2
王宮で働くようになって半年。一応、私も給料というものを得ている。
休みは不定期の上、めったにないけど、たまに、こうしてまとまった休みをもらうことがある。けれども基本、朝から晩まで働きづめなので、もらった給料を使う機会に恵まれていない。結果、表面的にはそこそこの貯えができてはいる。
だが現実は、私は多大なる借金持ちであった。
そもそも私には、自分の物と言える物をほとんど持っていない。
今着ている服も靴も、持っている鞄も、中に入っているハンカチやら何やら、全てジルに買ってもらったものだ。貢いでもらったわけではない。
これ、全部借金なのである。
まあ、そんなわけで、楽しい祭りと言えど、私には自由になるお金がなかった。
お金がなければ、祭りを半分も楽しめない。
だが、祭りには行きたい。
祭りには、珍しい食べ物や可愛い小物や雑貨を売る屋台が、たくさん出る。ぱあっとお金を使いたいところだ。できないが。
ということで、お財布、じゃない、ジルの出番なのだ。
「ふにょのなにょにみの」
「話すか食べるか、どちらかにしろ」
「………」
もぐもぐと咀嚼しながら、ジルの袖を引っ張り、さっき目に付いた屋台を指し示す。
今日は豊穣祭だから、食べ物系の屋台が圧倒的に多い。ついつい目移りするほど美味しそうな食べ物が溢れている。何より、この何とも言えない香りが食欲をそそるのだ。
「――まだ食べるのか」
心底呆れたように呟かれるが、まだ3つの屋台しか行っていないのに、何を言っているんだか。まだしゃべれないから、指を3本立てて、そのことを指摘する。
「3つって、確かに店は3つ寄っただけだが、お前が口にしたのは3つじゃないだろうが」
そんな細かいことを気にしちゃいかん!
くいくい引っ張り続けると、ジルはやや乱暴に私の頭をぐしゃっと撫で、重い腰をあげる。
「何が欲しいんだ?」
ズラリと並んだきらびやかなお菓子に、ごくんと喉が鳴る。いや、さっきまで食べていた照り焼きチキンサンドもどきを、やっと飲み込んだだけだけれど。
いやもう、肉はほろりと口で蕩け、たれは甘辛で、非常に美味しかった。
「ほら」
香草茶を差し出されて、一息に飲み込む。
「あれ!」
オレンジの果物が乗った、可愛らしいお菓子を指し示す。
「まったく、まだまだ子供だな」
小さく呟かれた声を拾い、もうオトナだよ、と、軽く油で揚げたポテトもどきを口にしながら抗議をしたら、「食べるか話すかにしろ」と、小突かれた。
レディに対して、なんて扱いだ! と思ったけど、今日は勘弁してあげることにした。なんてったって、今日のジルは私のお財布代わりだからね。
あ、もちろん、大人な私は、ちゃんと借金に上乗せして、後でまとめて返すつもりだ。
実月3日
今日はオサイフとお祭りに行った。
おなかいっぱいになった。楽しかった。
疲れたから今日はおしまい。