3.かまいたち
ウリダン側の兵士達は決死の覚悟を決めた。
前方から駆けてくる黒髪の青年、彼こそ一騎当千アルバート、ウリダンの戦士に知らぬ者はいない剣士である。
前線にたどり着いた彼を止めるべく、5人の兵が立ちはだかる。
いずれも腕に自信のある、前線で紛争を生き抜いてきた猛者である。
怒号鳴り止まぬ戦場に、五人とアルバートを中心とした奇妙な空白地帯が出来る。
一瞬の空白…
兵士の一人がアルバートに躍りかかる。
一閃。
キイィン…という子気味のいい音ともに、兵士の体は上下に両断された。
驚愕の剣技である。
閃いたと思えば刀身はすでに鞘の中。
しかしウリダンの誇り高き戦士は引きはしない。
声を張り上げ4人同時に、見事な連携で襲いかかる。
四方を囲い上段、中段、下段からタイミングをずらし斬りかかる。
対するアルバートは、静。
刀の柄に手を添え、一切の動きを見せていなかった。
4本の剣がまさに彼を細切れにしようとしている、誰が見ても反撃など不可能な状況。
だがしかし、剣閃が閃き、残るは血溜まりに倒れる4人。
たったのニ撃である。
これこそ、アルバートが最速と評される理由、極まったカウンター、居合斬りである。
その剣速は音を置き去りにし、光のみを残す。
見極めることは困難、どの様な手練れであれ、その初撃を防ぐことは難しい。
さすがのウリダン兵達も、その剣技を目の当たりにし動揺が走る。
ウリダン有利だった戦況が、傾き始めた。
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アルバートは荒野を見渡した。
結果は俺たちアデリア軍の勝利となった。
奇襲を仕掛けたウリダン側は戦闘開始地点から2キロ追いやられた所で白旗を揚げた。
だがこんな小競り合いに一時的に勝利した所で、何の意味もない。
ウリダンとアデリアのバハラット地帯での紛争は、始まってからたったの半年で50万人と言う莫大な数の死者を出した。
停戦の調印は成される気配が無い。
両国の兵士は疲弊しており、心身共に深い傷を負っていた。
心をやられて送還される者も少なくは無い。
国境はウリダン側が広くなったり、逆にアデリア側が広くなったりしているが、世界地図で見れば、ほんの線一本分以下の変化でしかなかった。
ウチの兵士達は、傷の手当や、点呼をとったり、先の戦で破壊された土嚢を荒れた平地に積み上げる作業でてんてこ舞いだ。
俺はそんな面倒な仕事を押し付けられることはない。
俺には軍隊における階級というものも無いのだ。
作戦指揮上での扱いは、特記戦力。
一個中隊と同じ扱いになる。
時刻も夕方、夕日を背に荒地の岩に腰を下ろして刀についた血糊を落としていると、伝令兵が駆け寄って来た。
「アルバート殿、中隊長が指揮所にてお待ちです!連隊長から特務が降ったため、至急おいで下さるようとの事です!」
連隊長様からの特務か…
これはまた面倒な事になりそうだ…
伝令兵に礼を伝え、俺は指揮所へと歩き出した。