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6.稲妻、そして出立

 夜明けだ。


 朝日が眩しい。

 出立の準備は済んでいるが、もう少し寝起きの余韻を楽しむ事にした。

 ウリダン側から反撃の夜襲もなく、夜は静かなものだった。


 湯を沸かし、トウモロコシ粉のパンもどきをお湯で流し込む。

 味気ない食事だが、戦場で贅沢は言えない。

 兵士たちも同じように起き出し、集まって食事を取っている。

 勿論俺に近寄ってこようなんて物好きはいない。特記戦力なんていうと特別な感じがして耳障りは良いが、要は化け物だ。

 味方からも畏怖されている事が多い。

 正直チクリと心が痛むが、仕方あるまい…


「おはようございます」

 物好きがいた。

 エミリアはトウモロコシ粉とスープもどきを持って俺の向かいに腰を下ろす。

 挨拶を返し、食事を続けた。

 にわかに兵士たちがざわつく。


 昨夜の戦闘が終わってどさくさに訪れた隣エリアの小隊長の話は聞いていても、見るのは初なのだろう。

 そりゃあ戦場にこんな美女がいたら野郎どもは騒がしくなって当然だ。

 彼女が持っていると、トウモロコシの粉も高級菓子に見えて来る。

 菓子なんてもう一年も食ってないな…

 くだらない事を考えていたその時。


 フッと、野営地に影が差す。


 東の方角から大きな影がいくつか、”飛んで”いた。


 そうか、今日は空爆があるんだな。


 影は全部で6つ。


 同盟国である、東の国からだ。

 青龍に乗った6人の騎士。

 東の国第2航空師団の精鋭、青の稲妻。

 彼等は猛スピードで我々の上を過ぎ去り、敵潜伏地とみられる丘の向こう側へと飛んでいった。


 瞬間、轟音が響き、丘の向こう側に次々と青い火柱がたった。


 ドラゴンによるブレス攻撃だ。

 ウリダン側はたまったもんじゃないだろう。

 地下壕に隠れるしかないだろうからな。


 ドラゴンを落とすには優れた射手と、ある程度の高地、対龍バリスタが必要になる。

 ウリダンがそんな物を前線に持ち込めるなら、今頃俺たちは色んな意味で全滅してる。


 何より、ブルードラゴンは速い。

 落とすのも並大抵の事ではない。

 何種かいるドラゴンの中でも由緒ある血統の一つで、東の国のみと友好を結んでいる。


 爆撃の嵐が止み、美しい編隊飛行のまま朝日にサファイア色の鱗を煌めかせ、来た時とは反対にゆっくりと我々の頭上を過ぎていく。


 完全に過ぎ去ろうという時、先頭のひときわ大きなドラゴンが、まるで我々を鼓舞するように雄叫びをあげる。呼応するように地上の兵士たちが拳を振りかざして叫んだ。

 確かに心強いが、奴らが敵になった時のことを考えると、ぬか喜びは出来ない。


 あの精鋭部隊の隊長は東の国の特記戦力であり、”雷”の二つ名を持つ男、ライゼン。

 特記戦力にとって他の二つ名持ちは危険な存在だ。

 己と唯一、互角以上に渡り合える存在。

 つまり、殺されるかもしれないという事だ。前線の真っ只中に放り出され、敵軍1000人に囲まれるより、特記戦力一人相手にする方が嫌だね。


 視線を落とすと、エミリアと目が合った。

「東の国はドラゴンがいる限り安泰でしょうね…」


 彼女の呟きにスープもどきをかきこみながら答える。

「確かに、並大抵の兵じゃ太刀打ち出来んだろうな、特記戦力からしても、上を飛ばれている以上どうしようもない。食事が終わったら指揮所に来てくれ、明るくなり過ぎる前にメンツを紹介してほしい。」


