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ゼウスゲイム ~異世界をフィールドに神々が遊ぶようです~  作者: 嘉神 佑
第1章 ゲームスタート ~スキルと魔法と異世界生活~
11/12

魔法のある世界Ⅱ

 家に戻ったツバメは早速ハルから一冊の本を受け取った。


 本のそではとても古く、少々傷んではいたが汚れはない。

 とても大切に保管されていたであろうことが伺えた。


「ありがとう。読んでみるよ」

「はい。読み終わった時に返して頂ければ大丈夫ですので」


 本を受け取ったツバメは部屋に戻り、ベッドに腰掛ける。

 中々に分厚い本だ。1日で読み切るには難しいだろう。


 緑色の表紙には、「魔法について」とシンプルにタイトルが記されていた。


「――会話もそうだけど、この世界の文字も普通に読めるな」


 生活する上で識字はかなり重要だ。

 その点を神様が都合をつけてくれたと考えればありがたい話だ。


 表紙の右下には著者の名前が記されていた。


 ――著:サクラ・アルメリア


 これが、この本を書いた人の名前だろう。

 そして、ハルの母親の名前――


 この世界にもファミリーネームというものがあるのだろう。


「そう言えば、ハルは最初名乗るときにアルメリアとは言わなかったな」


 何か意味があるのだろうか?

 それともただ単に名前だけを名乗っただけなのだろうか?


