9章-4 青き古城の主
多分ここではないのだろう。
こんな青白く光る森ではなかったはずだ。
ウォルトはまた外れかと落胆する。
そう思いつつも、とりあえず城まで行ってみることにした。
距離はさほど遠くない。ラギが戻ってくる前に行って戻ってくることはできるだろう。
扉を繋ぐ前はアドリヴェルテの森に当たるまでずっと扉を繋ぎ続けるつもりだったが、この青白く光る森の中を歩いていたら昂っていた気分が少し落ち着いていた。
また試すかどうかは戻ってから考えればいい。
道もない森の中だったが、下生えがそこまで生い茂ってはいないので歩くことに支障はない。行き先の城も見えている。
問題ないと歩き出したウォルトだが、森に埋もれた小屋にまた戻ってこれるかまでは考慮に入れていなかった。ふと後ろを振り向けば、もう小屋が見えなくなっている。
――ラギが扉のある方角が感覚で分かると冗談のように言っていたが本当だろうか。
本当でも〝扉の索引〟で有能な魔術師だからあり得そうだし、冗談でもそれはつまり扉の場所を知識として持っているということで〝扉の索引〟だからあり得そうだった。
――また、ラギに頼ろうとしている。
そんな自分を振り払うようにウォルトは軽く首を振り、前を向いた。どうせ戻れなくなってもあの城にならドアはある。
――また繋げばいいだけだ。
自棄の残る思考で投げやりに考えるのをやめる。踏みしめる音も荒く立ち止まっていた足を動かした。
しばらく歩いたところで城の外壁に辿り着き、外壁をぐるりと回って門を発見した。
門は開いている。
中を覗くと、荒れたというよりは廃れた館が静かに佇んでいた。物音一つなく、青白い光に冴え冴えとさめざめと照らし出されている。
その青白い光景の中に一点だけ混じる異色。
正面の館には二階に広いバルコニーがついていて、そのバルコニーに誰かいるのだ。その誰かの金髪が青白い夜の中で月のように光を照り返し輝いていた。遠目でよくわからないが多分若い男だろう。
廃れた館のように、ただ佇んでいる。
とても静かで、抒情的な夜。声をかけてはいけない、そう思わせるほどに――
――目が。
あった気がした。
まずい。
どうやってこの森に来たのかと問われれば説明に窮する。扉繋ぎができることは知られてはならない。
立ち去らなければ。
ウォルトは慌てて身を引いた。
しかし。
「君も扉を繋げるのかい?」
「!!」
遠くから張り上げられたその声は、青い夜の静寂を裂き、確かにウォルトに届いてその言葉の意味を理解させた。
――君も――君も。
あの声はそう言ったのだ!
あの男も扉繋ぎの能力者か、そうでなくとも能力者を知っている!
ウォルトは門の陰から身を躍らせた。
バルコニーの上の男をきつく見据える。
「扉繋ぎの能力者を知っているのか!?」
正門からバルコニーに向かい、ウォルトは声を張り上げた。自分でも驚くほどの声量が出た。
会ってみたい。自分以外の扉繋ぎの能力者と会って話がしたい。
男はどこか愉快そうに答えた。
「知ってる。上がってきなよ」
断るわけがない。
ウォルトは駆け出した。




