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姫!異世界と逆ハーレム!? ループ2

挿絵(By みてみん)

点々と薄暗い明かりの点いた狭い廊下を黒い翼の生えた男はひた走る。

金属質の音を廊下中に響かせながらとある場所を目指しているようだ。

その様子は焦っているようで、目の前の大きな扉にノックもすることもなく勢い良く踏み込み扉の先――――豪華な装飾を施された広間の最奥に位置する玉座へと近づくと、恭しく跪いた。


「何事だバエル、騒々しいぞ」

「申し上げます魔王様!パ、パンドラの箱が・・・・・・起動されました!」

「・・・・・・何だと?」

「ダイダロスの警備として配置したダーク・スライム達は敗走!ミノタウロスは・・・・・・」

「もうよい。元よりミノタウロスには威圧以外の効果は期待していない。異世界ならば感付かれないと思っていたが誤算だった。・・・・・・しかし、またしても現れることになるか、勇者め・・・・・・」


玉座に佇む、魔王と呼ばれた男は辟易としながらも勇者について考えを巡らせる。約10年前にも現れ、先代を滅ぼした者がいた――――彼の者は先代魔王を打倒せしめた後、光となって消えたという。

「ぼでぃー・びるだー・・・・・・!またヤツなのか!」

ギリ・・・・・・と歯を噛み締め、魔王は考える。此度の正体不明の勇者とは誰なのか――――




「へ・・・・・・へっくち!」

唐突に武蔵野猛(むさしの たけし)は可愛らしいくしゃみを漏らす。この平野はそこまで寒いところではないが、不安で体に何か異変が起きたのだと推測する。

猛は既にこの訳の分からない地に来て30分ほど経ったが、目覚めた場所から動けないでいた。現状を理解しようと周りを何度確認しても、見渡す限りの平野と、樹海のような深い森。遠くには山々が連なる山脈地帯。そしてそう遠くない距離には城壁のような高い壁が囲む何かがあるだけであった。


「まずは状況を整理しよう・・・・・・。まずここは俺の部屋じゃない。腹が減ってきたし、ココは夢でもなんでもなくて現実ってことか?さっきまでL.Lやってたハズなのにいつログアウトしたんだっけ?」

猛は自分の腹を押さえると、唸り声のような音が返ってくる。間違いなく夢では無く、現実だ。L.Lからは知らない間にログアウトしていたらしい。それよりもこの状況で猛には思案するべきことがあった。


(分からん・・・・・・。ここから電車でアパートまで帰れるのか?絶対に無理そうだけど・・・・・・)

彼の頭はますます混乱する。時間を確認しようと左腕の腕時計を見るが、着けているのはよく見慣れたバングルだけだ。これでは時間を確認することは出来ないだろう。



賢明な方は既に気付いていることだと思うが、彼の今の姿はくたびれた男、武蔵野猛ではない。可憐な少女の姿である。

猛は気の動転により、自身の姿がスモモであることに気付いていない。いや、あまりにも見慣れてしまっているために意識から除外してしまっているというのが正しいだろうか。ネカマをやりすぎると現実の世界でも偶に女性の言葉遣いが出てしまうものだが、要因は今の猛と同じでその状態が”当たり前”だと感じてしまうためである。


「会社もう始まってるだろうな・・・・・・。また係長に怒られる・・・・・・」

スモモの姿で猛はだるそうにうなだれる。

「とりあえず、人を探そう!ここが何県なのかも分からないんじゃどうにもならない」

ここにずっと座っていても何も始まらないと、行動を起こそうとスモモは立ち上がる。情報を足で稼ぐのは営業マンの基本であり、猛が5年間続けてきたことだ。


「あ、あれ?」

立ち上がった猛は唐突に違和感に襲われる。

(俺の身長ってこんなに低かったっけ?180はあるはずなんだけど・・・・・・。それに体も軽い)

スモモの体は140cm後半ほどの身長しかないので猛の体よりも視点が低くなるのは当然である。設定された体重も38kgなので猛より30kgも軽い。


「・・・・・・まあいいか。それよりも人を探さないと・・・・・・」

彼はこの違和感の解決を後回しにする。ここまで来ても、猛は自分の姿に気付くことは無い。

猛は諸々の気がかりを残しながらも、遂に目覚めた場所から歩き出した。行く宛も、ここがどこであるかも知らぬままに――――


(とりあえずあの城壁みたいなやつに行って見よう。ここからそう遠くないみたいだ。)

猛は最初の目的地を高い壁に囲まれた場所と定めた。他のところを探そうにも山脈地帯とどこまでも続く平野、他には森林以外、彼の目に付くものは無かったために実質消去法による結果である。

城壁ならば徒歩による移動でも一時間程度で到着するだろう。

「うおりゃあああああああー!!」

可愛らしい雄たけびを一つ、彼は走り出した。一刻も早く人に会いたいと、その足並みは早くなる。

スカートがひらひらと揺れ、猛の足をこれまで感じたことが無い不思議な感覚が襲うが、それを無視する。


「はあ~・・・・・・はあ~・・・・・・」

一心不乱に走り続けた猛は程無くして城壁とはもう目と鼻の先の距離まで到着した。

肩で息を吐き、呼吸は大きく乱れている。汗も止まらず彼の服をじわりとぬらし、辺りを石鹸のような爽やかな香りが漂う。

(さ、流石に全力疾走は・・・・・・キッツイな・・・・・・!)

