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扉繋ぎのウォルト  作者: 三原雪
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9章-3 青き古城の主

 事務所から扉案内所に顔出しへ向かう途中、ラギとワイリーは雑談のような近況報告を交わしていた。

 ラギは道中で寄った所の話や、その扉の様子を話す。扉が開いている時刻や通行料に変更はないか、交渉次第で使わせてもらえる私有の扉が増えてはいないかなど。

 ワイリーは仕事の近況を話す。フィズマールを通るひとの流れ、利用される扉の傾向、事務所で受けた仕事など。それにいくつかの扉に関する情報。

 言葉を交わす口調こそ親しげだが、どちらも近況報告というより完全に仕事の情報交換だった。

「実は丁度おまえに聞かせたい話があってね。つくづくいいところに帰ってきてくれた」

お互い粗方話し終えたところで、ワイリーは口調を幾分硬くして切り出した。

「何だ? 厄介な仕事の依頼か?」

 道程の条件が厳しすぎる依頼はラギ――ラギェンの得意とするところだ。そこいらの扉案内屋と持っている引き出しの大きさが違うというのもあるが、それ以上に引き出しを選ぶ腕が違う。

「いや違う。そんな依頼が欲しければ優先的に回してやるさ。むしろ回させてくれ。

 ――新たに扉が見つかったんだ」

 その話自体はよくあることでもないが、逆に言えば偶にならある。こんな改まった言い方をする話ではないはずだ。

 厄介なところが繋がって扉を挟んで揉めたのか。

 ラギは無言で先を促す。

 ワイリーは先を続ける。

「その数がここ最近明らかに多い。

 これは何かの前触れかと、この情報を持つ扉案内屋の中で噂にもなっている。

新しい扉によってできたひとや物の流れの整理をうちで請け負ったところもあってな。お陰で通常の業務に手が回り切らず、依頼が重なれば今みたいに閉業中にせざるを得ない」

 息を飲む。

 ラギは知っていた。

 扉を繋げる特異な能力者が存在することを。

「多いとはどの程度だ? 二枚なら俺も把握しているが」

 ワイリーにそう訊ねたのは、その答えが知りたかったというよりも咄嗟に出た落ち着くための時間稼ぎだった。

「俺が把握しているもので十枚。アドミラル―レグウェイ間、ジズ―レキストン間、ウィンスタット――」

「おい待て!」

 ラギは慌てて扉の羅列を遮る。落ち着くどころか逆効果だ。

 扉案内屋の商品は扉の知識。その要となる扉の繋がりそのものの情報を何の対価もなしに教えるのは、商人が自分の商品をタダでくれてやるようなものだ。先程の近況報告とは情報の重要度が違う。こちらが渡せる対価もない。

「強制的に俺に扉の情報を教えて、後で何かさせる魂胆じゃないだろうな?」

「それは心外だ。そんな騙すような真似を俺がするはずないだろう」

「ならどういう魂胆だ」

 ワイリーは答えた。

「俺はお前に〝扉の索引〟であって欲しいんだ」

 扉案内屋ラギェンの二つ名。

 扉の索引。

 その名は誇りであると同時に責務であり重荷。

 扉の索引であることは先代からラギェンの名を継いだ義務。

 ラギは溜息をついた。

「そういうのはやめてくれ。

 ひとによって作り上げられてはただの偶像に成り下がる」

「それは悪かった」

 ワイリーは謝意を示す。しかし続けて、

「今俺の手元にある仕事を幾つか回す。その報酬として新たな扉の情報を教えよう。先払いだ」

「おい、そこまでするか」

 ラギが苦虫を噛み潰した顔をすると、ワイリーは平然と答える。

「いいじゃないか、これで誰が困る? むしろお互い満足だ。

 ――お前だって本当は知りたいんだろう? 自分がまだ知らない扉の情報を。

 なぁ、扉の索引ラギェン?」

 見抜かれる。

 まっすぐに鷹の鋭い眼光がラギを見据えた。逸らせない。

 これがひとの上に立つ者の度量と技量か。器――というか器の形が違うのだろう。

「わかった。それで手を打とう」

 結局のところ新たな扉の情報を知りたくないはずがない。旧版と分かった扉の索引を更新しないでいられるはずがない。

 ――ラギェンなのだから。

 それに思い浮かぶのは表情に乏しいウォルトの顔。

「交渉成立だ」

 ワイリーは宣言して、新たな扉の繋がる先を次々と列挙していく。

 新たな扉の数は十枚、不自然すぎるほどに多い。扉で繋がる場所は一枚二か所で合計二十か所。紙に書きとめることはしない。ただ一度耳で聞いただけ。それだけでこの瞬間索引は更新された。

 それができるからこそのラギェン。

 そして更新するとすぐに、それらの場所に最近訪れたことがないか振り返る。

 隣の扉まで含めて振り返ったところ一か所該当したが、これは偶然で片づけていい数字だろう。

 もしウォルトが新たな扉を繋いでいたとしたら、扉で繋がる場所の組のうち少なくとも片方に行っていなければならないが、行ったことがあるのは十組中一組のみ。

 胸を撫で下ろしかけ――気づいた。

 無意味だ。

 ウォルトは扉を繋ぐことができると同時にその繋がりを消すこともできるのだから。

 旅の間はずっと行動を共にしているが、それでも少しくらいは離れたこともあるし、自分が寝ている時なら気づかないかもしれない。

 ウォルトがそうやって隠してまで扉を繋ぐ理由はあるか?

 そう自問して思い当たる。以前、扉を繋いで路銀を稼ごうかとウォルトが提案したことを。

 ウォルトにそんなツテも交渉能力もないだろう。

 ――けれど他に誰が扉を繋げられるというのだ?

 この奇跡を、他に誰が起こせる?

「悪い、ワイリー。挨拶回りは俺抜きで行ってくれ」

 ワイリーの返事も待たず、ラギは立ち止まって踵を返した。



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