第三話
私が最後にプレイしていた乙女ゲームは、あるコンセプトの元に拘りぬいて作られている。タイトルの「Lovillains」、公式によればラビリンスと読むらしいこの単語は、loveとvillainを迷宮のラビリンスに掛けて作られた造語で、そっしてvillainの意味は、悪役だそう。つまり「悪役と恋をする」という、ある意味定番とも言えるシンプルなコンセプトを、これ以上無いくらい前面に押し出しているゲーム。しかもメインの攻略対象は魔王である。悪役イコール魔王という単純な図式を浮かべてしまう制作側を少し残念に思わなくもないが、その上悪役中の悪役たるべき魔王本人が全攻略対象中一番悪役らしくないという、色々間違った方向に張り切っているゲームなのだ。まぁ、魔王ファンに言わせれば、悪役らしくないのはライオンやオジカの方であって、魔王本人は悪に染まる手前で踏み止まっただけで、悪役の素質を十分に持っている……らしい。私? 私に言わせれば、魔王はどう考えたって勇者側だ。
メインキャラから悪役らしさを抜いたのには、多分カマキリやヘビのような傾いた悪役を好めない人向けに、当たりの柔らかいキャラクターを一番に持ってきたかったからだろうと私は思う。もしくは、魔王が良い人というこれまた王道のギャップが制作者のツボだったのか。ちなみに魔王だけは動物の呼び名が無くて、そのまま魔王だ。
しかしメインキャラクターが多くの乙ゲーマーの胸をときめかせられるからと言って、他のキャラクターもそうだとは限らない。少なくともこのゲームに関していえば、メインに惚れて他のルートでも甘いエンドを期待したら、それは単に騙されているだけだと言える。
ハイエナはまだ良い。あいつはどちらかと言うと第一印象が完全にテンプレな悪役で、世紀末臭すら漂っていたのが、段々と主人公に見せる姿が変わっていってそこに惚れさせる、これまたギャップ萌えの塊なのだから。運悪く(いっそ運良く)ルートに迷い込んだ、元はハイエナに興味の無かった面々が何人やられたか。勿論私もその一人である。
そんな甘いルートの攻略対象とは別に、コンセプトたる「悪役と恋をする」の後半部分を完全に無視しているルートがあるのだ。これについては公式があらかじめSNSで発信していたので間違いが無い。内容自体は「3人の攻略対象は一般向けじゃないので覚悟してください」だったが、その三人のうちどれか一人でもトゥルーエンドを迎えたら分かる。そもそも、一般向けとか以前に、恋ができない……いや、正しく言えば恋しかできない。想いは届かないのだ。
今までプレイした感触では、カマキリ、ヘビ、この二人はその恋が出来ないルートにいると見て間違いが無い。だけど後一人が曖昧で、クリアした他のどの攻略対象も恋が実ったと言えてしまう。だから、そう、きっと。
私が未だにクリアしていない、否、もう出来なくなってしまった、キツネ。
彼との恋は、きっと、実らない。
完璧な演技と丁寧な応対で、他の攻略対象とのルートでは最後に必ず魔王を裏切るという、まさにキツネの名に相応しい彼。
あぁ、私は。
張りついた笑顔の上でも良いから、彼と恋をしたかったのに。
ううん。
恋じゃなくても良いから、張りついた笑顔の下の本音を、聞きたかったのに。
あぁ。
レヴ。レヴィラト。
私は、貴方に、恋をしてた――――