歩きながら呼吸を整え、彼は目の前にそびえ立つ壁を見つめる。その奥からは人々が生活していることを示す喧騒が聞こえてくる。

瞬間、猛の不安は安心へと変わった。この場所は街である、と。

「間違いない・・・・・・ここに人が住んでる!やった!これで家に帰ることが出来るぞ!」

猛は壁を伝いながら歩き始めた。人が住んでいるならば、どこかで必ずどこかに入り口があるはずである。

歩き出すとすぐさま目当ての物は見つかった。しかし、それはあまりにも彼には見覚えのない、二つ開きで大きな鋼鉄製の扉だった。

それはまさに城門と呼ぶに相応しく、その開かれた扉は圧倒的な存在感をもってその場所を訪れる者たちを出迎えている。


「でけえええ~・・・・・・」

あんぐりとだらしなく口を開き、思わず猛は感嘆の符を漏らした。この地に目覚めてからというもの、どこを見ても驚くことばかりだ。

(あそこに誰かがいる!?)

その城門の前には、胸当てと腰鎧を装備した男が二人談笑していた。恐らくは衛兵の様で、腰には帯剣している。見た目の年齢は猛よりは若そうだと感じられた。

(これは、ドラマの撮影かな?でも良かったぁ・・・・・・!彼らにこの場所はどこか聞こう!)

彼は足早にその男達の下へと向かった。



「あの~・・・・・・すみません」

城門前の男の一人に猛は限り無く低姿勢で話しかける。営業職特有の職業病みたいなもので、面識の無い人間に話しかける際にはつい腰が低くなってしまうのである。


「はッ!どのような御用でありますか?」

猛が話しかけると、先ほどの砕けた雰囲気だった二人とはうって変わって姿勢を正し、横並びに整列した。表情も真面目そのもの。恐らくは彼らも企業の末端社員なのだろうと猛は感じた。

(会社員は大変だよなぁ・・・・・・。彼らも何回も練習したんだろうな)

と、しみじみと猛は共感する。彼ら二人への緊張が少しは解けた後、言葉を続ける。

「一つお伺いしたいのですが、ここは日本の何県なのでしょうか?」



本日が門番の担当である赴任したての王国兵士パスカルは、ガッチリ体型である同僚のゴリスと今日も平和だななどと話しに花を咲かせていた。だが突然現れた珍客の質問に困惑することになる。

その珍客と言うのがこれまたとんでもない絶世の美少女なのである。幼い顔立ちながらに漂う高貴な雰囲気と、男の視線を捕らえて放さない妖艶さまで持ち合わせている。誰が見ても只者ではないと感じる少女が意味の分からない事をのたまうものだからパスカルはたまらない。彼は同僚のゴリスに助けを求める。主にこの質問に対する答えについて。二人は少し彼女から離れ、聞こえないように顔を近づけ小声で相談を始める。


「・・・・・・ゴリス。どう答える?ニホンなんて国家知らないぞ・・・・・・?」

「・・・・・・俺もだ。正直に答えるしかないだろうな。恐らくはニホンという国の、ナニケンという都市を探して一人旅をしているお偉いさんだろう。あの佇まいは只者じゃあないね。亡国の姫君とか。俺にはわかる。」

「流石はゴリスだ・・・・・・!頼りになる」

「パスカル・・・・・・そろそろ質問に答えないとお偉いさんに失礼に当たる。行くぞ」

二人は緊張に顔を強張らせながら、振り返りスモモの元へと歩き出した。




猛は先ほどの兵士達に質問してから約5分間程経っただろうか。少々お待ちくださいと言われすぐそこにあった、座り心地の良さそうな切り株に腰を下ろしていた。

考えてみれば、平野で目覚めてからこの城門に辿りつくまで休むこと無く動き続けていたのだ。腰を下ろすと途端に体を疲れが襲ってきた。

(か~ッ!疲れた・・・・・・見ろよこの太もも。強張ってやがる)

