4
実月5日
君が、一応の努力をしたということだけは認めてあげましょう。
しかし、休暇中で時間があるにもかかわらず、相変わらずの汚い字、誤字脱字の多さは目に余ります。
あのような文章では、到底外には出せませんよ。キミの無知は、ホゴシャであるジルの恥であり、現在面倒を見ている私の恥にもなります。もう少し真剣に勉強しましょう。ここに良い手本があるのですから、美しい字を書けるよう真似てみてはいかがでしょうか。
「ふむ。まあ、これで良いでしょう」
ぱたんとノートを閉じたリドルは、休憩中の侍女を探すべく執務室を出て行った。
きっと今頃は、少し遅めの昼食タイムで、食堂にいるだろうと当たりをつける。
行儀見習いの名目で侍女に上がった彼女は、時折思いもよらぬ行動を起こして周囲を慌てさせるが、さすがに伯爵家であるジルの家から送り出されただけあり、必要最低限の礼儀は身に着けていた。
問題なのは、その礼儀を示すべき相手を判断できないという点にある。
王宮内での役職はおろか、貴族の階級にまで疎いため、何でもかんでも年長者から礼を取ろうとするのだ。礼儀をわきまえてくれる場合は良いが、逆に、自分と同じか、それ以下の年の者に対しては、どうしても礼儀が疎かになりがちなので、なかなか目が離せない。
何より厄介なのは、言語関係だった。日常会話が割とスムーズなものだから、ついつい忘れがちだが、外国人の彼女の読解能力は壊滅的だった。これでは、侍女としての仕事もままならない。
そう思って始めた交換日記だったが、あまりのお粗末さに泣けてくる。
1カ月面倒を見てきてこの程度の文章しか書けないようでは、面倒を見ている彼自身の資質が問われかねない。
彼は、決意を新たに食堂の扉を開けようとしたが、その前に扉は開かれ、ぬっと黒い影が差した。
「ああ、リドル子爵、ちょうどよかった」
全く表情を変えずに、ジルが小さく頭を下げる。彼は手元のノートに気付いて、微かに眉根を寄せた。
「何でしょう、ジル」
珍しく、その背後に侍女の姿が見えない。
「少しよろしいですか」
「構いませんが……」
ちらりと食堂を覗けば、件の侍女は、ダスティ大将軍と副将軍に囲まれていた。
「そのノートですが、あれでもあいつなりに頑張ったようなんです」
「はあ……」
目に映る光景が信じられず、生返事になる。あの、鬼のダスティ大将軍が、にこやかに笑っているように見えるのは、きっと目の錯覚だろう。
「とにかく、何でもいいので褒めてやってください」
「は?」
「リドル子爵に褒められるために、頑張ったようなので」
ちらりと背後を振り返り、心底困った様子でジルが言う。
「あれは、一体?」
「とにかく、これ以上変な人間に懐かせたくないので、頼みます」
やけに真剣なジルの様子に、とりあえず頷くしかなかった。
追記
4日間もよく頑張って日記を書いてきましたね。これからもこの調子で励んでください。