表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

9.前光背闇(ぜんこうはいあん)。

前光背闇。

※前の光ばかり見ていると後ろに出来る自分の影。闇を見落とす的な創作四文字熟語です。

「グスッ……何よそんな所で正座して」

「理由は分からないけど泣かせちゃったてごめんなさい」

「もういいわよ……それより、聞きたいことがあ……コホンッ。あるのだか?」

「あ、そこは戻すんだ。可愛いのに」

「もう惑わされんぞ、どう喋ろうが私の勝手だ。とにかくほら」


 ソファに膨れ面で座る蕾は、透に隣に座れと背も垂れをポンポン叩いて促す。

 それを見た透は、可愛い仕草だなと思いながら、大人しく座る事にした。

 蕾は透に借りたジャージ姿である。サイズが大きいのか、手などは袖に隠れて指先しか見えない。

 

「蕾は何を着ても可愛いね。机のポットにコーヒーあるから淹れようか?」

「ああ頼む。可愛いか……言われ過ぎて免疫が出来てしまったな」

「それは残念。それで話って何かな? あ、砂糖は?」

「一つ……ありがとう。……美味しい」

「よかった」

「どうして男の攻撃が避けられなかったのだ? 透の腕なら簡単に避けられたはずだ」


 コーヒーを飲んだ口元を軽く指先で拭きながら、蕾は核心を突いた質問をした。


「僕はSPを肌で感じられるように体を少し改造しててね。スカートを使わない人の攻撃は苦手なんだ」

「か、改造……?」

「うん。DNAを変異させるナノマシンを体に入れてる」

「……! まさか、男がSPの力を得ようとして開発されたナノマシン……しかし、あれは」

「失敗作だね。その実験で僕の父さんはあの姿に……まあ、僕の家系の男子は元々こんならしいけどね」

「そうか……私とは覚悟が違うのだな。復讐と息巻いても、憎いはずの透を助けてしまった心の弱い私とは……」

「今の蕾なら僕を殺せると思うよ。こう見えても弱ってるからね」

「む。やはり意地悪だな透は、私はもう透と呼んでいる」


 蕾は膨れ面になり、プイッと顔を背ける。

 透はそれを見て楽しそうに言う。

 

「あははっ。そうだね、最初は貴様だったもんね」

「ああ。どう考えても透が悪人とは思えない。一般認識がずれている変人だ」

「結構酷いね。でも悪人じゃないと思ってくれたのは素直に嬉しいかな」

「その……相談がある。透を殺そうとしておいて、差し出がましいのだが……あの、その……」

 

 蕾は両膝を抱えるようにしてソファに座り直し、うつむき加減に視線を透から逸らす。


「気にしないで、相談に乗るよ。僕の父さんが仇。そう蕾に教えた部下の人の事だね?」

「ああ……。その人は、今は軍を抜けて私の身の回りの世話をしてくれている」

「さっき連絡をしていた人がそう? からかわれてたみたいだけど?」

「姉が妹にするようなもの……だな。姉さんと呼んでた事もある」

「名前は?」

「愛芽家の分家の娘、愛芽 満。母には兄が居てな、その娘だ」

「従姉妹なんだね……ん」


 透は足を組み合わせて、左手を口元に添えて考える。

 蕾はその様子を心配そうに見守る。どんな事を言われるのか気が気でない様子である。


「蕾に何かあった場合、次の当主は?」

「……今の当主である咲玖様には子供が居ない……満ということになる」


 震える声の蕾は実を察した様子で、声が段々と小さくなる。


「信じたくない……だって、あんなに優しかった満姉さんが私を……なんで」


 蕾はコーヒーの入ったカップを床に落とし、両膝を抱えてソファの上で泣き出した。

 恥ずかしさや怒りから来る涙ではない、静かに悲しみを噛み殺すように泣いている。

 透は何も言わず蕾の丸まった背中を撫でる。

 そうしていると、透の携帯電話が鳴った。


「はい透です……ええ……。はい……直ぐに行きます」

「用事……?」

「うん。でも、一緒に居てほしいなら掛け直すよ」

「気にしないで行って。私は一人で平気、むしろ一人にして……」


 丸まったまま顔を見せない蕾は、ソファにコロンと横になった。


「えっと……。あっちが寝室だからベット勝手に使ってね。何かあったら電話して、机の上に電話番号のメモ置いといたから」

「うん……」

「大丈夫……早く戻るからね」


 短い返事をする蕾を見ながら、透は心配そうにマンションの扉を閉めて出て行った。

 部屋に残されたのは蕾一人である。


「グスッ……。あら……?」


 透が居なくなり顔を上げた蕾は、机の上を見て目を細めた。

 そこにあるのは白い携帯電話である。自分のではない、どうやら透の物であるようだ。

 まさかメモとはこれの事なのか、そんな馬鹿なと思いながら、蕾は携帯電話を手に取った。


「携帯のメモ機能使ったの? 電話しても意味無いじゃない……ぷっ、抜けてるんだから」


 思わぬ透の天然に噴出した蕾は、メモの電話を登録しようと自分の携帯電話を取り出す。

 すると、再び透の携帯電話が鳴った。


「え……? 嘘……」


 携帯が鳴った事により表示された電話番号を見て、蕾は自分の携帯電話を右手から落とした。

 蕾は血相を変えて飛び起きジャージを脱ぐと、壁に掛けてあった魅袴を手に取り着替える。

 最後に魅仁一式を穿いて紐帯を縛り、ホックもろくにつけないままベランダへ飛び出した。

 ベランダの手摺の上に飛び乗り、震える左手に握り締められた携帯を胸に抱き、蕾はしゃがみこむ。

 歯を噛み締め、蕾は満月に向かって顔を上げ、叫んだ。


「よくも騙したなぁああああああああああああ!」


 携帯を握りつぶし、蕾は復讐者の顔をして夜空へ飛んだ。

 ベランダに落ちた携帯電話のディスプレイには、彼女が信じていた姉、満の番号が表示されていた。

 

 携帯はしばらく点滅を繰り替えすと、夜の空と同じ色へと変わった。

 それはまるで、絶望した蕾の心を表現しているかのように、二度と白い光を放つ事はなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