猛は自身の、ニーソックスに包まれた太ももをさすっている。表面はつるつるとした柔肌なのだが、少し手に力を入れると筋肉の硬直が伝わってきた。

足を休めるため、プラプラと緩やかに振る。しばし思考と体を切り離し休んでいたのだが、猛が気が付くといつの間にか目の前には例の衛兵2人が立っていた。


「あ、すみません!ボーっとしてて・・・・・・」

慌てて猛は切り株から腰を起こす。

「いえ!我々こそ数々のご無礼、失礼致しました!」

とガッチリとした体の男が腰を直角に曲げ猛に謝罪するが、身に覚えが無い猛は更に慌てて言葉を返す。

「き、気にしないでください!謝るほどの事じゃないですよ!」

「あなた様はお優しい方なのですね。」

今度はもう一人の身長が高く綺麗な金髪の衛兵が心底感服した様子で跪き、そのままの姿勢を崩さぬまま話を続ける。


「先ほどの質問への返答なのですが、結論から申し上げますとこの地はニホンではございません。ここは大陸ロードガイアの南東に位置する国家”バラガルド”の治める都市”ラ・ヴィガルド”でございます。ニホンという国を知らぬ不勉強なこの身をお許しください」

「・・・・・・え?」

「お怒りは理解していますが、どうかお鎮め下さい。私、ゴリスとパスカルの両名は地図に載っていない国家を知らぬ浅学の身。情報を集めるならば都市内の冒険者ギルドを訪ねるがよろしいかと。異国の姫君様」

「え?え?」



猛の頭を聞きなれない単語が幾つも行き交う。”ロードガイア”、”バラガルド”、”ヴィガルド”・・・・・・。

(なんだよそれ!?聞いたことないし日本が地図に載ってないだって!?この場所は日本どころか地球ですらないって言うのか!?嘘だろ?訳が分からない!)

持ち得る知識を総動員して考えるが、今や猛の頭は浮かんでは消える仮説で頭がパンク寸前だった。

(営業の成績がダメだったから飛ばされたのか!?いや、もしかしたら朝飯のハムエッグに当たって食中毒で死んだのか!?いま居るのは死後の世界か?・・・・・・いや違う!死んでたら疲れもしないし腹も減らない!ああもうどうなってんだ!心当たりが無いぞ!)

過去の記憶を探り、要因として考えられる事柄は無いと決定付けようとした猛だったが、ふと彼の頭に目覚める直前のプレイしていたL.Lの記憶が蘇る。

そして少しずつそれは確信へと変わる。


「・・・・・・まさかあの箱?」

「いかがしましたか?何か考え事をされているようでしたが?」

「・・・・・・あれが実はスイッチで異世界へと繋がっていた・・・・・・?」

「異世界・・・・・・ですか?」

ぶつぶつと独り言を叩きながら猛は完全に自分の世界に入り、考える。



パスカルはまたしても困惑に顔をしかめた。異世界とは何なのか、困ったときにはゴリスだ。彼ならばこの問題にも答えを出してくれるだろうと考え、耳打ちする。

「ゴリス?どう思う?」

「どう思うも何も姫君様は、大いなる海を越えた先にあると言われる大陸から何らかの要因でやってきたということだろうな。やはり予想は正しかった。」

「というと?」

パスカルはいまいち要領が掴めない。ゴリスに更なる説明を求めると、少しワクワクした様子で話し出した。彼女は何者なのか・・・・・・。

「いいか?良く聞けパスカル。あのお方は間違いなく何処かの亡国の姫君だ。恐らくは大戦か何かで滅び、何者かの法術でこの大陸まで飛ばされた、ということだろう。それをあの御方は異世界と繋がったと例えた!ニホンとは戦火を逃れた同盟国。そこを訪ね再起を図るため気丈にも一人旅をなされているのだろう。俺には分かる」

「ゴリス・・・・・・お前そこまで考えて・・・・・・流石だ」

「よせやい。照れるじゃねえか」

パスカルはゴリスの友であることを心底誇りに思う。彼こそ深謀遠慮を体現した存在である、と。



(異世界なんてそんな信じられはずないじゃないか・・・・・・。今日の夕方まで会社で働いてたんだぞ!それがいきなりL.Lでクエストしてたら訳の分からない所に飛ばされて驚かないほうがどうかしてる!)

猛は再度切り株の上に腰を下ろし、考える。何故、ロードガイアへと自分が転移しなければならなくなったのか。

「・・・・・・あのクエストしかないよなあ」

ぼやくように呟く。ダイダロスのクエストだけが手がかりであった。

猛は考える。思えばクエストを開始したときから何かがおかしかった。グループチャットが使えないことに始まり、倒しても消滅しない敵モンスター・・・・・・。

(もしかしてあのクエスト自体が異世界の一部だった?それが何らかの理由でL.Lと繋がったのか?仮にそうだとすれば何かと辻褄は合う。・・・・・・だけど・・・・・・だけど・・・・・・!)

