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なんたら月のよくわからない日
あれ、ところできょうはなん日だろう。
よくわからない。
そういえば、コニョミ? コロミ? えっと、なんていうんだっけ?
わかんないな。みんなわからないから、ねる。
果月10日
貴女は一体どれだけバカですか?
このノートを渡した時に、貴女に懇切丁寧に説明したことが理解できなかったのですか?
今日は、果月の10日。
貴女にこのノートを渡したのは、ちょうど12日前で、星月29日です。
なんだって、たったこれだけの文章を書くのに、12日もかかるんですか?
しかも、字が汚いです。読解不可能です。
それから、コニョミでもコロミでもなく、暦です。
勝手に言葉を創らないように。
次回は、もっとましな文章になっていることを期待します。退化していたらおやつ抜きです。貴女にはきっと、この罰が一番効きそうですから。
「――このばちゅ? バツ、罰、か? がいちばんききそう。
って、お、おやつ抜き? え? そんな!」
「何を騒いでる?」
ノートを手に叫んでいる私の背後から、低い声がかかる。聞きなれていなければ、怒られているかのように聞こえるその声は、でもここ2年程の付き合いで、心配しているんだろうとわかった。
「見て、これ。リドル様がひどいのっ!」
振り向いた私は、頭一つ分以上背の高い声の主、ジルにノートをつきつける。
「――お前、リドル子爵と何をやっているんだ?」
ノートの中を見たジルの眉間に、しわが刻まれる。
「文字を教えてもらってる」
「……交換日記で?」
「コウカンニッキ?」
「お前がその日あった出来事などを日記に書いて、リドル子爵が日記を書く。で、次はお前が書く」
ノートを指さしながら、ジルはゆっくりと説明してくれる。
なるほど、コウカンニッキとは、交換日記のことか。
こくんと頷けば、ジルは僅かに片眉を跳ね上げた。
「おやつ、とは?」
あっと、思わず声をあげて、私は慌ててノートを奪い取ろうと手を伸ばしたが、あっさりと上にあげられたため、取り戻すのに失敗する。身長差がありすぎて、ジルがちょっと腕を上げてしまえば、私には背伸びしても届かない。
「リドル子爵に、餌付けされていたのか」
飛び跳ねて、何とかノートを奪い返そうとする私。何度もチャレンジするが、獲物は遠い。
必死すぎて、ぼそりと呟かれた声には、反応できなかった。
エヅケ、って何だ?