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009 トーク


恥ずかしいセリフを宣い、うっわこのハゲ気持ち悪い、まで言われるのを覚悟をしていたが、ソウイは瞳に涙を浮かべて普通に感激していた。



ええー、肩透かしも良いところだ。


狐っ娘から罵られるのを期待していたのに、非常に残念です遺憾です。


――いやゴメン嘘です、めっちゃ安心しました。良かったー、引かれないで。


とりあえず話が一段落し、二人はまた川沿いを歩き出した。



俺は歩きながら、「良ければ荷物を持つぞ?」と先ほどから何度かソウイに向けて手を伸ばしていた。

だが、その度にソウイは首を振って断ってくる。

助けて貰った上に、護衛までしてもらい、その上で更に荷物を持たせる何てことは出来ないと。


だが、見ていて可哀想になるほど、ソウイの荷物は多かった。

ソウイは小さい体に大きめの背負い袋を担ぎ、小脇には肩掛けの荷袋が二つ、そして手にも大きめの袋を持っていた。


荷物過剰である。


まあ、先ほどの話に出てきた、妹の薬を買うために売る予定の素材が入っているんだろうが、それにしても多過ぎる。


先に町へ帰っていった冒険者二人に、幾つか荷物を持たされば良かったんじゃないかと思ったが、あの二人はあの二人で俺の呪いに掛かって恐怖状態に陥っていたから、まあ無理はさせられなかったのかもしれない。


――あれ、じゃあソウイの荷物が多いのって、やっぱり俺のせいじゃね?


ソウイさん、荷物持ちましょうか? え、大丈夫ですって? そうですか……。


あまりしつこく荷物を持つと言っても困らせるだけなので、これ以上の申し出は諦めよう。



…………。


二人の間に、数秒の沈黙が続く。


これはいかん、何かトークテーマを考えねば!

そうだなー、何か二人に共通した面白そうな話を……。


「さっきの場所で亡くなった冒険者二人の亡骸は、あの後どうしたんだ? 後で回収に行ったりするのか?」


――最悪だ。


我ながら最低な話題の振り方だ。


暗黒中学時代、俺はハゲ以前に、そもそも人付き合いをどうにかした方が良かったのかもしれない。


俺が昔を思い出して勝手に落ち込んでいると、ソウイは一瞬目を泳がせ、少し口ごもりながら答えた。


「あ、えと、あの場に埋めてきました。ご遺体をそのままにしておくと、魔獣に食い荒らされてしまいますので」


「ああ、うん、そうか。お疲れさんだったな」


ふむ、埋めたのか。

てことは、穴を掘ったってことか。

人を埋めるほどの深い穴を。


それにしては、ソウイは割と早く俺の元へ来ていたな。

しかもその間、恐怖状態に陥っていた二人の冒険者に、俺の呪いのことも説明していたのか。


――あれ、俺の所に来るの早すぎじゃね?


……いや、だがまあ、ここは魔法がある世界だ。


ソウイも簡単な魔法が使えるって言っていたし、何かの魔法を使って穴を掘ったんだろう、多分。


俺はそう結論付け、また他の楽し気な話題を探し始める。


無言でいることが怖いお年頃なのだ。






その後、俺たちはぽつぽつと会話をしながら川沿いを進みに進み、ようやっと遠くの方に町の外壁が見えてきた。


日も傾き、そもそも薄暗かった森は、もう殆ど夜みたいな暗さになっていた。

それでも二人は何とか歩を進め、病気の妹が待っている町を目指す。

目指しながら、しかし俺は悩んでいた。

無論、化物に見えてしまう呪いについてだ。


ここまでソウイから、これといった呪いへの対策は聞いていない。

いったい彼女は俺のことをどうするつもりなのか。


いい加減、町が近くなってきたので、俺はソウイに呪いの件をどうする気なのかを尋ねた。

すると、ソウイは難しい顔をしながら、呪いへの対策を話し出した。


「まず、テイルさんには町の外にある泉で待機してもらう予定です。その泉はめったに人が来ないので、安心してお待ちください。そして、私が一人で町へ戻り、冒険者ギルドにテイルさんの事情を話して聞かせます。呪いの件、そして危険はないことを。それに、先に帰ったあの仲間の冒険者二人もいるはずなので、私の言葉の信憑性も増すことでしょう。その後、ギルドから理解を得られた後、町の長にも話を通します。そして私とギルド職員で、テイルさんのことを迎えに来る予定です」


「なるほど。全ての事が上手く運べば、確かに町へ入れそうだな。だが、そう上手く行くか? ソウイの気持ちは嬉しいが、説得が失敗した場合、冒険者ギルドから化物認定された上で盗伐隊が泉に押し寄せて来る、なんてことになりそうなんだが……」


ソウイの案だと、町へ入るための条件が厳しすぎるだろ、さすがに。


「はい。確かに、私の提案を全うする条件は相当に厳しいです。なので、どこかで説得が失敗した場合、私が魔法で町の上空に、黄色い光を数回に分けて放ちます。もし光が上がったら、それは失敗した合図だと思ってください」


「……ふむ。あい分かった。じゃあ光が上がった場合、俺は一目散に町から逃げるってことでいいんだな?」


「……はい。面目ありませんが、その場合はお逃げください。……ですが! いずれ必ず、元気になった妹と共にテイルさんの元へお礼を申し上げに行きます! 絶対に……っ!」


ソウイは決死の表情で俺を見上げてそう言った。


だが、そんな表情をされた所で、泉で待つ行為は、さすがにリスクが高すぎる。

もしも説得に失敗したソウイがギルドに取り押さえられ、町から光りが届かず、泉で信じて待つ俺を冒険者達が盗伐しに来る可能性だって十分ある。

安全に町へ入れる確証が得られない限り、右も左も分からない異世界で危険を冒すのは馬鹿のすることだ。

ここは心を鬼して、俺はソウイにきっぱりと答えた。


「分かった、ソウイに全部委ねる! 俺は君を信じて、泉で待っていることにしよう!」



そう、俺は馬鹿なんです。


えへへ。



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