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扉繋ぎのウォルト  作者: 三原雪
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1章-3 光採りの森 

 釣竿など道具を片付けて、櫂を出して小舟を漕ぎ始める。水面を制止させていた魔術も消えたようで、湖に幾何学的な小波が生じる。

ウォルトとラギも湖の畔に歩き出した。

 小舟はそしてじきに畔に着岸すると、杭と縄を取り出して地面に打ち付けて小舟を係留した。

「ちょっといいかい、嬢ちゃん」

 ラギが声をかける。

「え?」

 荷物を小舟から降ろしていた少女は、振り向いて驚きの声を上げた。

「あなた達はどこの誰ですか? どうしてここに?」

 先に声をかけたのはこちらだというのに少女の方から質問攻めだ。すぐさま小舟から降りて二人に詰め寄る。

「まずいところに出たらしいな――」

 その剣幕にラギは小さくため息交じり呟いた。

 少女は年上の男二人相手に気丈にも引かずさらに言い募る。

「ここは光屋レイ・アドルセンの光採り場で、私以外にこの場所へ来るとは聞いていません。

ここに来るにはレイ・アドルセンの持つ扉を通るしかないはずですが、アドルセンさんの許可は得ていますか?

――勝手に光を採ろうなんて考えてないですか?」

 どうやらこの森に繋がる扉は一つしかないらしい。それを光屋が専有しているようだ。

 専有している扉に繋がってしまうと、こういう面倒なことになる。

 だがそれを解決するに丁度いい説明があった。

「考えてないから安心してくれ。

 ――俺達は、扉繋ぎでこの場所に着いたんだ」

「!」

 その言葉に少女は目を丸くして絶句する。

 しばらくして口を開くと、

「わお。扉繋ぎに居合わせた」

 目を見開いたまま、そんな感想を口にしたのだった。

 扉繋ぎ。

 扉と扉が繋がる現象。どんな偉大な魔術師でもそれを故意に起こせた者はなく、彼らの至高の研究対象にして大いなる謎。

中にはただの噂だと信じない者もいるくらいに稀な、一種の自然現象だ。

 だが稀ではなくこうして起きる。

こうして、ウォルトとラギがこの森に来られたように。

 けれどあまりにも稀なため、起きる原因や条件、規則などは解き明かされていない。

「俺はラギ、こいつはウォルト。

 俺達は扉繋ぎでここに出ちまってね、だからここがどこだか分かってないんだ。

 説明してくれないか?」

 落ち着いたところでラギが改めて質問する。こういうやりとりは慣れたものだ。

「私はコーディ。レイ・アドルセンのお手伝いをしてるの」

 名乗ってからコーディは今度は素直に話し始めた。

「さっきは疑ってごめんなさい。

 ここはレイ・アドルセンの光採り場。説明と言われても――」

 困ったような表情で可愛らしくコーディは小首を傾げる。

「それだけしか説明することもないかな。森と湖と夜空。あるのはそれだけだから。レイ・アドルセンからしか入れないのはもう言ったよね」

「この森はもしかして日が昇らないのか?」

 ラギが問う。

「そうだよ」

 その答えにラギは肩を落とした。ウォルトはラギほど察しがよくなく視線で説明を求める。

「俺達の探しているアドリヴェルテの森は、木々の間から尖塔が見えているはずだ。こんな暗闇で尖塔が目印とはならんだろう」

 どうやらまた外れらしい――いったい幾つめの外れだか。

 ウォルトは溜息だけで嘆いた。

「あの、とりあえずレイ・アドルセンまで来てもらっていいですか?」

 コーディが若干だけ遠慮がちに切り出す。

「この光採り場に繋がる扉が増えたなら報告しなくちゃ一大事です――ん?」

 怪訝から狼狽に表情が変わる。

 引きつった顔でコーディはラギに訊いた。

「…どこの扉から出てきたの?」

「…まさか、この森にはあの小屋一つしかないのか?」

 コーディは重々しく頷いた。

 あの小屋――二人が出てきた小屋。

 二人はレイ・アドルセンから入ってきたわけではない。

扉繋ぎで繋がったのだから。

 この森とレイ・アドルセンとの繋がりは断たれたのだ。

「さすがに廃業させちゃ拙いよなぁ」

 苦々しくラギが言う。

「…わかってる」

 ウォルトが短く言葉を吐き捨てた。

 そしてウォルトは畔にあげてあった樽を抱えて持ち上げる。

「レイ・アドルセンまで運ぶんだろ」

 まるで何事もないかのような口振りで。

「え、あ、そうだけど!」

「まぁ落ち着きつけコーディ。何も扉が壊れたわけじゃないんだ」

 そう言いながらラギも樽を抱えと月の入った袋を肩にかける。

 さらに二人は引き返して歩き出した。

「どうしてそんな、あ、もう待ってよ」

 おいて行かれてはたまらないと、コーディも光採りの道具を取って慌てて二人の後を訳が分からないまま追いかけた。


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