2.三人の高校生
三人の真ん中を走るのは男子で、左右は女子。パッと見た感じでは、夏服姿の高校生のようだ。この避暑地でも合宿用に施設を開放しているところがあるので、この時期になると都会からやってくるいろいろな夏服姿の学生を見かけることがあるが、この学校の物は珍しい。
男子はランニングシャツが透けて見える普通のワイシャツを腕まくりしているが、女子は白くて透け防止機能のある生地の半袖シャツ。ネクタイが三人とも赤で統一されているので、おそらく同じ学年なのだろう。下は、全員が濃紺と緑のチェック柄のズボンかスカート。校則が厳しくないのか先生の監視の目がこんな避暑地にまで届かないことを安心しきっているのか、スカートはかなり短めで、ネクタイもユルユルだ。
銀縁眼鏡の男子生徒が、長めの癖毛をなびかせる。彼の右隣では、ピンクフレーム眼鏡の女生徒が、二つ結びのロングの金髪を左右に振る。左隣では、黒縁眼鏡の女生徒が、センター分けでミディアムの黒髪を揺らす。
と、その時、走り疲れて足がもつれそうになり減速し始めた男子生徒が、右側を向いて口を尖らせた。
「菊川! お前、駅に着いたの、気づかなかったのかよ!?」
吹き出した菊川は目尻の下がった顔を彼へ向け、ソプラノの声を上げる。
「篠崎くんと同じく、本に夢中だったからでーす♪」
眉に皺を寄せた篠崎は、今度は左側へ顔を向けた。
「曙橋! お前もか!?」
改札口に視線を向けたままの曙橋は篠崎を一瞥もせず、ぼそぼそっとした声を返した。
「もはや篠崎もここまでか」
すると篠崎が、一本取られたという顔をして前を向く。
「はいはい。シェークスピアのジュリアス・シーザーの台詞って言いたいんだな」
「ブルータス、お前もか? もはやシーザーもここまでか」
「いちいち言わなくていい! それはそうと、我ら私立K高校文芸部の初の夏合宿が遅刻でスタートしてはまずい! 一之江部長のハリセン攻撃を回避しないと! みんな! 走るぞ!」
篠崎のかけ声に、菊川も曙橋も無反応。だが、篠崎がゴール前のラストスパートのように駆け出すと、二人も置いてきぼりを食らわないように慌てて後を追った。