた。お城が別荘とは、実にゴージャスである。


 その城は、ずっと左横に視線を向けていた曙橋の視界にも入ったので、篠崎と同じく部長の姿が脳裏に浮かんだようだ。なお、菊川は口を開けて眠ったまま座席の背もたれに身を預けていたが。


 二人が斜め左前方に目をやって、部長がストラップレスドレスに身を包んで豪奢な応接間で扇子を仰ぎながら「ホーホホホッ。ようこそ、わたくしの別荘へ」と歓迎する図を頭に描いていると、突然、西大島が右にハンドルを切った。


 そのあまりに急で予想もしていなかった進路変更に、篠崎は「わわわっ!」とバランスを崩して西大島の左肘に衝突し、曙橋の体は菊川の左横に激突した。


「大変失礼をいたしました」


 前方の何らかの危険を回避したのならそう言ってくれればいいのに、これ以上は何も言わない西大島に対して、篠崎は「ごめんなさい」と小声で謝ったが、返ってくる言葉はなかった。


 車は、竹藪を切り開いて作ったような小道へ車体をこすらんばかりに入っていく。


 この急展開に篠崎は、実は西大島が偽執事で、自分達が拉致されるのではという不安が心を満たした。

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