 そんなことを思いつつ、ツバメは本を開いた。


「――とりあえず読み進めてみよう」


 まずツバメは序論から目を通してみた。

 そこには魔法とはそもそもなんなのか? なぜこの世に魔法が生まれたのか? どのような変化を経て今の形になったのか? といった歴史めいたことが書き連ねてあった。


 正直、理解できる気がしなかったので軽く読み飛ばした部分もあるが。


 まあ難しい内容に関してはハルにまた聞いてみるか……


 読み進めていくと、魔法について大まかな分類についてわかった。


 魔法には大きく分けて5つの属性があるらしい。


 火属性

 水属性

 雷属性

 風属性

 土属性


 これらについての説明も様々な視点から書かれていたが、要約するとその属性に対応した自然現象を生み出すことができるらしい。


 火属性なら魔力を火に変換する。

 水属性なら魔力を水に変換する。

 こんな感じだろう。


 更には、魔法にはそれぞれの真名に対して階級が存在する。

 階級は4段階。


 コモン級

 アンコモン級

 イクス級

 ハイエスト級


 コモン級が階級の中では一番下の魔法。

 魔法を覚えたての初心者でも容易に習得が可能で、主に日常生活を手助けするような魔法がほとんどだそうだ。


 さっきハルに見せてもらった炎球(ファイアボール)は火属性のコモン級魔法。


 なるほど、確かにあの規模の炎では攻撃というより火種を必要とする場面で重宝するだろう。これはハル本人も言った通りだ。


 ちなみにコモン級でも魔法が使える者はこの世界には多くないらしい。

 精々100人に1人ほどの割合。

 それはただ単に才能という部分だけではなく、魔法を学ぶための環境作りがそこまで世界に行き届いていないというのがあるだろう。

 そんな背景もあってか、魔法を使える人間はこの世界には少ない。


 このコモン級が世間一般に魔法として扱われるものらしい。

 それより上の階級にもなると、用途が急激に変わる。


 その上に位置するアンコモン級がそれだ。

 コモン級よりも発動する現象の規模が格段に違うらしい。

 言うまでもなくコモン級よりも習得難易度は高く、魔法を専門に扱う"魔術師"と呼ばれる存在はこのアンコモン級の魔法を一人で扱うことができて始めて一人前と言われる。


 つまりアンコモン級の魔法を扱えて初めて、その者は魔術師と名乗れるのだ。

 ちなみに魔術師の域に到達できるのはコモン級の魔法を使える者の中でもわずか1%。それなりに狭き門ということだ。


 その更に上に位置するイクス級。

 これに関してはもう魔法として扱うより兵器として扱ったほうがいいのでは? というくらいに威力の高い階級の魔法が該当する。


 イクス級の魔法一つ扱うことができれば、まさしく一騎当千。

 雑兵の20人程度であれば軽く皆殺しにできるとのこと。

 この世界でも、イクス級の魔法を扱える魔術師はほとんどいないらしい。


 また更にその上に位置するハイエスト級。

 これに至っては今読んでいるこの本にも詳しい記述はない。

 ただわかることは、ハイエスト級の魔法は"国"をも動かす力を持つ。

 正に伝説級の超魔法だろう。と書かれている。


「となると、最初にコモン級を扱えるようにならないと話にならないってことか――」


 とりあえずわかったことは、コモン級のみでは戦闘に使うには心許ないということだ。

 少なくともアンコモン級の魔法が扱えて初めて、魔法は武器として価値は発揮する。


 ――この先ゲームを進めていく上で、恐らく魔法は重要な存在になってくるはずだ。


 神様から与えられたスキルを用いてクリア条件を満たしていく。

 しかし、与えられたスキルだけでは乗り切ることのできない場面というのが今後出てくるだろう。


 例えば、極端に攻撃力の高いスキルを持ったプレイヤーと戦闘に適していないスキルを持ったプレイヤーが敵対関係になった場合、その結果は火を見るより明らかだ。


 つまり戦闘に不得手なスキルを持ったプレイヤーの戦闘力を補助するものが必要になる。

 それは武器だったり仲間だったりもあるだろうが、どうしても魔法という存在は無視できない。


「どの属性でもいい。覚えておいて損はないはずだ」


 ツバメは本を数ページめくり、目当ての項目を見つけた。


 ――魔法の習得


 これだ。

 とりあえず本に書いてあることに倣ってやれることをやってみよう。


 ハルも言っていたが、魔法を身に付けるのに必要なのは魔力、知識、想像力。


 まずは、魔力だ。これがなきゃ話にならない。


 ツバメは本に書いてある通りに「魔力を意識する方法」をひたすら試していった。




 ◆




「――うーん、わかったようなわからないような」


 本の通りにやってみて数時間くらいだろうか。

 正直言って、何か成果が出たようにはあまり感じなかった。


 というのも、書いてあることがあまりにも現実離れしすぎていたからだ


「体に流れる魔力を感じるのは、血液の流れを意識するのをさほど変わらない。全身を駆け巡る"流れ"を掴むことが第一歩。って……なんのこっちゃ」


 言わんとすることはわからないでもないが、それをいざやってみろと言われると話が違う。

 とりあえず流れと言われるものを意識はしてみるものの、特に変化があるわけでもなし。

 スキルを使うときと同じ容量で集中してみるものの、特に魔力らしき何かが溢れ出すわけでもない。

 やり方が間違っているのか? それともそもそも魔力がないのか?


 よく考えてみれば、僕は元々この世界の人間じゃない。

 魔力というのはこの世界の人にのみ宿るもので、現世から来た僕にはそんなもの持ち合わせていないのではないだろうか?

