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にじ の わ  作者: ぱに
2/5

 雪深いニライアの国の田舎に、ニール・ヨハン・クリスチャンセンは、六人の兄弟と両親と一緒に住んでいました。貧しい家には、ろくに食べる物もありません。お父さんとお母さんは、穀物や野菜を作って、冬は工芸品を作って生活していましたが、戦争が始まると、生活は苦しくなるばかりでした。


 ある日、キラキラと鋼が輝く鎧を身に着けた兵隊が村に来ました。

「国を強くするために、男の子を連れて行く。村中の十才から十五才の子供を全て、村の広場に集めろ」

 国王の印章の入った紙をひらひらとかざして、兵隊はいばった様子で村人に怒鳴ります。ニールも他の子供と同じように、広場に集められました。


「これから子供たちは、国を守る訓練をするために王都へ向かう。子供を差し出した親は、今年の税金を半分にする」

 兵隊はいばってそう言うと、わずかな手荷物しか持たせずに、子供を一列に並ばせて歩かせました。お父さんとお母さん、兄弟や村の人が見守る中、ニールと村の子供たちは、収穫祭が終わったばかりの村を出ました。


 長い長い道のりでした。雪が降る前の空は、にごった色の雲のせいで灰色に見えます。心まで灰色の雲におおわれて、何度も泣きそうになりました。靴は壊れ、冬の冷たい土が、足の裏から体の熱を奪います。途中でいくつかの村で同じように子供を集めながら、いばった兵隊たちは追い立てるように、子供を王都へと歩かせました。


 やがて大きな幅のある石畳の道になり、道の両側にはお店が並びはじめました。街道沿いの店を人がたくさん行き交うようになると、大きな石造りの門をくぐって、子供たちは王都に入りました。降誕祭が近いためでしょうか? 歌声や人にあふれていて、とても活気があります。華やかな王都の様子に浮かれていた子供たちは、鉄格子の門を見上げて、掲げられた看板の名前に驚きました。


 そこは、傭兵といって、国の正式な軍隊ではない兵隊を育てる場所でした。ニライアでは 貴族以外の人間は、軍隊の偉い人になることを許されていないのです。傭兵は命の危険が高い場所に、真っ先に送られます。命を落とすことが多い職業だということは、子供でも知っていました。


 鉄格子の中は傭兵の学校でした。子供たちはお風呂に入れられ、灰色に汚れた壁の食堂で、冷たいご飯を食べて、四人部屋にそれぞれ入れられました。翌日から、子供たちは傭兵の勉強を始めました。


 寂しくて、つらくて、寒くて、何日も家に帰りたいと思う日が続きました。傭兵の訓練は、何の飾りもない教室と、背丈より何倍も高い塀の中の運動場で行われました。訓練は特に厳しくて、終わると体を起こすことができなくなるほどでした。


 早く起きることが出来なくて、掃除を忘れたり、先生に言われた回数の訓練が出来ない時もありました。同じ部屋の一人が言いつけを守れないと、部屋の全員が罰を受けました。自由に街へ出ることも出来ず。簡単に逃げ出す事も許されません。


 運動場の真上に広がる青い空に、白い鳥が飛んでゆきます。鳥になりたい、とニールが呟くと、年長のジョーイが笑いました。

「傭兵になったら、ここを出られるよ」

ニールはジョーイの言葉を信じて、傭兵の訓練を頑張りました。


 やがて、十七になったニールには、たくさんの仲間ができました。年長のジョーイにカイル、同い年のロイ、ジョシュアとアーサー、年少のエイデンとセス、ジュリオ、ラウル。ジョーイは明るい性格て、皆の人気者でした。カイルは冷静沈着で、皆のリーダーでした。二人の年長者は、強い傭兵として有名でした。


 ロイとジョシュアとアーサーとニールは、カイル達と共に最初の戦いに出ました。ニライアは陸の真ん中にあり、南と東に隣り合った大きな国があります。ニライアの国の半分は氷土に覆われ、冬に作物を取ることは出来ません。野心家のニライアの王は、南へ国の土地を広げ、よりたくさんの食べ物を得ようとしていました。


 後ろに小さな険しい山を従えた砦でした。絵地図を見たニールが、カイルに梯子を掛けてはどうかと提案します。夜に梯子を上から降ろして、一気に砦の中に入るという方法です。ニールとロイは敵の砦に二人で乗り込みました。ニールの背中をロイが、ロイの背中をニールが預かりました。見張りの衛兵を一太刀で切り捨てると、二人は城門を目指します。


 明け方、二人の少年は、内側から城門を開けました。梯子からはカイルの率いる傭兵が、門からは正規の国王軍が砦の奥へと突入します。敵に挟まれた兵士たちはすぐに投降し、砦は半日で制圧され、ニライアは南の国から一つ、町を奪いました。

 

