表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

4.復讐者。

「あ、あの布嗚君……せ、制服の袖のボタン取れちゃったの」

「ん……いいよ。縫うから貸して」

「きゃー! 嬉しいですお姉様ー!」

「後で体育館裏ね」

「喜んでー!」


 三人の女子を体育館裏へ呼んで以来、女子が次々と透に何か理由をつけて話し掛けていた。

 彼女達は進んで透を怒らせる発言をする。体育館裏へと呼び出される為である。

 三人の女子の話を聞いて、何故か透にファンが出来てしまっていたのである。

 本来なら男にスカートを取られる事は女にとって最大の屈辱である。

 しかし、透は見た目は完全に女である。女の心を掴むようなミステリアスな容姿がこの結果を生んでいた。

 そんな事とは知る由も無い透は、女子達が嫌がらせをしていると思い込んでいた。

 

「はぁ……予想とは違う攻撃だよ。この方が疲れる……」


 透が毎朝メイド達と訓練していたのは、問答無用で襲われると思っていたからである。

 英雄の子で名家の子息であるが、透は男である。

 今の世の中、男が女ばかり施設の中へ飛び込むのは自殺行為に等しかった。

 友好的な態度で接して来ると扱いに困る。軽く情も沸いてくる。まだ素直に攻撃してくれた方が楽である。

 しかし、うんざりとした様子で机に突っ伏している透にまた一人、近寄る女子の影があった。


「貴様が布嗚透か? ふんっ。男の癖に本当に軟弱そうな外見をしているな」

「今のはセーフかな。それで次は何?千切った制服のボタン? 糸をほつれさせたパンツ?」

「パッ――!? 何をふざけた事を!」

「ふざけてないよ、本当にやった子が……!」


 顔を上げてしっかりと女子を見た透は、はっとした表情をした。

 しかしそれは、彼女が美少女だったからではない。その服装を見て透は驚いたのである。

 ジパンクーネの伝統衣装、魅袴みこ。半袖が短い薄手の着物である。

 そして、彼女が穿くミニスカート。そこが透の目を引いた一点だった。

 魅仁一式みにいちしき。先の大戦でジパンクーネの主戦力だったスカートである。

 透は興味を示して、魅仁一式に顔を近づけて観察する。

 子供の頃、父親からこう聞かされていたからである。


「良く聞くのだ透よ。編み紐で縛られた魅仁一式の脱がし難さはスカートの中でも群を抜いている」

「おとーさんでもむりなの?」

「俺なら簡単に脱がすに決まっているだろう。まあ聞け、実は編み紐よりも厄介なのはホックの多さだ」


 父親の言葉を思い出しながら、透は確かにと思う。

 見ればホックは魅袴へ引っ掛けられ、魅仁一式を吊り下げている。

 西洋式の横向きに引っ掛ける物とは違う。止め金が無数に存在し、腰を囲むように一周している。

 これを全て外さなければ脱がせられない仕組みになっているのだ。


「私のトビー! 夕飯の準備が出来たわよー!」

「む。待てアン。まだ話しの途中……うわっ!? 放せ馬鹿者ー! 何をするー!」

「きゃー! 声可愛い~! 足ジタバタさせて可愛い~! ほっぺたスベスベ~! このまま運んで上げまちゅからね~!」

「人をお子様扱いするなと何度言えば分かるのだお前はー! これでは父としての威厳が保てんだろうがー!」

「ふたりともなかがいいなー」


 トリップした変態顔の母親に父親が抱っこで誘拐された所で、透の回想は終了した。

 結局対処法は聞けないまま、透は実物を目の当たりにしたのである。


「ここのホックはどうなって……」

「や、やめろ! 何をする気だ貴様!」


 透はもっと詳しく知りたいと左手を伸ばした。しかし、それはペチンッと甲を叩かれて止められてしまう。

