001 召喚
最近、ハゲ化が止まらくて腹が立ち、イラっとして書いてみたのがこの物語です。
非常に拙い文章ですが、読んで頂ければ幸いです。
よろしくお願いします!
気づいたのは、小学5年生の頃でした。
教室内ヒエラルキー最上位のイケメン男子君が言った一言。
「いつか禿げるとしてもさ、ああいう風に、髪が全体的に薄く禿げていくのは絶対嫌だよな!」
イケメン男子君は、そう俺を指差しながら、これもまた教室内ヒエラルキー最上位男子君その2に向かって話しかけていた。
……教室中に響くほどの大声で。
「ああ、分かるわー。せめて禿げるにしてもⅯ字禿げとかがいいよなぁ」
そう返事をするヒエラル上位男子君その2。
俺は一瞬、その会話の意味が分からず、なんぞと首を傾げる。
そして俺の頭が傾げられた先にいた女子生徒が俺の頭を見て、ブフゥッと吹き出す。
だが俺は、その女子生徒の思わず笑っちゃった光景を見たというのに、この期に及んで理解が追い付かず、なんぞ?とさらに逆向きに頭を傾けた。
するとその先にいた女子生徒も、先の女子生徒同様にブゥファッと吹き出した。
「クク、ち、ちょっと止めてよ! ブフ、こ、こっちにその薄いのを向けないでよ!!」
……ぽん、ぽん、ぽん、ちーんっ。
――…ああ、なるほど。
そうして俺は、11歳にしてようやっと理解した。
あ、俺って薄毛なんだ、と。
それから5年。
俺は禿げて高校生になりました。
日を重ねる毎に少しずつ抜け落ち薄くなり続ける髪の毛に抗う術もなく、着実にハゲ街道まっしぐらな俺の頭髪。
ハゲ無常である。
そしてハゲが送る学園生活というものは、非常にシンプルだ。
ハゲを揶揄される、ハゲだと馬鹿にされる、ハゲだからと苛められる。
まあ、揶揄していた当人達は、軽い気持ちで揶揄っていただけなのかもしれないが、言われている俺は堪ったものではない。
いっそのことハゲを笑いに転嫁して開き直った方が楽だったのかもしれないが、そもそもそんなに明るい性格ではない俺は、ハゲを笑いにする術すらなかった。
中学時代は、そんな八方ふさがったまま、何とか3年間をやり過ごした。
だがこのままでは、高校生活も中学同様、早々にハゲが原因で暗礁に乗り上げてしまう。
どげんかせんといかんとは思いつつも、育毛と名の付く大体の物を試したがどれも結果が伴わなかった今、毛根は死滅の一途を辿っている。
明るい高校生活を送りたいだけなのに、頭頂が明るくなるばかりで、残念だが打つ手なし。
もう髪頼み、違う、神頼みだと近所の神社へ走り、賽銭箱に有り金全部を投げ入れ、手を合わせ、頭を垂れる。
垂れた頭を見た神社の巫女さんが、あらやだわ、と切なげな声を上げていたが、気にしない。
……く、殺せよ。
――髪様、いや、神様! この卑しい(頭髪的な意味で)自分めを救ってくださいませ!
そんな益体のない願いを心で叫び、すっと目を閉じる。
数秒の後、俺は目を開けて、そして呆然とする。
そこは俺がいたはずの神社の境内ではなく、知らない部屋だった。
その部屋は六畳ほどの広さで、机と椅子が二脚あるだけの簡素な部屋だった。
だが知らない部屋以上に俺が驚いたのは、目の前にいた人物に対してだ。
対面の椅子に、今までの人生で見たことがないほどの美しい女性が座っており、その美女がこちらに向かって微笑んでいたのだ。
俺はテンパる頭で何とか考えを纏めようとするが、てんでバラバラに四散してしまい、そんなことよりもこんな美女に俺のハゲ頭を見られたくない! 隠せっ! ハゲを隠せぃ! とか考えだした頃に、ようやくその美女がゆるりと口を開いた。
「ごめんなさいね。どうやら、こちらの住人が貴方様を勇者として召喚してしまったようなのです。大変、混乱しておいでかと思われますが、私が、今より貴方様の置かれた状況をご説明致しますので、ご安心してくださいませね」
美女はさらに微笑みを深くし、こちらへお掛けくださいませ、ともう一脚の椅子を指示した。
俺は限界まで頭を後ろに反らし、まいったなーこりゃ感を装い、頭を手で掻くふりをしながらハゲを全力で隠しつつ、いそいそと椅子に腰を下ろした。
――そして、微笑みの美女から齎された説明を聞き、俺は暗礁乗り上げ待った無しだった高校生活をかなぐり捨てて、晴れて異世界へと旅立つことになるのだった。