013 鑑定さん
リッドが町へ向かってから、約1時間が経過していた。
運よく、未だ俺を追う冒険者達は現れていない。
もう辺りは真っ暗で、森には星明りも届かないため、一寸先は闇状態だ。
この暗さの中で、はたしてリッドは二人の少女を連れて俺の元まで戻ってこられるのだろうか。
いや、無理じゃね?
もしくは、リッドが実はスキル持ちで、暗闇耐性を持っているとか、二人の狐っ娘が狐の特性として夜目が効く、とかあったりするのだろうか。
てか、そもそも狐って夜目効くっけか。
確かネコ目だったような。
じゃあ夜目は効くか。
いや、ネコ目の定義がそもそも何だったか分からんぞ。
ネコ目だからって夜目云々は関係ないような気がしてきた。
そもそも狐ってイヌ科なんだよな。ネコ目、イヌ科。
あれ、犬好きか猫好きかでよく討論になってるけど、どっちの要素も兼ね揃えている狐って、もしかして最強じゃね?
なるほど、狐は至高の生物、と。
例えば妖怪でも、狐はかの有名な妖狐として君臨しており、強キャラとして確立した力をそ――……
「……おい、連れてきたぞ」
リッドが町とは逆の方から声を掛けてきた。
俺は町の方向をボケっと眺めていたので、まったく気づくことなく後ろから声を掛けられたことになり、心臓が口から飛び出すかと思った。
心を落ち着けつつ、俺はゆっくりと振り返る。
「案外と早かったな。リッド達が近づいて来ているのは分かっていたが、町の方が少し気になってな。だから町の方を向いたまま待っていたんだ。そこんとこ理解して欲しい」
よし、驚いたことを上手く誤魔化せた。――よね?
リッドの様子を伺うと、微妙な目をして俺を見ていた。
そのリッドが、5歳くらいの狐耳の少女を腕に抱いている。
そしてリッドの後ろに、隠れるようにして俯いているソウイがいた。
狐耳がシュンと折り畳まれており、それを見た俺は瞬時に、もう全てを許す、と深く頷くのだった。
「おい、お前さんが驚こうが誤魔化そうがどうでもいいんだよ。んなことより、ほら、この娘が例の病気の子だ。……今にも死にそうなんだ、早く見てやってくれ」
リッドの腕に抱かれた少女、ソウリャンを見ると、気を失っているようで意識はないようだった。
そして力無くぐったりとしており、頬はこけ、身体は枯れ木のように細かった。
見るからに病気で、栄養もまったく足りていないように見える。
可哀想過ぎて、見ているだけで涙が出そうになった。
まあ、リッドとソウイが俺のことを見ているので、必死で我慢したが。
「分かった、さっそく見てみよう。その子をここに寝かしてくれ」
俺は葉っぱを寄せ集めて作っておいた簡易のベッドを指差し、寝かせるように指示をだす。
リッドはそっとソウリャンを葉のベッドに寝かせ、後ろで見守っていたソウイに何かを目配せした。
ソウイがそれに小さく頷き、俺に近寄ってくる。
そして何かを口に出そうとした間隙を縫って、俺は声を出した。
「ソウイ達が無時にここまで来れて良かった。さっきから森が騒がしくてな。町で何かあったのかと心配していた所だったんだ。そうしたら、このリッドに出会ってな。まあ、詳しい話は後にして、とりあえずこの娘を見てみるな」
気遣い100パーセントの声でソウイにそう話しかけ、ソウイと目を合わせる。
ソウイは目を揺らして、何かに戸惑うように立ち尽くしていた。
そして視点が定まらないまま、ポツポツと言葉を零した。
「……ソウリャンは、もう助かりません。先ほど、聞いたんです。コボル薬では、この病気は治せないと。もう、何もかも終わりなんです。……終わり、です」
今にも消え入りそうな声を出し、ソウイは下を向いた。
ポタポタと涙がソウイの頬を伝い、地面を濡らしていく。
「そうか、コボル薬は駄目だったか」
やはりコボル薬での治療は無理だったらしい。
俺はソウイの悲痛な様子を見て、急いで助けを求めることにした。
絶対に助けるんだと、強い意志を持って。
「大丈夫だ、俺が絶対に助ける。だからソウイ、泣くな。……なあソウイ、俺は今から、ありきたりなことを言うぞ? この子が元気になったら、二人で俺にお礼を言いに来てくれ。で、そこで泣いたらいいさ。いっぱい泣きな。嬉しくて、幸せな涙をそこで流したらいい。だから今は泣かず、顔を上げて、前を見るんだ。今後、大きくなっていくソウリャンのためにな」
恥ずかしい台詞のオンパレードである。
だが、後悔はしていない。
自分のためじゃなく、誰かのために言う言葉は、意外と恥ずかしくても言えてしまうらしい。
俺の言葉を聞いたソウイは少しだけ顔を上げた。
そして縋るような目で俺のことを見てきた。
相変わらずその頬を涙が流れているが、唯一の家族が死にそうになっているのだ。
それも仕方がないことだろう。
――さてと、では始めますか。
助けてー! 鑑定さぁーーんっ!!
『恥ずかしいセリフ禁止っ! えへへ、言ってみたかったんですよね、このセリフ。では、苦しむ少女を救う術を其方に授けるねー。恭しく受け取るが良いよー』
最近、鑑定さんのノリが俺に似てきている気がする。
テイルさん、心配です!
――で、鑑定さん。ソウリャンの病気を治したいんだけど、具体的にはどうすればいい?
『その方法は、5本で教えますよー』
払います。 ハラリ
『まずはソウリャンちゃんのことを鑑定して、どういった病気かを判断する必要がありますねー』
じゃ、ソウリャンの鑑定を頼んます。
『髪の毛、12,500本になりますが、よろしいですかー?』
……ホワイ? え、桁がおかしいっすよ、鑑定さん?
『1万2千5百本になりますよー』
ああ、言い換えても同じ数値っすね。
マジかよ、もしかして人間や獣人の鑑定料は著しく高いのか?
とりあえず、確かめてみるか。
鑑定さん、そっちのリッドとソウイの鑑定を頼むよ。
『はいはい、リッド君が1,500本で、ソウイちゃんは550本になりますよー。鑑定しちゃってもよろしいですかー?』
すまんが、鑑定はキャンセルでお願いします。
――うん。リッドはBランクの冒険者って話だったから、1,500本という高めの鑑定料なのも理解できるし、ソウイも冒険者で簡単な魔法を使えると言っていたので、550本も頷ける。
だが、やはりソウリャンだけは桁違いに消毛が激しい。
何かソウリャンに鑑定料が高くなる秘密があるのか、病気持ちの場合は鑑定料が異常に高くなるのか。
まあ、考えた所で答えは出ないし、俺がこれからどうするかの答えは出てるしな。
やることが変わらないなら、さっさと済ませてしまいますか。
――鑑定さん、ソウリャンの鑑定、お願いします。
残毛 48,117本