 やったのは下半身を舐めるように見られ、恥ずかしさで顔を真っ赤にした魅仁一式の持ち主である。


「ごめん。つい脱がしたくなるスカートだったから」


 ここで始めて透は女子の顔をしっかりと視覚に捉えた。

 長い桜色の留め紐を蝶々結びにして縛られたポニーテール。少し藍色掛かった黒髪。

 背の高い透よりも頭二つ分低いだろうか、凛々しい表情の中にも可愛らしさが入り混じっている。

 しかし、透を常に睨んでいるその視線は厳しい。


「脱がっ……やはり聞いていた通りだ。貴様は放課後体育館裏へ女子生徒を呼び出して如何わしい事をしているらしいな! この私が成敗してくれる!」

「それは僕が嫌な事を承知の上で、彼女達が女扱いしたからだよ。最初の三人はちょっと頭に血が上ってたから悪かったとは思ってる。お詫びにパフェでも奢ってくれと言われたから奢った」


 透は離れた位置で此方を見ていた女子三人組みに視線を送る。

 そしてあれっと首を傾げた。三人とも大勢の女子に取り囲まれていたのである。


「ちょっとあんた達! 何時の間に透様とデートしてたの! 抜け駆けは駄目だって言ったでしょ!」

「あれはファンクラブが出来る前の話しだろ! てかスカート取られたその日だ! 俺達悪くねぇ!」

「そうよ! 何も責められる言われなんてないでしょ! いーっだ!」

「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」


 三人は血相を変えた透のファンの女子達に囲まれて言い争っていた。

 透はファンクラブが出来ていたとは知る由もない。

 何故喧嘩が始まったのだろうと不思議そうに首を傾げるばかりである。


「それはもう確認した。確かに人が嫌がることを進んでやるのは良くないことだ……だが!」

 

 敵意を見せていた女子は一瞬納得していた様子を見せたが、目を見開いて右手を上げた。

 手に持たれているのは一つのカードである。それは彼女のOPだった。

 OPがスカートのスロットにセットされ、魅仁一式が赤色く輝き、無数の赤い粒子を空中へ放った。

 女子生徒が差し伸ばした右手の中で光が集まり、武器の形へ変化する。

 右手が掴み取ったのは薙刀の柄である。


「個人的に貴様は許せない相手なのでな! 勝負して貰うぞ布嗚 透! 私はジパンクーネ四大名家の一つ、愛芽家長女! 愛芽 つぼみだ!」


 蕾は薙刀を頭の上で横向きに何度か回転させると、名乗りながら両手で持ち替えて、切っ先を透に向けて構える。


「そっか。僕は布嗚 透、よろしく」

「あ、はい、よろしく……。 あっ!? 違うそうじゃない! 母の恨みこの場で晴らしてくれる!」


 透に釣られて反射的に頭を下げてしまった蕾は、顔を上げて薙刀を真横に振り抜いた。


「おっと……」


 机を真っ二つにした斬撃を、綺麗な姿勢で後方跳んで回避した透は、空中で一回転して別の机の上に足先から着地した。

 重力を感じさせない身のこなしである。


「ちょっと待って、ここじゃ人目が多いし先生が来たら止められるよ」

「私は別にばれても問題ない!」

「そう言わないで……今日は授業も次で終わりだよ。愛芽さん強そうだから僕も広い場所で思いっきり戦いたい。愛芽さんも本気で戦いたくない?」

「む……そうだな分かった。……では放課後に第二演習場だ。逃げるなよ!」


 透の提案を呑み、蕾は薙刀をOP本来のカードに戻して教室から去る。

 それを見ていた女子三人組が、透に駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫かよ! 怪我はないのか?」

「あの女~! 行き成り透様に斬りかかるなんて、許せないわ!」

「い、医療室行く?」

「ありがとう。怪我はないから大丈夫だよ……愛芽 蕾か……強そうだな」

 

