試験作品1
目を覚ますといつものように頭痛が始まった。
彼はしばらく布団の中で、もはや同居人のように親しくなった頭痛との対話を、半ば強制的に楽しまされていたが、やがてその中肉中背の身体を起こし不機嫌そうに頭を掻いた。
彼の頭痛は二十歳を過ぎた頃から始まった。医者にはよくある片頭痛と診断された。彼もその診断に納得し、頭痛薬を貰って家に帰って、寝た。痛みもそれほどひどくなかった。しかし、件の頭痛は寝ても覚めても明けても暮れても彼の頭であぐらをかいていた。
「この度入居しました。頭痛です。よろしくお願いします」
そう言われているような気がした。どうやら当分出ていく気がないようだ、と彼は思った。幸いにして頭の住人は彼が寝ている間は同じように睡眠をとっていたし、先住民の灰色の塊とも(比較的)仲良くやっているようだし彼もあまり気に留めなかった。
しかし、それが二年も続くとなるとさすがの彼も疑問を抱き始めた。何かの病気なのではないか、と不吉な予感も頭をよぎる。
よぎりはしたが、彼はまた医者にかかろうとは思わなかった。特に生活に支障はなかったし、あまりに生活に溶け込みすぎていた。
百年床から出た彼は窮屈そうに身を竦めストーブの火をつけた。数年前に聞いた名前も知らないジャズの女性シンガーの曲を口ずさみながらパソコンを立ち上げ、ニュースサイトを開いた。
世間では盆休みに伴う帰省ラッシュが始まったらしい。
蝉の声が今日もうるさい。