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月が欲しいと泣きました。  作者: 唯代終
プロローグ
1/20

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 風が吹くたび桜の花弁が舞い落ちてくるさまは、細やかな雪がふわふわと降っているようだ。

 ぎゅっと、胸元と首が締め上げられたような気がして、意識して呼吸する。


「カケル」


 背後にいたワタルが、真っ直ぐにこちらを見てくる。

 なんでもないと手を振って答えれば、彼は小さく肩をすくめて見せた。

 桜の木で出来たトンネルを、二人で歩いていく。

 ワタルは着慣れない制服が落ち着かないのか、裾や袖口を指先でいじりながら後ろをついてくる。いつもよりぐっと静かなのがほんのり気味悪くて、落ち着かない。

 並ぶ墓石の横を通り抜け、黙々と歩いていく。

 遠くのほうから花見客が騒いでいる声が聞こえてくる。楽しそうなどんちゃん騒ぎを耳に入れ、並ぶ墓石を目に入れ。不釣合いなそれらがなんとなく面白くて、笑みがこぼれた。

 目的の場所について、足を止める。追従していたワタルも、足を止めた。

 目の前にある墓石。

 刻んである名前を見て、またじんわりと苦しくなる。

 瞬きをするたびに白に散る赤が浮かんで、ちくちくと刺されるようだ。


「どーも、後輩になったんで挨拶しにきました」


 一歩前に踏み出したワタルが、墓石にむかって挨拶する。


「カケルから話は聞いてました、四ヶ月経ってからだったけど。早く教えてくださいよ、からかえなかったじゃないですか」

「まだそれ、根に持ってたんだ」

「うるさいな、ずっと根に持つよそりゃ」


 ぎっと睨まれたので、降参の意を伝えるために両手をあげる。「バカにしてるでしょ」と、余計に睨まれた。納得いかない。

 墓石の前にはぬいぐるみであったり花だったりが置いてあった。中にはお菓子の袋もある。賞味期限は、まだ先のようだった。

 ワタルがぺらぺらと話しているあいだ、僕はなにを伝えるべきなんだろうと考える。

 高校三年生になって、受験が大変になるだろうこと? ――そんなの、些細なことだ。

 じゃあ教会にいるみんなの様子とか。奈緒ちゃんや純哉くん、稔さんのこととか。――そういうのは本人たちが自分で伝えることだよね。

 じゃあ弟が同じ高校に来たよってこととか。――それはもうワタルがもう伝えているか。

 物言わぬ墓石の前でしゃべり続けるワタルと、黙って考えている僕は、関係ない人から見たら面白いかもしれない。

 すっと、ワタルが後ろに下がった。


「ほら、カケルも報告することあるんでしょ」


 その一言で、ぐるぐると悩んでいたものが全部飛んでいく。

 小さく、けれどしっかり深呼吸してから、一言。


「僕はもう、大丈夫だよ。今までありがとう」


 荷物から長細い深い蒼色の箱を取り出し、墓石の前に置く。腕につけていたブレスレットが、きらりと光った気がした。

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