 透は女子三人に軽く御礼を言うと、何所か嬉しそうな笑みを浮かべる。

 しかしそれは強者を見つけて喜んでいるそれとは違う。

 何か大切なものを見つけたような慈愛に満ちた笑顔だった。


 そして、時は放課後となった。

 ここは第二演習場。周りを大きな客席に囲まれた施設であり、本来なら軍の要人達が訓練生の実力を見る為に使われる場所である。


 透と蕾はそのグラウンドの真ん中で向かい合って立っていた。

 静寂の中、最初に動いたのは蕾である。


「はぁ!」

「この力……家のメイド達が束になっても敵わないかな」


 飛んでくる薙刀の斬撃を避けながら、透は蕾の強さを冷静に分析する。

 赤いSPはパワータイプの証である。接近戦に特化し、かすりでもすれば一瞬で戦闘不能に追い込まれる。

 薙刀は中距離武器に該当する。しかし蕾は刃先に近い柄を握っている。

 そのリーチの長さをわざと殺しているのか、それとも余った柄を翻して棒術のように使ってくるのか。


「愛芽流! 裏落とし!」

「うっ!?」


 見極めようとしていた透は思わず体を左に仰け反らした。

 蕾がスナップを利かせるようにして右手首だけで刃先を透の目の前に振り下ろし、柄から手を放したのである。

 空中で縦に半回転した薙刀の柄の部分が、刃先をギリギリで避けた透の左肩に直撃する。


「最初の斬撃は囮、余った柄の部分はそう使うんだ……面白い技だね」

「ふんっ、脳天をカチ割るつもりだったのだが、惜しかったな」


 透は左肩に軽く視線を送る。柄で打たれた衝撃で一部分だけが破れていた。

 白い肌が蚯蚓腫れのように赤くなり、その顔は軽く苦痛に歪む。

 蕾は後ろに飛んで距離を取った。すると、薙刀も宙を独りでに飛んで蕾を追う。


「その薙刀。遠隔操作機能付き……だね?」

「ようやく気が付いたか。私を赤SP持ちのパワーだけが能だとでも思ったのだろう? それがお前の敗因だ」

「遠隔操作……本来なら黄色が得意な筈だけど……でも、もういいかな。勝負は決まったしね」

「ははは! 負けを認めるか! 潔いな! だが、認めた所で私はお前を殺すがな!」


 蕾は勝ち誇った笑い声を上げると、止めを刺そうと薙刀を構えて走り出そうとした。

 しかし、それは思わぬ事で中断する事になる。


 ストンッ……。


「え……?」

「僕の勝ちで勝負は終了だよ」


 透の右手には、蕾の魅仁一式を縛っていた編み紐が持たれていた。

 蕾が距離を取った瞬間に解いて抜き取っていたのである。

 地面に落ちてしまった魅仁一式を見て、蕾は放心気味に口を開いた。


「だって、そんな……ホックは?」

「これ? 確かに大変だったけど、あれだけ隙の大きい大振りの攻撃だったからね。最後は危なかったけど」


 透は左手にある無数のホックを、空中に放り投げては掴むを繰り返す。

 何度も蕾の攻撃を避ける間に、全て外していたのである。

 程なくして、魅仁一式からのSPの供給を断たれた薙刀がカードに形を戻す。


「魅仁一式は一度脱いでしまうと装着に時間が掛かる……私の負けだ。殺せ」


 蕾は恥ずかしがる様子もなく、悟った顔で寂しそうに言う。


「ん……」


 透は軽く言葉を発し、ゆっくりとしなやかな指先を蕾の首へと伸ばす。

 折られるのか、絞められるのか。蕾は恐怖して瞳を強く閉じることしか出来なかった。

 心に思うのは優しかった母親である。


 ごめんなさいお母さん。あの憎い男の息子に私は命を奪われるようです。

 今日の為に血の滲むような努力をして、必死に稽古をしたのに届きませんでした。

 私は憎いあの男の息子にすら、一太刀も……許してください。 


 悔しさで涙が溢れていた蕾の思考がそこで途切れた。

 

 左手で掴まれた細い首。


 透の右腕に抱きしめられるようにして、蕾は力無く首をもたげていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