005 戦闘
巨大猪と対峙した俺は、とりあえず猪の目を睨みつけ、絶対に目を逸らさないように心を叱咤し、そしてそのままゆっくりと摺り足で後退していった。
まずは相手から距離をとる。
で、大木の影に隠れてやり過ごす。
そんな淡い期待を持って徐々に後ろへ、後ろへ。
「ブゥ、ブホォオオオ!!」
威嚇の声を上げ、巨大猪が俺に向かって凄まじい勢いで突っ込んできた。
俺は咄嗟に体を真横へ投げ出し、何とか突進の回避に成功する。
そして回避できたことに我ながら驚く。
神様の話で、転移特典として肉体の強化があったことを思い出し、その効果が出ているのだと納得する。
これなら、何とかこの巨大猪をやり過ごせるかもしれない!
そう思い直し、すぐさま反転してこちらに向き直った巨大猪に向かって、一か八か俺は駆け出した。
巨大猪は先ほど同様、俺に向かって突進してきて、俺はまた同じように真横へ逃げる。
突進をギリギリの所で回避。
そして、俺は巨大猪が突進の勢いを殺し反転するまでの時間を稼ぎ、その間に巨大猪とは逆方向へと一気に駆け出した。
なりふり構わず全力で走り、巨大猪が追うのを諦めて帰っていくのを願いつつ、俺は確認するために後ろを振り返った。
「ブ、ブ、ブホォオオオ!!!!」
後方数メートル、全速力で俺を追いかけて来る巨大猪。
諦める様子は皆無だ。
――…このままではいずれ殺られるっ!
もうこうなったら、殺られる前に殺るしかねぇっ!!
現状、巨大猪を倒すために俺が出来ることは!!
そんなのは初めから決まっている!!
そう、のび太君よろしく、助けを求めるんだ!!
助けてっ!! 鑑定さぁーーーん!!!
『はいはい、どうしたの、ハゲ太君?』
あの巨大猪が僕を苛めるんだ!
どうにかしてよ、鑑定さん!!
『仕様がないなぁ、ハゲ太君は。じゃあハイ、巨大猪の弱点、火魔法の呪文~』
えっ!? 秘匿されている魔法の呪文教えてくれるの?
さすが鑑定さん! 有難う! 早くその呪文を教えてください!!
――俺が死ぬ前にっ!!
『火魔法の呪文、13,000本となりますが、よろしいですかー?』
……………………っ。
――……………くっ、お、お願いします、お、教えてくださいっ!!!
『はい、じゃあ頂きますねー』 バサバサボトバサァサラサラ……―
『はい、頂きましたー。では、呪文を教えますねー…――――』
そして鑑定さんが長々とした呪文を朗々と教えてくれた。
その呪文さえ唱えれば、全能魔法スキルの効果で魔法が発動するらしい。
――のだが、呪文が長い上に、唱えるのがかなーり恥ずかしい!
だが、言わねば死ぬのだ。
俺は開き直って真面目に叫ぶ。
「黒を纏いし焔神、天を牛耳る飛竜神、縁が結ぶ奇跡の御業、愚者を滅せと顕現す! 怒濤炎竜!!」
俺はすぐさま詠唱をして、火魔法『怒濤炎竜』を真後ろまで迫っていた巨大猪に向けて放った。
手のひらから黝ずんだ炎が立ち昇り、それが中国の竜を思わせる形を作る。
その炎竜は口を大きく開き、巨大猪に向かって噛み付くようにぶち当たっていった。
巨大猪は聞くに堪えない断末魔を上げ、ドサリとそのばに倒れ伏した。
終わってみればあっけないもので、その場には丸焦げになった巨大猪の残骸だけが残されていた。
あれほどの炎の塊が暴れたというのに、巨大猪以外に燃えた痕跡がないことに、今更ながら魔法の炎なんだなと実感する。
そして……
さわさわ、すりすり、スカスカ
手で頭を触り、確かに所々髪の毛が無いことを確認し、今更ながらに呪いの恐ろしさを実感する。
俺の頬を涙が伝う。
それは止まることなく、小一時間ほど流れ続けるのだった。
ステータス
名前 ハゲ・テイル
年齢 16歳
LV 08
HP 71
MP 33,999,423/34,000,023
RH 86,988
STR 35
DEF 36
魔法 怒濤炎竜