 カイル率いる傭兵の部隊は、たちまち有名になりました。最小限の人数で、最大限の成果を得た奇策に、誰もが武功を褒め称えました。カイルは正規軍の軍師となり、ニールたちはカイル直属の兵士となりました。そしてこの後、欲の皮の突っ張った王様は、次々無理難題をカイルに押し付ける様になりました。


 東の国との国境は、大きな滝に阻まれた自然の砦でした。その向こうは荒れ地なのに、王様はその向こうまで領土にしろと言ってきます。困ったカイルはニールに相談しました。ニールの返事はこうでした。

「川の流れを変えてしまいましょう」

山から大きな石を切り出し、川の上流をせき止めると、川は流れを変えて、かつての川が道になりました。


 カイルは、ニールに軍師を譲り、ジョーイと共に、荒れ地を開墾して生活することを選びました。王様に仕え功績を得た二人は、惜しまれながらも王宮を後にしました。ニールは早速王様に呼び出されました。南の国のラズル平原という、大きな穀倉地帯を制圧して来いと言うのです。


 ラズルはとても広い土地で、どんなに兵隊がいても、簡単に制圧できるような土地ではありませんでした。南の国で一番穀物の取れるラズルは、守りも強固なので簡単には侵入することも出来ません。困ったニールは農夫のフリをして、単身小舟でラズル平原へと様子を見にゆきました。


 ラズルでは農民が貴族に高い税金を払い、苦しい生活を余儀なくされていました。鞭で打たれそうになった子供をとっさに庇ったニールは、そのまま畑仕事を手伝いました。子供はニールに感謝すると、昔の話を教えてくれました。その昔、ラズルは泥沼の様な土地だった、と。


 灌漑用の水路が張り巡らされた土地には、水が増えすぎないように流れをせき止めている貯水池と堰がありました。雨季を終えたばかりで、貯水池には水が溢れそうな程でした。ニールとその仲間は日暮れを待って堰を一斉に壊すと、そのまま明け方まで丘の上で待ちました。


 朝が来ました。

 ラズルの平原は水に覆われ、小麦や大麦が倒れ、殆どの人は逃げ出していました。国王軍が船で進軍し、ラズルはニライアのものになりました。

 

ニールの優秀さはたちまち有名になり、あちこちの人が、ニールの強さを褒め称えました。国王は早速ニールを呼び出すと、今度は南の国の王都を制圧するように言いました。ニールは南の国の王都に偵察に出かけました。今度は、ロイとエイデンも一緒です。


 南の国の王都は明るい色や食べ物にあふれて、気さくな人が多い元気な街でした。海に面した王都はニライアからかなり遠く、軟弱な貴族の多い国王軍に長い移動は難しい事でした。ニールとエイデンは港へと向かいます。そこには海の向こうから大きな船が来ていました。


 ニライアの北で育ったニールは、船の事を良く知りませんでした。船で進軍してはどうかとロイに相談すると、国へ帰ってからみんなで話して決めた方が良いと言われました。その時です。エイデンが誤って、ニライアの軍の身分証を落としてしまいました。運の悪いことにそれは、南の国の港の警備の人間に見つかってしまいました。


「走れ、エイデン!」

ニールはエイデンの手を引くと、南の国の王都を走り抜けました。道が東と西に別れます。西はニライアへの近道、東は遠回りの道です。ロイは微笑むと、ニールのマントを自分のものと交換し、西の道へと進みました。ニールはエイデンを連れて、必死に西へと進みました。


 人の住まない山を一つ越え、人の入らない深い森を抜けました。エイデンを連れ、長い道を経て国へ帰ると、ニールとエイデンを見た人々は、まるで亡霊を見る様にまじまじと顔を眺めます。ニールは、嫌な予感がしました。ロイがマントを交換した時から、ずっと気になっていたのです。


 ロイはニールのフリをして、南の国の衛兵を引き付けてニールを逃がしたのでした。そのまま南の国で殺されて、もう二度とニライアへは戻ってきませんでした。せっかく一緒に戻ってきたエイデンも、熱病にかかって死んでしまいました。


 ニールは、南の国にロイを奪われたような気がして、もう、怒りを抑えられませんでした。仲間の反対を押し切って、南の国の王都へ船で攻め込みました。最初に傭兵部隊が港を制圧し、国王軍が船で応援に来る予定でした。近くの漁村から小さな船で港へと侵入したニールは、怒りにまかせてその場にいた人を皆殺しにしました。


 船はなかなかつきません。仲間の傭兵たちは疲れ果て、ニールに家族の事を頼むと、次々に命を散らしてゆきました。目の前で自分の仲間が死んでゆくのを見ながら、ニールは自分の身を守る事しか出来ませんでした。衣服が血に染まり、無数の遺体が投げ捨てられたままの港に、やっと国王軍がやってきたのは、約束より半日も過ぎた後でした。

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