 立ち上がり鍋を片付ける。エミリアは了解ですと返事を返し、食事を続けた。

 俺が立ちがると、不躾な男たちの視線がエミリアに注がれる。

 彼女は何ら気にしちゃいないようだ、もう慣れっこなのか。チラリと俺が兵達を見ると、彼等は慌ててエミリアから視線を外した。

 まったく、飢えた野獣だな。


 指揮所ではギルが粗末な木製の椅子に腰掛けていた。

「おはようございますアルバート殿、準備はお済みのようですね。顔合わせが終わり次第、即刻出立という事で?」


 まぁ、グダグダしてても仕方ないしな。

「あぁ、その予定だ。俺がいない間、中隊を頼んだぞ、全滅の知らせなんて聞きたくないからな?」


 ギルはクックッと不敵な笑みを浮かべた。

「腐っても元精鋭、こんな所で死にはせんですよ。」

 頼もしいおっさんだ。

 部隊は全滅してもこいつだけはピンピンしてそうだな。

 そもそも人数不足で特記戦力が与えられていただけの話。俺が離れるのなら補填兵が当てられるだろう。

 戻って来たら中央の戦場か…


 そうこうしているとエミリア他5名の小隊メンバーが到着した。

 足が速く、忍耐強い、隠密行動に長けた者を厳選してもらい、数を絞ったのだ。

「右からエド、レーネ、サンデル、リオン、コベナです。皆偵察経験のある、優秀な隊員です」


 エミリアはにこにことメンバーを紹介した。

 エドはガタイのいい、鷲鼻で赤毛の短髪な男だ。年の頃は20そこそこといった感じか。


 レーネは若い小柄で細身の金髪の女性、大きな瞳が可愛らしいが、手の皮のタコから、ナイフをよく扱うのが分かる。


 サンデルは長身細身の黒髪…成人したばかりじゃないのか?


 リオンはギルよりやや下だろう、ベテランの貫禄が漂っている。白髪混じりの男。


 コベナは中肉中背、目の下に付いている切り傷と、鋭い目つきが特徴的だ。


 全員ある程度修羅場をくぐった、猛者たちのようだ、一人を除いて。

「そこの若いの、サンデルだったっけか? いくつだ?ずいぶん幼く見えるが。」


 声を掛けられたサンデルはびくっ!と大きく目を見開き、口をパクパクさせながら答えた。「1、19っす!きょきょ去年前線に配属になりましたっす!」

 なんだその語尾は…キョドり過ぎだろう…大丈夫かこいつ?

 エミリアが少し慌てた様子で弁護する。

「い、今は少し緊張していますが、彼は優秀です。部隊で上げた戦功も少なくはありません。それに、4名は私が選抜したのですが、1名足りなかったため、立候補制にしたのです…が…」


 なるほど、こいつしか立候補しなかったんだなこれは。

「立候補した理由は?」


 サンデルはキラキラした目でこう答えた。

「自分、アルバート様に憧れてまして!抜刀術練習してるんす!髪色も同じだし!年も一つしか違わないし!何より二つ名を….あ、えっと、すんません!必ずお役に立ってみせます!!」


 親指切り落とし掛けてたけどな、と、隣のコベナがボソッと呟いた。

 自分首っすか…?と言わんばかりの子犬のような顔で見つめてくるサンデル。

 うん、メンドくせぇ。

 顔に出てたのか、ギルが苦笑する。

「あー…まぁ、足を引っ張るなよ?特務なんだ、失敗は許されん。生きて戻ったら、剣術を見てやる。」

 ぱああっと表情を明るくし元気よく頷くサンデル。生きて戻ったらな。

 よし、次行こう。

「えーっと、レーネだったな?見た所ナイ


 最後まで言い切れなかった。何故ならば。


「気安く名前呼んでんじゃないわよ、タコ!目上の人には敬語でしょ!」

 突然怒鳴りだしたからだ。


 …おお?


 俺か?俺が怒鳴られたのか?


 レーネは俺が瞬きしてる間にエミリアに口を、コベナに手を、エドに足をロックされ、バタバタもがいている。

 リオンが引きつった顔で釈明した。


「この娘は、あー、腕は確かなんですがおつむが少し足りなくて、無礼をお詫びします…」

 流石に足りなすぎるだろう、ビックリしたわ。特記戦力に対する認識不足が過ぎる。

「い、いや別に、気にしちゃいない。びっくりはしたがな…」

 レーネはエミリアに耳を掴まれ離れたところで説教食らってる。


 だってお姉様!目上の人には敬語って言ってたじゃない!とか聞こえる。

 馬鹿の一つ覚えかよ。

 エドとコベナが申し訳なさそうにこちらを見る。

「あー、アルバート様気にしないでくだせぇ、大丈夫、任務には支障ないようにしますんで…」とコベナ。


「部隊の者が…失礼をしました…」とエド。

 てかエド声小さいよ、ガタイに合わな過ぎる…

「と、とりあえず、あの説教が終わったら出発だ」


 何と無く締まらないが、ギルに別れを告げ、レーネは耳を引っ張られたまま、野営地を出た。

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