9章‐1 青き古城の主
仄暗い夜、森が青白く浮かび上がる。
足下の草が、頭上に生い茂る葉が、木が、森が、それ自体が青白く発光する。
時折草や葉から光が漏れ出て寄せ集まり球となる。それはシャボン玉のようにゆらゆらと夜の空を漂い、時折風が吹いてふわりと光の球を散らす。
思わず息を飲む。息を止める。
なんて幻想的なのだろう。
漂ってきた光の一つに手を伸ばすと、触れた瞬間ぱちんと弾けて消える。
指先には青白い燐光だけが残り、それすらもすぐにすっと消えた。
まるで雪のようだ。
音もなく降り注ぎ、触ると溶けてしまう。
――いや、逆か。
空から舞い落ちるのではなく、この光は空に降り注ぐのだから。
ところどころに群生する水晶のようなものが強く青白く発光し、足下を照らして照明具なしでも十分に歩くことができた。
鬱蒼と茂る光る広葉樹の間をウォルトはひとり歩きだす。
手を伸ばして木の葉を一枚手折ってみる。
青に染まった葉の中で葉脈が強く光り浮き立つ。
道などない森の中。
ふと頭上を見上げれば、木々の隙間からいくつもの尖塔が突き出る城が見えた。
「そろそろ路銀が心許なくなってきたからフィズマールに戻るか。道中で少しずつ稼ぐよりフィズマールでまとめて稼いだ方が手っ取り早い」
宿屋で朝食を食べていたらラギが唐突にそう切り出してきた。
ウォルトは特に異論はなかったので、
「わかった」
とだけ答えた。
行き先は全てラギに任せていて、路銀を稼ぐのもラギ。ウォルトはただラギについて行くだけだ。
どこにあるのか、実在するのかもわからないアドリヴェルテの森。
そこに行きたいというのはウォルトの希望なのに、それなら付き合うと、付き合うどころか何もわからないウォルトを先導してくれる。
ならせめて路銀だけでもと、扉を繋いで礼金を貰えばと提案したら呆れられた。扉繋ぎができることは隠すべきであり、それを他者の為に用いる様なことはするなと。どれだけ大枚をはたいても自分だけが有利な扉を繋ぎたいと考える輩はいる。そうなればウォルト自身の身も危ういとまで諭された。
結局ラギに頼るしかないのだ。
「そんなに旨くないのか? そのスープ」
よほど自分は渋い顔をしていたらしい。
的外れなことを聞いてくるラギ――いや、あえて的を外しているのか。
「ううん、美味しい」
残りのスープをかきこんだ。




