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異世界交換日記事情  作者: りく
実月
6/26

 王宮で働くようになって半年。一応、私も給料というものを得ている。

 休みは不定期の上、めったにないけど、たまに、こうしてまとまった休みをもらうことがある。けれども基本、朝から晩まで働きづめなので、もらった給料を使う機会に恵まれていない。結果、表面的にはそこそこの貯えができてはいる。


 だが現実は、私は多大なる借金持ちであった。


 そもそも私には、自分の物と言える物をほとんど持っていない。

 今着ている服も靴も、持っている鞄も、中に入っているハンカチやら何やら、全てジルに買ってもらったものだ。貢いでもらったわけではない。


 これ、全部借金なのである。


 まあ、そんなわけで、楽しい祭りと言えど、私には自由になるお金がなかった。

 お金がなければ、祭りを半分も楽しめない。

 だが、祭りには行きたい。

 祭りには、珍しい食べ物や可愛い小物や雑貨を売る屋台が、たくさん出る。ぱあっとお金を使いたいところだ。できないが。

 ということで、お財布、じゃない、ジルの出番なのだ。








「ふにょのなにょにみの」

「話すか食べるか、どちらかにしろ」

「………」


 もぐもぐと咀嚼しながら、ジルの袖を引っ張り、さっき目に付いた屋台を指し示す。

 今日は豊穣祭だから、食べ物系の屋台が圧倒的に多い。ついつい目移りするほど美味しそうな食べ物が溢れている。何より、この何とも言えない香りが食欲をそそるのだ。


「――まだ食べるのか」


 心底呆れたように呟かれるが、まだ3つの屋台しか行っていないのに、何を言っているんだか。まだしゃべれないから、指を3本立てて、そのことを指摘する。


「3つって、確かに店は3つ寄っただけだが、お前が口にしたのは3つじゃないだろうが」


 そんな細かいことを気にしちゃいかん!

 くいくい引っ張り続けると、ジルはやや乱暴に私の頭をぐしゃっと撫で、重い腰をあげる。


「何が欲しいんだ?」


 ズラリと並んだきらびやかなお菓子に、ごくんと喉が鳴る。いや、さっきまで食べていた照り焼きチキンサンドもどきを、やっと飲み込んだだけだけれど。

 いやもう、肉はほろりと口で蕩け、たれは甘辛で、非常に美味しかった。


「ほら」

 香草茶を差し出されて、一息に飲み込む。


「あれ!」

 オレンジの果物が乗った、可愛らしいお菓子を指し示す。


「まったく、まだまだ子供だな」

 小さく呟かれた声を拾い、もうオトナだよ、と、軽く油で揚げたポテトもどきを口にしながら抗議をしたら、「食べるか話すかにしろ」と、小突かれた。


 レディに対して、なんて扱いだ! と思ったけど、今日は勘弁してあげることにした。なんてったって、今日のジルは私のお財布代わりだからね。

 あ、もちろん、大人な私は、ちゃんと借金に上乗せして、後でまとめて返すつもりだ。






実月3日


 今日はオサイフとお祭りに行った。

 おなかいっぱいになった。楽しかった。

 疲れたから今日はおしまい。




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