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扉繋ぎのウォルト  作者: 三原雪
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11章-1 額中の海

 中継都市フィズマールに来てからというもの暇だった。

 もともと自分に暇でない――あるいは暇潰しでない時間などなかったとも思うが、逗留中の今は暇潰しの手段も使い尽くし、まったくもってやることがなくてとにかく暇だった。院内の小さな図書室にあった目ぼしい本は読んでしまったし、旅の連れである保護者は路銀でも稼ぐと日雇いで働いているため話し相手もいない。フィズマールは中継都市であって観光地ではないし、それに何より気軽にふらふらと出歩ける身ではない。少しの間庭に出るのがせいぜいだ。

 旅が再開すれば暇も紛れるのだろうが、今までの経験からすればもう少し滞在することになりそうだった。

 この旅は自分の為の旅だとは分かっているからあまり露骨な不平は言いたくない。それくらいの良識は弁えているつもりだ。自分は頼んでなどいないと甘えて迷惑をかけるつもりもない。

 けれどこんなに暇だとすることがないので不満ばかりが溜まっていく。暇を潰すのに忙しくて不平不満を潰せない。

 クロエは暇に抗うためせめてもの悪足掻きにと、病院の中庭に出るのだった。

 旅の目的地は医療都市。

クロエの病を治すために向かう旅の途中、悪化した容態が安定するまでの逗留中。

 ――病棟に囲まれた中庭に出ると、同じように暇そうにベンチに腰かけている少年を見つけた。

 今日は、少しは暇でなくなるだろうか。




 ウォルトとラギはフィズマールに逗留中である。ラギは路銀稼ぎのため、ワイリー扉案内所で一日中扉案内の仕事だ。そうなるとウォルトが暇で時間を持て余すのは当然の成り行きと言えた。

 ワイリー扉案内所でラギが働き出して一週間ほどが経った。今日もワイリー扉案内所の隅で椅子に座り、ラギや他の所員達が客に応対するのを眺めていた。客が来たらお茶汲みくらいは手伝うが、それだってすぐに終わってしまう。扉案内のやりとりを聞いているのも面白くもあったが、それも最初のうちだけである。ラギの仕事も付添いで扉案内したのは一度きりで、それ以外はずっと案内所での対応ばかりだ。

 今応接室で客に対応している所員はラギと三毛猫のマイクだった。あと三名所員はいるが、皆扉案内で外に出ている。ワイリーは衝立で区切られた向こう側で何やら書類仕事にかかりっきりで、客の対応はしていない。

マイクの方の対応が終わり、じきにラギの方の客も礼を述べて返っていく。それでやっと続いていた客が途切れた。

 客がいなくなった応接室でマイクが背中を反らして伸ばし、一息つく。そして衝立の向こうのワイリーに向かって言った。

「所長、客も途切れましたし、今のうちに昨日ジロンドまで送ってきたお客のお見舞いに行ってきますよ」

 気さくなマイクは所長のワイリーにも砕けた口調で話しかける。ワイリーもそれを咎めるほど狭量ではない。

「ああ、くれぐれもよろしく伝えといてくれ」

「分かりました」

 そしてウォルトの方に振り向いて言った。

「ウォルト。お前もずっとお茶汲みだけじゃ暇だろう、散歩がてらに病院まで行くかい? 俺が病室にいる間は庭にでも出て待っていればいい」

 ラギにちらりと視線を向ければ、

「好きにしろ」

と気に留める様子もなく短く一言。

 ラギ以外とふたりでろくに出歩いたことのないウォルトは戸惑ったが、ここで今日一日こうして座っているよりはマシだろう。

「ついてく」

「よし行こう」

 マイクはウォルトの肩を叩いた。


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