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果月11日
この日記のひづけって、これをかきはじめた日でいいのかな?
いいんだよね。11日カラ15日、ってかいた方がよかった?
今日は、リドル様にエヅケされた。
エヅケって何? おやつをもらうこと?
ジルが言っていた。ダメだって。なんのこと? おやつはいいよね?
「ジル!」
名を呼ばれると同時に、背後から腕に手を伸ばされたのが分かった。
反射的に避けてしまい、しまったと思ったが遅い。宮廷内で、抜刀しなかっただけましだともいえるが、同じ伯爵家といえども継承権のない3男で一介の近衛風情が、伯爵家の嫡男で上位の宮廷魔術師でもあるリドル子爵に怪我をさせるなど、言語道断である。
しかし、俺を呼びとめようとしたリドル子爵は、見事に空ぶって転びかけた。
危ういところで腕を掴み、転倒阻止に成功する。
「何か御用ですか、リドル子爵」
支えた腕を放して声をかけると、態勢を整えたリドル子爵は、うっすらと頬を赤くした状態で俺を見上げた。
熱でもあるのだろうか?
「ジル、君、彼女に何を教えているんですか」
「彼女?」
「君が押し付けてきた僕の侍女のことです。餌付けって何ですか、餌付けとは!」
「……ああ、あれは、困ります」
あのやたらと警戒心の薄い彼女に、お菓子を与えられ続けるのは非常に困る。癖になったら、それこそ、知らない人間に菓子をやると言われてついて行きかねないではないか。
「なっ、困るって何ですか。私は、あの娘を餌付けなどしていません! ええ、断じてしてませんともっ!」
そう言い捨てて、リドル子爵は憤然とした様子で元来た道を戻って行った。止める暇もない。
リドル子爵のところに彼女を侍女に出したのは、普通に人前に出しても恥ずかしくないだけの礼儀作法を身に付けさせる目的だったのだが、失敗だっただろうか?
子爵はその辺、細かいと聞いていたので安心していたのだが。
子供にほだされてお菓子を与えるようでは、教育にならない。文字を教えていただけるのはありがたいが、あまり甘やかさないよう、もう一度お願いしておこう。