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扉繋ぎのウォルト  作者: 三原雪
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8章-3 砂漠を越えるもの

 イルハンの外壁の内側の構造は、壁で仕切られたいくつもの小部屋からなる作りのようだった。いや、強度を上げるために壁をつけたら小部屋ができた、というところだろうか。絵描きが教えてくれたのはその小部屋の一つで、言われたとおりドアの鍵は壊れていた。

 扉が外壁沿いにでもなければ街の端の方は閑散としたもので、それはイルハンでも同じようだから、誰も気に留めずそのまま放置されているのだろう。これが人口密度の高い街だと端の方までひとが溢れるが大抵治安は悪くなる。鍵は直されるかもしれないがすぐに壊されるかもしれない。

 ドアを開けてみると埃っぽい空気が漂い出てくる。中は倉庫だろうか。隅の方に大きな袋が積まれているのが見えるが、ドアからの光が届く範囲にはあまり物も置いていなさそうだった。今も使われているのかどうかは怪しい。

「明かりを持ってくるべきだった」

 ドアの手前でラギが悔やむ。

 このドア以外は光源は無いようで窓一つない。向こうの壁のどこかに外に繋がるドアがあるはずだが、そこまでは一筋の光も差し込んではいなかった。

「宿屋に取りに戻るか近場でどうにかして借りるか――」

 ラギがそう言ったところで軋んだ音と共に光が闇の中に差し込む。

「やぁ。君達が外壁の上から叫んでいた人達だね」

 そう言って光の中から顔を出したのは、恰好からしてあの絵描きだった。思ったよりも光の位置が高い。ドアは小部屋の中の階段を登った先にあったようだ。

「あの簡単な説明で分かったか気になってここまで来てみたんだけど、よかった。わかったようだね」

 随分ひとがいい。

「ああ。けれど来てもらって助かった。この暗闇からどうやってドアを探そうか考えていたところだ」

「そうか。灯りが必要だとも教えておくべきだった」

「問題ない。貴方がこうしてドアを開けて光を灯してくれたのだから」

「なるほど」

 ラギに続いてウォルトも小部屋に入る。

「そこのドアはちゃんと閉めてくれよ。ここが誰かに見つからないように」

 絵描きの言葉に従い、ウォルトは後ろを向いてしっかりドアを閉めた。

 やはり大して物がない部屋のようで、後ろのドアを閉めて光を閉ざしても、絵描きの元に行くまで足下が何かに躓くことはなかった。

 階段を登ってドアに辿り着く。

「どうぞ」

 ドアを開けて押さえていた絵描きが外へと招く。

 ――出られないはずの、外壁の向こう側へ。

 ウォルトは境界の向こうへ足を踏み出す。踏み出す一歩が砂漠に埋まる。

 外壁の上から望んでいた砂漠が、飛び込んでくるような目の前に、足の下にあった。この地に足を踏みしめている感覚。これが臨場感。

 ――視点が変わる。

 ただそれだけでこんなにも世界が変わる。


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