002 スキル
知らん部屋の椅子に座した微笑みの劇的美女様の説明を掻い摘んで説明すると、まず、美女様は所謂一つの神様ということらしく、とある世界を管理している存在だとか。
で、その世界の人間が、人類の脅威である魔王を打倒するために他の世界から勇者を召喚した。
その召喚に巻き込まれたのが、俺こと馬場中であり、俺の外にもあと三人ほど地球から召喚されているらしい。
で、今回無理やりに、俺は異世界へ転移してしまう運びとなり、それは強制で拒否の余地もない。
それに伴い、美女神様からの謝意と神様間の義務として転移特典を下賜されるらしい。
その転移の特典は三つ。
一つは異世界で十分な活動を出来るだけの肉体の強化。
どうやら神協会とやらが定めた強化の限界値があるらしく、その限界値に近いだけの肉体強化を施してくれるのだとか。やったぜ!
で、二つ目は言語の付与。
これは分かりやすく、異世界の言葉を理解でき、話すことができるって特典。やったよ!
で、最後の一つ、スキルの付与。
スキルとは、その世界の住人達が稀に保有しているという特殊な技能、能力を指して使う言葉で、そもそもスキルを保持している生物は本当に稀であり、先天的、後天的とどちらもあるらしい。
そのスキルとやらを、なんと太っ腹、二つも下賜されるんだとか。やっほい!
だが、これもまた神協会の決定にともない、スキルはランダムで二つ付与するように、とお達しが来ているらしく、スキルを選択することは出来ないそうだ。
つまり、運次第でスキルの内容が変わってくるのだとか。
……へぇー。
俺、ハゲですよ?
遺伝性ハゲに見舞われた時点で、運要素は敵側の存在に感じてしまうね。
ここまでの説明をようやく終えた超絶怒涛美女神様が、徐に黄色い小さな箱を俺に渡してきた。
俺は受け取り、それを眺めると、手のひらサイズのイエローボックスに丸いボタンがあることに気付いた。
「そちらの箱にあるボタンを押してみてくださいませ。すると、ほどなくして、スキルがランダムで貴方様に付与されますので」
神様が微笑みの爆弾を浮かべ、頑張って良いスキルを授かってくださいませ、と小首を傾げながら言った。かわゆす。
まあ、あーだこーだ考えても仕方なし、逆にハゲていた結果マイナスに振り切れた運気がここで一気に揺り戻されるかもしれん。
ポチっとな。
ボタンを押すと、テーブルの中央に、三十センチほどの円状の穴が開き、そこからニョキッと金色のドラゴンを模った人形が飛び出してきた。
それを見た神様が、唐突に歓喜の声を上げる。
「す、凄いのです! このゴールドドラゴンはSR以上のスキルが確定する演出なのですよっ!!」
神様は興奮して勢いよく立ち上がり、デッケーなぁっと思っていた胸が上下に揺れる揺れる。
眼福であります有難う御座います。
神様の胸に目を奪われていると、テーブルからグワァっという音が聞こえ、見るとドラゴンの口が開いていた。
その口の中から紫色の卵がコロコロと出てきて、俺の前でピタリと停止する。
それを手に取ると、スーっと卵は消え、俺の中に何かが入り込んで来るのを感じた。
微笑み神様がそれを確認し、これでスキルが無時に付与されたのだと教えてくれた。
「では、もう一度、お願いいたします。最後のスキルとなりますので、頑張ってくださいませ」
何を頑張っても運次第では、と思いそうになったが美女神様の言うことは絶対なので、運次第なんてことは思っていませんよ、という顔をしてボタンを押した。
すると、金のドラゴンが消え、また穴から新たに虹色をしたドラゴンで飛び出してきた。
それを見た神様が、これもまた先ほどと同様大はしゃぎで胸を大いに揺らしつつ声を上げる。
「レ、レ、レインボードラゴンは、SSRスキル以上が確定の演出なのですよ! さらには二分の一でURスキルの可能性も秘めているのですよ!!」
何だか分からないが、美女神様が楽しそうに大騒ぎしているので、俺も嬉しいですハイ。
「ちなみにですが、Nスキルが五十パーセント、Rスキルが三十、SRが十、SSRが九、URが一パーセントの確立で排出されます。ですので、貴方様はよほどの運をお持ちのようでございますよ」
と、神様が嬉しそうに説明していた。
相変わらず俺の理解は追い付かないが、神様が嬉しそうなのでオールオッケーでーす。
ほどなくして、ぐわぁっと開いたドラゴンの口から、今度は赤色の卵が出てきて俺の前で停止した。
それを見た神様が、少しだけ落胆したような表情を浮かべ、SSRスキルですね、と教えてくれた。
どうやら赤卵は、URスキルではないらしい。
その赤卵も俺が持つとスーっと消え、体の中に取り込まれていった。
それを見終えた神様が、ふっと表情を緩め、ゆっくりと椅子に座りなおした。
ゆっくりだったので、胸は揺れませんでした。期待は裏切られるものなのです。
「さて、長々とした説明、大変失礼いたしました。これで一通りの解説は終わりとなります。付与されたスキルに関しては、私からご説明することは神協会の決まりで行えません。ですから、私の世界に召喚された後、貴方様ご自身の目で確認してくださいませね。ステータス、と念じれば大雑把ではありますが、貴方様の現状をご覧頂けるはずですので。……では、ご武運ご健勝を祈っております。私の世界で、愉快なる人生をお送りくださいませね」
はい、何だか情報量が多すぎて理解が追い付いてませんが、ありがとうございました、と日本人らしく感謝の気持ちを頭を下げて示そうとしたが、俺は寸前で思いとどまり、決して頭を下げることなく目線だけで感謝の気持ちを送ってみた。
――ふぅ、あぶねぇ。危うく頭を下げてハゲがバレる所だったぜ……。
ちなみに今更だが、俺はこの部屋に来てから、原理は分からないが言葉が発せられないでいた。
まあ、他のことに驚きすぎて、声出ないくらい別にいっかーと思っていた。
自分のことながら、お気楽思考である。
――ふわり、ふわり
突然、俺の体が白い靄に包まる。
だが、驚くより早く、意識が白濁となり、強烈な浮遊感に襲われた。
やがて体の自由がまったく効かなくなり、俺は椅子から崩れ落ちていく。
意識が混濁する中、だが俺は最後の力を振り絞り、何とか神様から見えない位置へ向けて無理やり倒れこむことに成功した。
――これできっと、ハゲを隠し通せたハズだ……っ!
その思いを胸に、俺は意識を手放すのだった。