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6.復讐者は縞々色。

 "布嗚流スカート奪取拳"

 戦時中、極寒の地アラジカでシロアモーメンのスカート部隊五千人を相手に、たった一人でそれを全て戦闘不能に追い込んだ偉人が存在した。

 彼の名は布嗚 音琵。男の身でありながら、ジパンクーネ四大名家の一角、布嗚家代二十九代目当主にして、布嗚流合気柔拳術の使い手であった彼は、その拳法を元にスカートを剥ぎ取る事だけを目的とした格闘術を創り上げた。

 それこそが女性スカート部隊殲滅を目的とした格闘術、布嗚流スカート奪取拳なのである。


 戦時中、彼と戦った女性兵は皆、口を揃えてこう語る。

 あれは男ではない。笑いながら戦渦を駆け回る可愛い幼女である……と。


「こ、これが本当にシロアモーメン軍人から、戦場のイエティと恐れられた布嗚 音琵……なのか?」

「正確には戦場のリトルイエティね。戦時中の集合写真とかで見たことない? 僕の家には飾ってあるよ」


 夜の歩道を歩きながら、蕾は透が差し出した一枚の写真を両手で持ち、食い入るように見つめていた。

 そこに映っているのはどこからどう見ても幼女である。

 それも女の人に抱っこされて、目の前のパフェを見て目を輝かせている瞬間である。


「父さん甘党だからね。因みに後ろのデレデレ顔で抱っこしてるのが母さん。若い頃にデートした時の写真らしいよ」

「ふっ……ふふ。流石に騙されないぞ。お前の父親の写真ならこの私も持っている! これを見ろ!」


 懐に手を入れると、蕾は勝ち誇った顔で写真を透の目の前に出す。

 そこにはいかにもな悪人顔の男が映っていた。

 それを見て透は困った。どう見ても知っている悪役俳優と顔が一致するのである。

 音琵は英雄であるが、メディアを嫌い、人前に滅多に姿を現さない事で有名である。

 偽者の写真は星の数ほど出回っている。蕾が本物の写真を見ても嘘だと思うのも当然である。 

 しかし、あまりにも自信満々な蕾を見て、透はそれが愛らしく見えてしまっていた。


「愛芽さんは可愛いなぁ」


 透は自愛に満ちた表情である。

 この透の可愛いは、馬鹿っぽくて可愛いという意味である。彼は少し言葉が足りない青年なのだ。

 ここで一つ、彼の幼少期に起きた事件を例に挙げる。

 

「おとーさ~ん」

「は、は、はっ! 遊んでほしいのか透よ。仕方ないな、ほら高い高い~!」

「あははっ! 私に似て甘えん坊ね透は~」


 我が子を高い高いする音琵、しかし背が低いので透の足が少し浮く程度である。

 父としての威厳を保とうとしているのか、音琵は爪先立ちでぷるぷる震えている。

 ここまでは微笑ましい家族の団欒の図である。

 ここから問題のシーンへと移る。


「おかーさんしらないおとこのひととねてたよ」

「ちょっ!? や、やぁねぇこの子ったら、違うのよトビィー!?」

「ほほう。アン……貴様、また俺に隠れて男と……こっちに来い折檻だ!」

「ま、待って誤解よ、町を歩いていたらナンパされて、川原の土手で寝転んで話をしただけなの」


 透の見る者を震え上がらせる笑みは父親譲りである。

 ただし、父親の音琵は表情に影など見せず、怒りの炎を身に纏う。

 その姿、にこやかに笑う修羅の如し。

 こうなっては餡子の運命は決まったも同然である。


「問答無用だこの虚けめ! 布嗚家の嫁が軽薄にナンパなんぞされおってからに!」

「きゃぁ~! 誤解だって言ってるのにー!」

「観念しろ! このどうしようもなく可愛い嫁めが!」

「駄目よトビ~! 子供の前でそんな~!」


 押し倒されスカートをスルスル脱がされて嬉しそうな母親。

 満更でもない顔で母親のスカートを脱がす父親。


「ふたりともなかがいいなぁ」


 夫婦のじゃれあいのきっかけだった透は、何も咎められる事なく育った。

 彼が言葉足らずな性格になるのは仕方ないのである。

 しかし、蕾は当然誤解していた。


(可愛いとか、可愛いとか、可愛いとか、可愛いとか。 い、いや騙されてはいけない、油断させる作戦に決まっている。……でも可愛いとか~~~!)


 平静を装って透の横を並んで歩く蕾は、心の中で復讐者と乙女の顔を交互に繰り返していた。

 そして焦りも感じていた。何時の間にか人気の無い道を歩いていたのである。


(このまま私を始末するつもりか……望むところだ! もう遅れはとらん!)


 気を引き締める蕾は復讐者の顔である。


(で、でも……もしかしすると私を抱きしめて懐柔してきたりとかも考えられなくは……あ、駄目そんな急に、まだ心の準備が……)


 たまに乙女の顔もしていた。


(はっ!? 私は何を考えている。こいつは敵なのだ。少し優しくされたからなんだ!)


 蕾は気持ちを引き締め、再び復讐者の顔になる。

 乙女心よりも復讐心が勝ったようである。


「愛芽さん」

「うひゃぁ!? な、なんだやるのか! どんな事をされても懐柔されないからな!」

「後をつけられてる」

「何……?」


 どぎまぎしていた蕾が表情を険しくする。

 透が左目を動かし、軽く後ろへ首を振る。それを見て蕾も右目で軽く後へ視線を送る。

 見えたのは数人の男、見るからに柄の悪そうなチンピラである。

 蕾は気がつかなかった事が悔しい様子で、軽く舌打ちして透に視線を戻す。

 二人は視線で会話して頷くと、一気に走り出した。


「気がつかれたか!? 追え! 逃がすなてめぇら!」


 リーダー格らしき一人の男が叫ぶと、チンピラ達は一斉に走り出す。

 狭い路地を駆け、廃墟ビルの間を二人は進んでいく。

 やがて二人は、周りをビルに囲まれた開けた空き地のような場所で足を止めた。

 行き止まりである。


「ちっ! ようやく追い詰めたぞ、女ぁ!」

「けけけっ。いつも俺達を見下しやがって、痛い目に遭わせないと、こちとらやってらんねぇんだよぉ!」

「ふんっ。何かと思えば八つ当たりか、情けない奴らだ。返り討ちにしてやろう!」


 蕾はOPを手に取り、透との戦いで見せた薙刀を再び出現させる。

 夜の暗がりで戦闘態勢に入ったことにより、皮膚の外側が穂のかに赤く光るのが目に見える。

 OPをセットした事で、スカートのSPの力が強まり、彼女の体の身体能力を更に向上させたのである。

 その姿にチンピラ達は明らかな動揺を見せた。


「こ、こいつOP持ちじゃないか、話が違うぞ! あそこの学生は訓練時間以外のOP所持は禁止じゃなかったのか!」

「ちょっと待て……! こいつ雑誌で見たことあるぞ、確か……」

「今頃気がついたか愚か者が! そう、私こそ愛芽家の家宝である薙刀、桜一紋を与えられた愛芽家次期当主……その名も」

「その名も、縞々パンツの蕾だ!」

「縞々パンツの蕾だ!」


 透の叫びにつられて、蕾は高らかに宣言した。


 愛芽 蕾16才。

 始めて自分の名前の前にパンツをつけて名乗った春の夜のことであった。

今回はここまでです。

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