猛の葛藤は自分自身の思考の幅を狭めた。このままではどこだかも分からない地で現実世界への帰り方も分からないまま、死に行くのかと恐怖した。

武蔵野猛はあれこれと難しい事を考えるのが苦手である。ならばこの状況をプラスに展開することで努めて己の思考を単純化する。



(認めよう・・・・・・認めなくちゃ始まらない。あの箱のスイッチを押したら現実の世界からこちら側へとやってきた。この世界は異世界”ロードガイア”で、この地は”バラガルド”王国直轄の都市”ラ・ヴィガルド”だ。電車も無いし、俺の家も会社すら存在しない。)

猛は無理やりにでも自身を納得させた。現時点で家に帰ることが出来ない事実を噛み締め、この世界で生きていかなければならないと覚悟した。そして元の世界へと帰る方法を探そうと――――


彼の青い眼には不思議と悲しみの色は無かった。それよりもあるのは未知に対する歓喜の色。

(俺は何悩んでんだよ・・・・・・反省なんて全てが終わってからすればいいんだ。あの箱でこの世界に飛ばされたからってそれは変わらない。それよりも知らない世界だからこそ燃えるんじゃねえか!)

ダイダロスの塔の時と同じであった。武蔵野猛には少しばかり子供っぽい部分がある。それは好奇心と未知に対する冒険心――――

子供が大人へと成長するときに置いてきてしまう感情が、ヒーローへの憧憬の念によって彼の心の片隅にはちゃんと残っていた。

現実世界ならば必要のない物だと切り捨てられただろう。だが、ここは異世界ロードガイアである。ならば元の世界に帰るまでは自身の心の昂りを信じて進もうと、猛は心に誓う。

ロードガイアでの生活は、現実世界の自分の家に帰るまでのいわば長い長い寄り道だと定義付けた。ならば武蔵野猛が考えることはたった一つである。

(帰るまでにこの世界を骨の髄まで楽しむ!会社も、厳しいしがらみも無い、”新世界”で!武蔵野猛27歳の旅はここから始まる!)

切り替えが早い事が取り得であった猛は笑顔で衛兵に向き直る。その顔は先ほどの沈んだ表情ではない。キラキラと未来への期待に満ちた顔だった。



「・・・・・・それじゃあ冒険者ギルドというのに行ってみます。本当にありがとうございました!」

二人の衛兵に猛は深々と頭を下げる。ロードガイアの人間には意味が分からないであろう質問にも真摯に答えてくれたことに対する感謝の印だ。

目下最初の目的はこの大扉の先にあるという冒険者ギルドを訪ねるということ。恐らくはL.Lにもあったギルドと同じタイプの施設なのだろう。

「それではこのラ・ヴィガルドでどうかゆっくりしていってください姫君様!」

「貴方様の未来に幸運があらんことを姫君様!」

パスカルとゴリスという衛兵は頭を下げ、壮大な送り文句を猛に投げかける。


「・・・・・・姫君様?」


”姫君”――――その言葉は今しがた大扉をくぐろうとしていた猛を振り返らせるのに十分な威力があった。

(そういえばさっきからあの二人、俺を姫君とか何とか言ってたな・・・・・・ん!?姫君って事は・・・・・・!)

この地で目覚めてから猛が感じていた違和感――――。

何かがおかしいとは気が付いても何がおかしいのか彼には皆目検討が付いていなかった。しかし衛兵達の言葉に何かを感じ、走り出す。全力で。

猛は扉の前から少し離れた茂みに逃げ込むと己の姿を注視する。今度は何も見過ごすことが無いように。

(俺が今着ているのはフリフリと可愛らしい女神の寵愛とトレードマークの(おとこ)のネクタイ・・・・・・。穿いてるのはブロッキングミニスカート・・・・・・。スラックスじゃあ無い。これまた俺のおススメ超可愛いブーツに、手にはフィンガードレスのピースフルハンド・・・・・・そしてこの視点の低さと体重の軽さ。極めつけにチラチラと見えるピンク色のツインテール・・・・・・)

そして最後の確認である。これを確かめないと確証が持てないと、猛は自らのスカートに手を伸ばす。

(・・・・・・長年連れ添った相棒が、無い。)



挿絵(By みてみん)

「俺・・・・・・スモモだぁーーーッ!?」



「如何致しました!?」

茂みの中から突然に姫君の絶叫が聞こえてきたのである。慌ててパスカルとゴリスは駆けつけ声をかける。何かが起きてしまっては遅いのである。

「あ・・・・・・いえ~!何でも無いですよ~」

スモモは可愛らしい声色で異常が無いことを二人に伝える。態度が突然変化した事に驚く二人だったが、姫君が言うのならば何も無いのだろうと考え納得する。

「何事も起きなくて良かったです。・・・・・・してスモモとは何を指す言葉なのでありましょうか?」

ガッチリした男――――ゴリスは興味深そうに目をキラキラさせてスモモに尋ねる。


「そ!そ~ですね~!実は私の名前がスモモって言うんですけど、まだお二人には名乗ってなかったな~って!ははは~・・・・・・」

スモモは頭に手をかけながら愛想笑いし、先ほどの絶叫をごまかそうとする。

(しまった!これは流石に苦しいか?)

