最終章-2 アドリヴェルテ
「分かった。繋げることを認める。
――で、それを知った上でお前はどうするつもりだ?」
ラギは問いかけた。
認めたからといって洗い浚い話す必要はない。ワイリーの出方を伺う。黙っているつもりならそれでいい。けれど己の利益の為に使おうとするのなら止める。
「それはお前の話次第だ。私は何も知らないのだから、どうするもこうするもないだろう」
「人為的に繋げる。それを知ったうえで他に何が知りたいというんだ」
「まずは繋ぐ方法だな」
ウォルトには魔術と誤魔化す方法を教えていた。扉繋ぎを可能にする要因をウォルトから魔術にずらすためだ。それが具体的にどのような効果があるかまでは実のところ思い至ってなかったが、謎の能力よりも魔術の一つとした方が露見した相手に心理的な反発が少なく受け入れやすいだろうと考えての事だった。反発がない方が説得という丸め込みもしやすい。
そこでこの場はどうするか――
今まで通り魔術で誤魔化すか。それとも事実を伝えるか。
それを決めるにはワイリーの目的を知ることが必要で、しばらくはまたお互いの腹の探り合いが続きそうだった。
「二つ返事で答えるわけがないだろう。悪用されでもしたら堪らん」
「断じて私はそのようなことはしない。扉の与える影響の大きさはよく知っているんだ、どこそことの扉を繋いでくれと頼むつもりもない」
「だったらお前は何も聞かず何も見なかったことにしといてくれ。俺だって影響の大きさはよく知っているんだ、無闇に繋ぐことはしない」
そう言うとワイリーが半眼で見据えてきた。
「ならここ最近の新たな扉の相次ぐ発見に、お前は関与していないというのか?」
「!」
――これがワイリーの聞きたかった質問なのだろう。
友としてラギはそう思った。
扉を繋いだのはおそらくウォルトではない。新たに知った扉繋ぎの能力者、クリストファなのだろう。彼の扉を繋ぐ目的は分からないが、ウォルトがラギに隠れて扉を繋いでいたとするよりは有り得る。扉の繋がりも消せるのだ、アドリヴェルテの森を探す目的で繋いだのなら滞在中の街から離れる利点がない。誰かに頼まれて繋いだのならラギの目を掻い潜り十組も交渉して繋げたことになるが、そこまでうまく動けるほど策を巡らせられるとは正直思えない。
そしてウォルトとクリストファの間に関係がある以上、自分は全く関与していないというわけではないが――
「即答できないところを見ると、関与しているようだな」
気が早く回答を打ち切ると、悲しげな深い溜め息と共にワイリーはそう告げた。
関与を認めてしまえば相次ぐ新たな扉の出現という大事の責任を押し付けられかねない。
今度は即座に返した。
「していない」
そう答えても嘘ではない。クリストファが扉を繋いで回っていることに関しては何も知らない。関わっていない。
「ではお前はあれらの扉を繋いでいないと?」
お前――ときたか。
おそらく魔術師でもあるラギが何らかの魔術を使って繋いでいるに違いないと、ワイリーは予想しているのだろう。
ここはあえて訂正しない。
「そうだ」
「そうなるとお前の他に少なくとももうひとり、繋げる者がいる。そうだな?」
肯定すれば大きな情報を渡してしまうことになるが、しないと犯してもいない罪を認めることになる。ここは仕方ない。
「そうだ」
「――なんてことだ。
扉繋ぎは手順さえ踏めば誰にでもできる、そういうことか?」
「誘導尋問か。
できない、だからその点は安心していい。
それでこの話は終わりだ」
するとワイリーが鋭い視線で見据えてくる。
「いいや、まだ終わりにはできない。
お前は何の為にこんな力を手にしたんだ」
――何の為にって――
苦い顔になる。
「偶然だ。偶然手法を見つけたんだ。索引を持つ俺がそうでなければ手にするものか。
――俺には天敵のような力だろうが」
ラギはグラスにまだ残っていた酒を一気に煽ると、自棄のように吐き捨てて答える。
「そら答えたぞ」
「それが答えになっているかと言いたいところだが、魔術師の流儀もルールも知らないからな。今はそれで納得しといてやるよ。
お前が繋いで回っているのだとすればそれを止めさせることが目的だったが、そうではないようだな。
だから――」
ワイリーは告げた。
いや、これはそんな優しいものではない、脅しだろう。
「新たに扉を繋いで回っている犯人を捜し出して止めろ。そうすれば私はお前の力の事を漏らしたりはしない。この胸一つに止めよう」
「――嫌だと断れば?」
鷹の目がぎろりとラギを捉える。
「いくらお前の逃げ足が速くても物量には敵わんだろう。
――全ての扉案内屋を敵に回すと覚悟しろ」
中継都市連盟でも中核を担うフィズマール、その扉案内屋元締めワイリー。
本気だ。
ワイリーは本気で言っている。
逃げても無駄だと。
――関わらずにはいられない、か――
どのみち犯人が予想通りクリストファであるなら適任は自分しかいない。
ラギは答える。
「分かった。引き受けよう」
「大いに期待させてもらうよ。
――さぁ、もっと飲んで食べようじゃないか。ここは私が持とう」
ワイリーは店員を呼ぶと上機嫌で酒や料理を注文した。
実質的に得られる報酬がここの飲み代だけとは、仕事に対して随分と安いものだった。




