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にじ の わ  作者: ぱに
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終章

 やがて、ニールの命が費える時が来ました。皆が、この世界の行く末を誰に委ねるつもりなのか、とても心配していました。戦争がなくなって、みんなが楽しく幸せに暮らしていました。時々変な人が現れても、ニールに相談すると、いさかいの芽が大きくなることはありませんでした。


 ジュリオはニールに尋ねました。

「次の国王は?」

 ニールの答えはこうでした。

「より、心の広いものを」


焦ったジュリオが尚も問います。

「では、東の国のパウロか? いや、ニライアのイタか?」

ジュリオの問いに、ニールはもう一度答えました。

「より、心の広いものを」

そして、一言付け足しました。

「この世界の全ての命を大切にできる、心の広いものを」


ジュリオは、十二の小さな王たちを集めて聞きました。

「皆さんの大切な民とは、誰ですか」

あるものは名を、あるものは部族を指しましたが、動物や植物の名を上げるものはいませんでした。


小さな王が十二人も居並ぶ中、ジュリオはニールに話の内容を伝えました。ニールはジュリオに言いました。

「当面は、君が王となるべきだろう」

ジュリオと十二の小さな王にそう告げると、ニールは息を引きとりました。


ジュリオもニールに習って、大木の横の小屋に住み、農業をしながら過ごしました。相談事の行列も、何一つ変わりません。変わったことと言えば時折、裏切りもののラウルがやってきて、ジュリオに農業のコツを習っては里に帰る事でした。ラウルは前国王の裏切りものとして、村外れの小屋に住み、貧しい生活をしていました。


やがて、ジュリオも最後の時が来たとき、ニールと同じ様に小さな王を集めて、ニールと同じ問いをしました。前回と同じに名を上げるもの、部族を上げるもの。前回の問いを覚えていて、全ての命を、と答えるもの。その中で、ジュリオがラウルに尋ねると、ラウルは、こう付け足しました。

「山を、川を。命を育むもの、全て」


「より、心の広いものを」

 ニールとジュリオの言葉の通り、ラウルが王となりました。

更に年月が過ぎ、ラウルも最後の時が来ました。小さな王たちは、われこそ心の広いものだと、互いに競いあいました。しかし、一人だけ権力争いに興味を持たない人物がいました。ラウルは彼を王としました。


 花冠を得るものは「心の広いもの」とされて、長い年月が過ぎました。いさかいの芽は徐々に少なくなりました。人々はニールの様に、より心の広い方を答えにして、自分たちで解決できるようになりました。


 やがて王様の謁見を求める行列は短くなり、ついには消えてしまいました。





 永い年月が過ぎました。


 今、王国に王はいません。ニールが、ジュリオが、ラウルが作り上げた志は、人々に争いを捨てさせ、より心の広いものを尊重し、自然と共に歩み、分かち合う世界へと変えていました。人々は動物の血肉はおろか、乳や蜜を奪うこともしなくなりました。


 鳥たちは今も昔も、国同士の境界線など関係なしに飛び、動物たちは檻にも柵にも怯えることなく、自由に野山を駆け巡っています。動物たちから何かを奪い取ろうとすることはなくなったので、動物に襲われることもありません。


 足りない人は、たくさん持つ人から貰い、足りない知恵は、たくさん持つ人が与えるのが当たり前になりました。だから、誰も飢えないし、困らないし、肌の色や、能力で、差別されることもありません。


 子供たちは小さなころから、国の始まりの本を読みます。全ての子供が大人になるまで、必ず読むことになっていました。「ニールの花冠」と題名のついた本は、こんな風に始まっています。


「東の国の外れの畑は、麦の穂が黄金色にたなびいています。大きな木の横にある粗末な小さな小屋には、一人の男が住んでいました。小屋には作業用の小さな机と寝台、炊事用の竈があります。男はそこで、一人きり。春も夏も秋も冬も、一人きりで過ごしていました」


 でも、もうその小屋はなく、美しい麦の穂が連なる畑があるばかりです。


 


 空はどこまでも青く、黄金色の麦の穂がたなびく、穏やかな午後の事でした。


昔国王が住んだと言われている廃虚の横で、一人の青年が昼寝をしていると、花冠を持つ少女がやってきて、花冠は誰のものと聞きました。

昔、「ニールの花冠」の本を読み聞かせられていた青年は、こう答えました。

「花冠は、惑星と、そこに生きる全ての命のものです。この惑星の常識ですよ?」


 少女は微笑みました。

「やっと、約束が果たされたわ」

少女はそう言うと天使に姿を変え、ふわりと天に舞い上がりました。天使の舞い上がった空から七色の光芒が降り注ぎ、天空に消えない虹が現れました。夜になっても消えないそれは、美しい水を湛えた緑豊かな惑星にかけられたでした。


 惑星の全ての生き物たちは、夜空にオーロラの様に美しい光を放つ虹の冠をとても喜び、いつまでもいつまでも眺めていました。 

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