スモモの中にいる猛は早くも反省する。これでは不自然すぎるのではないかと・・・・・・

「そうなのですか!今後ともよろしくお願い致しますスモモ様!私はパスカルと申します。以後お見知りおきを!」

「ゴリスと申します!パスカルと共に王国の兵士をやっております!」

彼らはスモモが拍子抜けするほどにあっさりと信じた――――


武蔵野猛は約3年間のL.Lでのネカマ生活でとある癖が付いたのだが、それはスモモの姿で人と話すときはいつ何時でも可愛らしい女の子になりきってしまうというものだ。

ここまで徹底してネカマに成りきることができたのは偏に、猛が凝り性であること。そして女性を研究し尽くした為である。ある種無意識にやっているのである。


「そ、それでは失礼しますね。色々とありがとうございました~!」

スモモは二人に礼を述べると、返事も聞かずに足早に大扉へと向かって、逃げるようにネクタイを揺らしながら走っていく。このまま話していると何処かで致命的なミスを犯すかもしれないと思った為だ。それともう一つ、先ほどまで自分がスモモであることに少しも気付いていなかった自分自身の気恥ずかしさがスモモの足を大きく動かした。

彼女が去った後に残された衛兵二人は、スモモ様は元気な姫君だなと話しながら門番の仕事へと戻っていったそうな。



「はあ~。恥ずかしかったよぅ・・・・・・」

扉を潜り、目の前の大通りを脇目も振らずに5分程走り抜けたスモモはようやく落ち着きを取り戻した。自身の周りを見渡してみると、あの高さ5メートルはあろうかと思われる壁の中とは思えぬ程の活気に満ち溢れた人々の声と中世風に彩られたレンガ造りの町並みが彼女を出迎えた。

「こんなのL.Lにも無かったよ・・・・・・ラ・ヴィガルドすご~い!」

大通りのあらゆる場所にはスモモが見たことも無い食べ物の屋台が立ち並び、店主の威勢の良い声が飛び交っていた。スモモはすっかりと見とれてしまいきょろきょろと顔が動く。その様は初めて都会に出てきた者の様で、見るもの全てがスモモには新鮮だった。


(はっ!見とれてる場合じゃない!冒険者ギルドって言う場所に行かないと。確かあの衛兵はこの大通りを真っ直ぐ行って道が4方向に分裂した場所が街の中心部で、そこのすぐそこの一際大きな建物がギルドって言ってたな。迷わないようにしないと)

スモモは大通りを道なりに進んでいくと、程無くして大通りが交差する場所に大きな広場が見えてきた。そしてその広場の一角には三階建て程だろうか、大きな木造の建物がその両開きの扉を広く開け放っていた。入り口には火を噴く龍の看板がぶら下げてある。

「多分・・・・・・これだよね?は、入らなきゃ・・・・・・だよね?」

その建物の入り口の前に立つスモモは知らない建物を訪ねる事に少しばかりの恥ずかしさを感じたが、意を決するとネクタイを強く締め、その扉の中へと入っていった。



「ガッハッハ!見よワシの筋肉を!」

「おいおい!それじゃ勇者様の足元にも及ばんぜ」

「ワッハッハ!」

扉の先でスモモを出迎えたのはいかにもな見た目の荒くれ達の大声だ。

思わず身じろぎしてしまうのだが、平静を何とか保ちつつ手近なテーブルに座っていた胸当てをつけた男の所へと向かっていった。


冒険者ギルドの内部は二階建てであり広間にたくさんのテーブルが置いてある。中心には依頼が貼り付けてある掲示板と、奥にはギルドの受付と思われる4つの四角い穴の開いた壁が存在している。

入り口のすぐ近くと奥のスペースには大きな、木の階段が壁伝いに伸びており登った先は酒場となっているようで、スモモの所にも笑い声や男達の話す様が目に耳に入ってくる。

一階のギルドには荒くれ達以外にも、胸当てと剣を装備した剣士や大きな帽子にローブを羽織った魔法使いらしき女性など、L.L内でもスモモが見慣れた服装の者達もいるようだ。


(本当にここはファンタジーの世界なんだな)

