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5.痛み

 指揮所から少し離れた岩場近くの焚き火後に二人で腰を下ろす。


 枯れ木をよそって、火打石で火を起こした。

 エミリアは膝を抱え、子供のように座り込むと、指揮所にいた時と同じように、憂いを含んだ儚げな表情で揺れる火を眺めている。


 俺はその向かいに胡座をかいて彼女を見つめる。

 なんと声を掛けたものか。まぁしかしこのまま彼女を見つめてる訳にもいくまい…

「聞かせてもらおうか…親父さんのことを」


 コクリと頷くと、まんじりともしないまま、彼女はぽつぽつと語り出した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 四年前、成人を控えたエミリアは、グランデ家の館のバルコニーから、そっと門の方を見つめていた。

 館の入り口にはウリダンの血を引く貴族を弾圧する荒れた民衆達で埋め尽くされていた。


 彼等の主張は、アデリア建国時からの由緒ある純血の貴族ではない、ウリダンからの移民とその血を引く貴族を国内から追い出し、その特権を廃止せよと言うものだった。


 裏で糸を引いていたのは、非純血の貴族と利権を争っていた、愛国心に溢れる純血の貴族達。彼等は高まるウリダンとの戦争危機を上手く利用し、街頭演説、新聞の発行などを使い徐々に徐々に国民の差別的感情を煽っていった。


 暴徒寸前まで膨れ上がった国民の感情は、四人のウリダンの血を引く貴族へと向いていた。

 エミリアのグランデ家もその一つである。


「エミリア、外に顔を出してはいけないよ。危険だからね。」


 彼女は父であるグランデ卿に言われ、屋敷の中へと戻る。

 今やこの館には使用人もおらず、彼女と父の二人だった。

「話があるんだ。」


 グランデ卿は革張りのソファに腰掛け、エミリアを呼ぶ。

「なんでしょう、お父様?」


 彼女は気丈に、つとめて笑顔で父の向かいに腰を下ろす。

 父は深刻そうな顔で彼女に語りかける。

「お前を、この屋敷から逃す手筈が整った。」


 笑顔が凍る。

「いいえお父様、私は屋敷を離れません。グランデ家の跡取りとして、ここを離れる訳にはいきません」


 首を振るグランデ卿。

「私は近いうちに処断されるだろう。まだ若いお前は恩赦を下されるかもしれないが、財産も無く、ウリダンの血を半分引くお前が貴族達の間でろくな扱いを受けないのは目に見えている。」


 話ながら指を組み、悲しげな表情で天井を見上げる卿。

「今夜、お前を逃す。お前はウリダンの親族の元へ飛ぶのだ。」


 卿は覚悟を決めた表情でエミリアを見つめる。

 父が近いうちに処断される事は、聡いエミリアには分かっていた。

 そして若い娘である自分がどのような扱いを受けるかも。

 だが、自分だけ生き延びるなど…

「エミリア、分かっておくれ。お前は男手一つで育てた私の大切な宝物だ。不幸になって欲しくない。」


 それが父の意ならば…

 エミリアは頷いた。これが今生の別れになるのか。

「分かりました、お父様」

 彼女はにこりと笑い、頷いた。

 その瞳には、大粒の涙がたまっていた。


 父を含む4人の貴族とその家族が、火あぶりにあったと知ったのは、逃亡から1日目の夜中であった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺は片手を上げて話を遮った。

 これ以上、人の傷口に塩塗るような真似はよそう。どのような経緯で彼女が軍に所属し、最前線に来ることになったのかは分からないが、その出自の逸話は信用に足るものだろう。


 何よりギルが信じていたと言うのは大きい。彼は裏を取らずに人の話を信用するほど間抜けな人間ではない。

「分かった、君のことは信用しよう。俺たちの”考え”に賛同していると言うことも、納得がいった。」


 彼女は一つ頷くと、キリっとした表情でこう言った。

「必ず、お役に立ってみせます。」


 うん、いいだろう。覚悟は決まっているようだ。一眠りして、明朝には出発しよう。

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