 というかその説がだいぶ強い。現世じゃ魔法はあくまでファンタジーの中で成り立ってる空想のものだ。


「――僕には、魔法は使えないのかな……」


 そう諦めかけた時だった。

 ドアをノックする音が聞こえた。


「――ツバメさん?」


 ハルだ。

 ツバメが返事をすると、ハルが部屋に入ってくる。


「そろそろ夕食を作ろうと思うんですが、何かリクエストはありますか?」

「あ、もうそんな時間か……」


 どうやら日が暮れるまでやっていたみたいだ。

 確かに外を見ると、すでに日が傾きかけている。


「あ、その本。どうでしたか?」

「とってもためになってるよ。けど、やっぱり難しいね魔法って」


 ツバメはおどけたように手のひらを上に向ける。


「魔法、僕にも使えるかなって色々試してみたんだけど、上手くいかなくって」

「ツバメさんったらおかしなこと言いますね。ツバメさんはもう魔法を使えてるじゃないですか?」

「え? ああ、いや、あれは――」


 多分ハルが言ってるのはスキルで設定した『イメージした武器や道具を作り出せる能力』のことだろう。


「あれはこの世界の魔法っていうのとは少し違うかな」

「ツバメさんの元の世界の魔法ってことですか?」

「それとも違うけど……」


 いっそのことゲームについて説明しちゃえば早いのだろうけど、そこまで全部説明する必要はないだろう。


「この力は、この世界に来るときに神様からもらったものなんだ」

「神様……?」

「うん。だから魔法とはちょっと違う」


 神様なんて言葉が通用するかわからないけど、なんとなくハルになら言っても大丈夫なような気がした。


「神様……ツバメさんは、神様に会ったことがあるんですか?」

「う、うん。一応」


 それはもうたくさんの神様に会いましたとも。

 真面目な神様もいれば、ふざけた神様もいたが。


 ハルは少しだけ言葉を溜めて、静かに口を開く。


「――私も、神様に会ってみたいです」

「え?」


 確かに、そう聞こえた。

 油断していれば聞き逃してしまいそうな、か細く儚い声だったが。


 ――神様に、会ってみたい?


 どうして――


「――ツバメさん」


 ツバメがその言葉の意味を考えていると、ハルは静かにツバメの手を取った。

 ちょっと、ドキっとした。顔も少し近い。


「ハ、ハル……」

「魔法を覚えるのに必要なものは魔力、知識、想像力。そう言いましたよね」


 ハルに握られた右手が少し熱くなってきた。

 それがツバメの体温なのか、ハルの体温なのかはわからない。


「でも、何よりも一番大切なのものは、"信じる"ってことなんです」

「――信じる?」


 右手に感じる熱がお互いの体温ではないことをツバメは理解した。

 ――ハルが、何かをしている。


「母が言っていたんです。疑うことよりも、信じることこそが"魔法"なのだと」


 右手を包む熱がやがて、心地よいひだまりのような暖かさに変わる。

 これはもしかして――魔力?


「私が今ツバメさんに流している魔力を頼りに、もう一度ツバメさんの中にある魔力を探ってみてください。その時に絶対に、疑わないでください。必ず自分の中には魔力が流れているのだと、"信じて"」


 太陽に光に抱かれているような安心感。

 それと同時に感じるのは、今までに感じたことのないような鼓動に似た波。


 ツバメは今一度、自分の体の中にある"流れ"を意識した。


 ハルが与えてくれる魔力という"鼓動"を頼りに。

 自分の中にあるであろう、魔力の流れを。


 いや、あるであろう、じゃない。

 あるんだ。


 自分には、魔力が流れている。

 それを見つけるだけだ。

 簡単だ。

 できる。

 絶対にできる。


 ――――そう思ってからは、早かった。


 血液とは違う何かが体に流れているのが、わかった。

 心臓が打つ鼓動とは違う。また別の熱い何か。


 ツバメはその流れを掴み取る。


「流れを見つけたら、決してそれを止めてはいけません。あくまで、その流れに乗るように、魔力を右手に――」


 ハルの言葉に従って、その流れを右手に集中させる。

 決して止めず、急かさず。

 やがてその流れが、右手に集中する。


 すると、今度は自分でも感じ取ることができた。

 "流れ"という漠然としたものではなく。

 確かな熱、という形で。

 それが右手に集まっている。


「――これが、魔力?」

「はい、これがツバメさんの魔力です」


 ハルが手を放す。

 ハルによる心地よい暖かさはなくなったが、代わりに残るのは自分の右手から湧き出る熱い何か。


 今自分は確かに、魔力を感じてる。


「すごい……なんていうか、熱い」

「最初はちょっと慣れないかもしれませんが、少しずつ流れを意識していけば自在に魔力を扱えるようになると思いますよ」


 ハルのにっこりとした笑みに、ツバメも笑って返す。


「ありがとうハル! まさかこんな簡単に……」

「そんなことありませんよ。それはきっとツバメさんがすごいからです」

「え?」

「普通の人なら魔力を感じるどころか、魔力の流れを掴むことすらできないんです。一回でそれができちゃうだなんて、ツバメさんには才能があるんだと思いますよ」


 才能が、ある?

 本当だろうか?

 だが確かに、右手には感じたことのない熱が放たれ続けてる。

 後はこれを自分なりに制御して、自在に操れるようにすればいい。


 こうしてツバメは、スキルの他にもう一つ魔力という武器を手に入れた。


 ――ゲームが始まってから、すでに2日が経っていた。

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