スモモは改めてこの場所が異世界であることを実感する。

「まずは情報集めだね・・・・・・」

今日の目的は日本についての情報集めと、とりあえずの滞在先の確保である。

誰にも聞こえないように小声で呟いた。



「あの~少しいいですか?」

ギルドのテーブルで一息ついていた男に後ろからかけられる聞き覚えの無い透き通った女性の声。依頼か何かだと思いながら気だるげに振り向いた。

「ん?・・・・・・う、うわッ!」

彼の目に飛び込んできたのは御伽噺でしかお目にかかれないような常軌を逸した美人なのだ。思わず彼は座っていた簡素な椅子からもんどりうって転げ落ちてしまった。

「大丈夫ですか!?」

「ってて・・・・・・気にするな大丈夫だ。それよりどんな用件だ?依頼か?」

男は何とか立ち上がり、平静を装う。しかし内心は穏やかではない。

これまでモンスターとの戦いばかりしていたせいか、女よりもモンスターを見ている時の方が興奮しているとまで言われ、剣を抱く男とも噂される彼は今、狼狽している。

もう一度下に目線を向け、その少女の顔を見てみる。もしかしたら女日照りの影響でこんな美人が見えていたのかも知れないと。

(何てこった・・・・・・こりゃあ天使の生まれ変わりとか言われてもおかしくない美人だぞ)

「美しい・・・・・・」

無意識に口から出たのは月並みな褒め言葉だった。この言葉だけで彼女を表現できるとは思っていないが、それ以上の気の利いた文句を男は知らないのだ。そして――――

「え!?そ、そうですか?ありがとうございます!」

彼女の驚いた顔とその後の照れたような笑顔に・・・・・・。

男は虜となった。



(う~ん大丈夫なのかこの人・・・・・・)

スモモは眼前で上の空の男を見据え、辟易としていた。

(スモモが美しいって言われたのは嬉しいんだけどなぁ・・・・・・これでまともな話が出来るのだろうか?)

「あの~聞きたいことがあるんですが」

「・・・・・・美しい」

帰ってくるのは熱に浮かされたような返答ばかり。

目の前で手を振ってみても何も反応が無い。

(だ~めだこりゃ、てんで人の話を聞いちゃいない。やっぱり受付の人に聞くのが一番か)

「あの・・・・・・こっちから話しかけたのにごめんなさい!失礼します!」

スモモは早々に話を切り上げると恍惚に包まれた男に丁寧にお辞儀で礼を述べ、建物奥の職員らしき女性がいるギルドのカウンターへと足を進めた。


ギルドのカウンターでは冒険者達が掲示板から依頼の紙を持って受付をしている様が見て取れた。スモモは客が丁度離れた受付に、滑り込むように入り込む。

「これは可愛らしいお嬢さんね。本日はどうしました?」

カウンター越しに笑顔で話しかけてくる職員にスモモはうろたえた。いや、武蔵野猛の心が、だ。

(服の上から丸見えの谷間!ロケット爆乳!おまけに銀髪美人!現実じゃあまずお目にかかれない逸材!異世界・・・・・・いいねぇ!)

見た目は美少女であっても中身はただのしがない27歳のオッサンである猛には大いなる衝撃であった。思わずまじまじと直視してしまう。


「・・・・・・あの~?どうされましたか?」

スモモの中身が男であることにまったく気付かない職員は不思議そうに覗き込んでくる。

「あっ!いや!なんでもないんです!き、綺麗な人だな~って思っちゃってつい

!」

やっと猛からスモモへと意識が戻り、しどろもどろに返答する。スモモの周りには女性の甘い香りが広がり、鼻腔をくすぐるのだ。女性経験が少ない猛はたまったものではない。顔を真っ赤に沸騰させながらなんとか笑顔を作る。

「貴方様の方が可愛らしくて素敵ですよ?」

表情を崩さずに到って普通の事だとばかりに職員は話す。

「ありがとうございます~!」

ここでやっと平静を取り戻したスモモ。そう、今の猛はスモモなのだ。美少女に恥じない振る舞いをしなければ手塩にかけて育てたアバターに申し訳ないではないか。少なくとも一人になるまでは・・・・・・。

冷静さを取り戻したスモモは日本についての質問を、異世界であることをオブラートに包み職員に始めた。



「申し訳ありませんがこちらにニホンについての情報はございません」

「そうなんですか・・・・・・」

スモモは落胆半分、妥当半分といった感情で頷いた。ロードガイアの人間からすれば異世界の話である。知らないのは当然なのかもしれない。

「情報を集めるならばギルド所属の冒険者になってみては如何でしょうか?」

不意に職員からの提案。スモモには大雑把な意味は理解できるが詳しいところは分からない。

「えっと・・・・・・ごめんなさい。遠い異国からやってきたので冒険者とか良く分からなくて、教えてくれませんか?」

「畏まりました」

職員は笑顔で返答するとギルドとは、冒険者とは何かの説明し始めた。


「まず、ギルドとは人間の統治する国家全てが設置している国営機関です。依頼を受け、その内容を完遂することで依頼主様から報酬金が冒険者に与えられるという仕組みをとっております。依頼は中央の掲示板、もしくは依頼主様からの直接の依頼などあり、前者は誰でも、後者は冒険者として有名になると依頼される事がありますね。ここまではよろしいですか?」

「大丈夫です」

「コホン!それでは次にギルド所属の冒険者についてですが、ギルドに登録することで最低限の能力があれば誰でもなることが出来ます。ギルドに寄せられる依頼の殆どは登録された構成員のみが受けられるので、冒険者になるならばギルドで登録することをお勧めします。冒険者にはランクがあり、アイアンブロンゾシルバーゴールド黒鉄クロム白金プラチナ竜石ドラゴニックの7種類となっており、最初に鉄、功績を挙げ昇格していくことで最終ランクの竜石となっていきます。上級の冒険者になればそれだけ情報が集まりやすい傾向にありますね。よろしいですか?」

「あ、はい」




(そろそろ覚えられる限界かも・・・・・・とりあえず上を目指せば情報から寄ってく来る訳だな。だったら冒険者になるのは得策だな)

スモモは更に話を続ける職員にもう大丈夫だ、の意を伝えると登録する旨を話す。

「じゃあギルド冒険者になってみようと思います」

「ありがとうございます!それでは登録金の銀貨一枚をお納めいただけますか?」



「・・・・・・え?」

慌てて財布から金を出そうとするが、腰のポケットにも何も入っていない。

スモモは自身が財布を持っていないこと、ひいては金すら持っていないことに今更ながら気付いてしまった。顔は次第に青くなってゆく。

偶然とはいえ着の身着のままでこちらの世界に飛ばされてしまったのだから当然ではあるが、少しも考えていなかった。

今のスモモは文無し無職の底辺であることを・・・・・・


(やばいやばいやばいやばいやばい!!ど、どうする!?このままじゃ冒険者にもなれない!寝床は路地裏!スモモの体ボロボロ!食べ物も満足に食えない!あああああああああああああ!)

猛の頭で繰り広げられた冒険活劇はこれにて終幕!待っているのは地獄のホームレス生活である。その妄想が次々と駆け巡る。どこの世界でも先に立つ物はやはり金なのだ。



「あ、あの・・・・・・」

「な、なんですか!?」

気の動転を隠せぬままスモモは職員に振り向く。その表情はさながら獰猛な魔獣の様で、職員も少し怖気づく。

「えっとですね!お金が無いのでしたらあちらの掲示板に貼ってある緑色の紙の依頼を受けたら如何でしょうか?登録の必要無しで受けられるのでそれで費用を捻出するといいと思いますよ。報酬は正規の物より多少は少ないですが――――」

スモモは走り出す。中央の掲示板へと向かって猛ダッシュ!掲示板の隅の依頼の張り紙を見つけると、この世界の字はスモモには読めなかったので一番手近な緑色の紙を引っぺがすと来たルートを逆戻り。再び受付の下へと帰ってきた。


「これ、受けます!」

勢い良く張ってあった紙をカウンター越しに突きつける。かなりの大声だった様で、ギルド内の冒険者達の視線がスモモに集まるが本人に気にしている様子は無い。

「か、畏まりました。街道のゴブリン退治ですね。報酬は100銀貨と20銅貨です。よろしいですか?」

この世界における金銭の価値などまったく知らないスモモは二つ返事で了承する。それほどに現在の状況は切羽詰っているのだ。

「承りました。それではお名前をお願いします」

「武蔵――――いえ!スモモです!」

危うく本名を言いそうになるが、慌てて飲み込みL.Lでの自身の名を伝える。


「これにて依頼は受諾されました。スモモ様、連れて行くパーティーのメンバーなどはいらっしゃいませんか?」

「パーティー・・・・・・ですか?」

ふと、現実世界にいたL.Lの仲間達のことが頭をよぎる。

(そうか・・・・・・俺は今仲間なんていない。あっちの皆は俺を探してくれているのかな?ごめんな・・・・・・。帰ったらこっちでの大冒険をあいつらに教えてやろう。信じてくれないかも知れないけどな)

郷愁の念がスモモの興奮した頭を冷やす。

(やっぱり仲間がいないのは色々と辛いな。一人には限界があるし、第一寂しいじゃないか)

少しだけスモモの心に影がかかるが正直に職員に伝える。


「私は・・・・・・いないです」

「いないのでしたら、こちらで仲間を募りましょうか?報酬は山分けになってしまいますが一人で戦うよりも数人で戦う方が心強いと思います。見たところ依頼は初めてでしょうからお勧めしますよ」

「本当ですか!?」

この言葉はスモモにとって朗報であり、すぐさま了解の意を伝えた。


「それではこれから一刻の後にラ・ヴィガルド正門の前に来てください。メンバーはこちらで募っておきます。それでは御武運を」

「あの、ありがとうございました!」

スモモは深く職員に感謝すると、カウンターを離れ、ギルドの出入り口の外へと消えていった。

(時間まで街を見てこよう!どんな人が来てくれるのかな?)

「ワクワク・・・・・・!」

その足取りは軽く、スモモは街へと繰り出した。



「ゴブリン退治の依頼を受けていただける方いらっしゃいませんかー?」

スモモが消えたギルド内はやけに静かであった。それはまるで何かを待っているようで、ギルド職員の声がフロア内に響き渡るとその言葉に呼応するかのように椅子が動く軋んだ音が四方八方から聞こえたのだった。



「ふ~おいしかった!腹ごしらえも出来たしいつでもクエストに行けるね!」

先ほど入っていった門から再びスモモは外へと出る。平野で目覚めて以来感じていた空腹も、街の観光中に屋台の主から無料でもらった串焼きの肉料理を頬張ることですっかり解消し、彼女はご機嫌である。

(やっぱりスモモは何処に行っても可愛いってことだな~。感激だ!廃人冥利に尽きるぜ!もう少しでメンバーも集まるはずだし順風満帆だな!)

スモモは時間を確かめようと左手のバングルをタッチする。しかし何も反応は無く、画面を叩く音がするだけである。

「あ~そっか・・・・・・反応無しか、ココが異世界だからってことだからなんだろうなあ・・・・・・それならアイテムとかはどうなるんだろう?」

試しにスモモはL.Lで使っていたアイテムを取り出すために欲しいアイテムを頭に浮かべながら何も無い空間に手を伸ばす。が、掴むのはただの空気だけだった。

「ダメかぁ・・・・・・なら装備はどうだろう?」

現在のスモモは全くの丸腰である流石にクエストに出発するというのに武器も無しとは馬鹿にしているだろう。

L.Lでは装備している武器を戦闘時に呼び出すことが可能だったため、今度は”神の声を聞きし(ロード・クレリック)”の時に装備している”愛の杖 アフロディーテ”を頭の中で呼び起こす。


「お~!出た!」

スモモの右手には神の翼を生やした聖杖が、まるで手の中が自分の正位置だとばかりに自然と収まっていた。

(やった!これで最低限これとスキルでどうにかなる。なら次は・・・・・・)

次に、装備していない倉庫に眠る武器を想像する。しかしアフロディーテが消えるわけでもなく、何の変化も起きていない。

これらの現象からスモモは推測する。こちらの世界においてL.Lのスモモがどれだけ再現されているのかを。

(アイテム関連は取り出すことができない。あの課金アイテムも駄目だ。代わりにこっちに飛ばされた時点で装備していた武具はそのまま持ってくる事が出来るのか。ステータスとスキルは・・・・・・確認できないな。メニューが開けない。だけどスキルは使える・・・・・・そんな気がする)



スモモは自身の中に魔法の力を感じる。何故かは理解出来ないが、頭の中には使うことが可能なスキルの全てが記憶されている上に、その効力までも自らの力として実感していた。

神聖回復(アーク・ヒール)!」

杖を構え自分自身を対象に回復の魔法を発動する。L.Lではスキル発動時に対象を選択する為のアクションが必要だったが、それすらも必要なく願っただけで神聖回復はスモモに発動した。

心地の良い風が彼女を包み込み、体中に活力を与えていくのが実感できる。この現象はL.Lプレイ時には感じることが無いものだった。

アバターを介して感じることができるのは視覚、嗅覚だけだったのだが、今ではは五感全てが機能している。”スモモ”としては初めての出来事である。

(思った対象にスキルが発動するようになってるんだな。これは良い発見だ!そしてゲーム内のスキルが現実に起こったらこうなるのか。まだまだ検証は必要だろうな・・・・・・っとそろそろ時間か。他の確認はクエスト中に実戦でやってみよう)

スモモは作業を一旦中断し、クエストのメンバーを待つことにする。



扉の先から冒険者らしき武装した人影が走って向かってくるのをスモモは確認した。

数人程だろうか、スモモは安堵の息を漏らす。クエストの呼びかけに応じて駆けつけてくれたことに感謝した。

「本当に来てくれたんだ!これぐらいの人数の方が最初は気兼ねしなくていいから嬉しいなぁ・・・・・・ん?う、うわぁ!」

しかし何か様子がおかしいことに気付く。その影と足音がいやに多いのだ。

その様子はまるで暴動。大通りからこちらへと向かって爆走する謎の集団、スモモは溢れ出す異様さに動くことができなかった。

軍団はスモモの目の前で動きを止め、整列すると一番前を走っていたモヒカン頭に筋骨隆々の男が、その顔を紅潮させながら彼女に頭を下げる。

(ま、まさか・・・・・・!)

スモモを尋常ではない嫌な予感が襲い、冷や汗が滝のように流れ出す。願わくば予感が的中しないことを祈りながら彼らが違うクエストであることに一縷の望みをかけたのだが・・・・・・。



「今回のクエストォ!我ら50人一同!美しき貴方と共にィ!スモモさん!よろしくお願いします!!」

「よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!」

彼女の願いは粉々に打ち砕かれる。

モヒカンに続くように次々と頭を下げだす屈強な男達を前に――――

「よ、よろしくおねがいしますね・・・・・・」

スモモは引きつった笑顔で答えるのだった。


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