3.世界の在り方。
"スカート"。
これは女性用人体強化戦闘服の名称である。
"Skirt Particle" 通称"SP"
S歴2011年2月15日。
ある科学者が未知の鉱石から発見した粒子は、女性の身体能力を飛躍的に伸ばす力を持っていた。
それに目をつけたアーメリンズ軍事兵器開発研究所は、SPからスカート型の人体強化戦闘服を開発したのである。
スカートによって強化された女性兵の強さは、それまでジパンクーネが開発、所持していた巨大人型兵器と互角に渡り合った。
しかし、互角に思われた双方の兵器であったが、コスト面の問題で徐々にスカートの力が強まって行った。
そして、巨大人型兵器は何時しか過去の遺産として封印されたのである。
スカートの登場により、世界の軍事事情は大きな変化を見せた。
それまで男性が軍のトップを任されていた国々で、女性の指導者が名乗りを上げたのである。
こうして、世界の軍のトップは女性へと変わり、女性スカート部隊が世界の軍隊の主力となった。
S歴2109年2月15日。
この日、最先端科学力を有するジパンクーネ国と、豊富な資源と財力を有するアーメリンズ国の平和同盟式典が、中立国ギーリスカントで行われていた。
長きに渡り争っていた両国の平和同盟は、世界平和の第一歩として世間の注目を集めていた。
しかし、調印式が終わったその直後、事件は起きた。
時のジパンクーネ国総理大臣、上木 裟苗がシロアモーメンの暗殺者に強襲されたのである。
一発の銃弾の前に倒れた総理は最後まで世界の平和を願い、病院で息を引き取った。
これに激怒したジパンクーネは、軍の最高司令官である愛芽 咲玖と共に立ち上がる。
ジパンクーネとシロアモーメンの戦争が始まったのである。
当初は互角の戦いを繰り広げていた両国であったが、同盟国となったアーメリンズの提供したスカートの詳しい構造を入手したジパンクーネは、圧倒的科学力で新たな兵器を開発し、戦況は一変する事となる。
変異構築形武装。通称"OP"
SP粒子を加えて作り上げた武器である。
重火器などを粒子レベルで分解し、コンパクトなカード型に変化させ、必要時にはスカートの淵にあるスロットにセットする事で、元の武器に再構築する技術である。
「こうして武器物資移動面でリードを見せたジパンクーネはシロアモーメンを徐々に追い込み勝利を収めたのよ。そして戦後、女性の地位は更に高くなり貧弱な男は……て、もうこの辺は知ってるわよね。でも、優秀な軍人になる為には実技だけでなく、こうして歴史を知ることも立派な」
「あの、せ、先生……」
「あら? どうしたの?」
「目の前のその人……布嗚 透君です」
「え……? ええっ!?」
電子黒板に映るスカートの歴史を説明していた女性教員が、一人の女子生徒に指摘されて動揺する。
教室で一番前の席に座っていた透を見て驚いたのだ。
「この国を勝利に導いた英雄。布嗚 音琵さんのご子息? 嘘、まさか、だっておん」
「事実なので男をどうこう言うのに怒る気はないです。でも、もし僕に女にしか見えないとでも言ったなら、先生のスカートを剥ぎ取って足首をロープで縛り、窓から外に放り投げて逆さまに吊るします」
「ひぃ!?」
女性教師は腰を抜かして、タイト型スカートを両手で押さえながら尻餅をついた。
透の影の差す怖い笑顔が発動したのである。
腰を抜かした女性教師を見ながら、透はやれやれと首を振った。
時は三日前の入学式の日に遡る。
「ねー知ってる? このクラスに男子が一人だけ居るんだって」
「え? どうして男子が、この学校は女子しか入学できないわよね?」
「あ、俺も知ってるよ。今年は布嗚家の男の子が入学するって聞いた」
「え? あの四大名家の? 確か当主はあの人よね?」
「そうそう、あの人。だとしたら怖いわよね。あなたはどう? 知ってる?」
「ん……知ってるよ、僕がその布嗚 透だからね」
入学式が終わり、何気なく出来た女子の一グループの中に透も居た。
透以外は学園指定の白い制服と、横に白いラインが一本入った黒のプリーツ型ミニスカート。
透は一人だけズボンである。
普通ならばそれだけで、入学式に男子が居ると騒がれてもおかしくはない。
しかし、透の容姿は完全に女である。容姿ならまだしも声まで女である。
誰もまったく気にする事もなく、女子グループの中に溶け込んでしまっていた。
「あははっ! 変な冗談はそのズボンだけにしろよなー!」
「冗談? これは男だから当たり前だと思うけど……」
「またまた~! 入学式の時も白い中で一人だけ黒いし、笑えるー!」
「これは男子生徒用だから黒いんだよ」
「お前みたいな美少女が男の子? 女の俺でもちょっと嫉妬するのに止めろよなー!」
「美……少女?」
「そうそう、私達から見ても見惚れるぐらいなのにぃ!?」
「ひっ!?」
「ど、どどど、どうした?」
先程まで見せていた穏やかの表情は何所へやら、透の表情を見て三人の女子は震え上がった。
そして、彼女達が透に恐怖を覚えた次の瞬間。
ストンッ……。
「へ? あ!? わ、わぁあああ!?」
一番近くにいた男口調の女子がまず犠牲になった。
透の電光石火の左手が彼女のスカートへ伸び、ホックを外し、チャックを下げたのだ。
支えを失ったスカートは、重力のままに地面へと落下し、女子は両手で下着を隠して座り込む。
「ま、まさか本物? あ、謝るわ。何を怒ったのか知らないけど、人前でスカートだけは」
「許さないから謝らなくていいよ」
「……ひ、酷い」
二人目のおでこが眩しい女子は内股になり、カクカクと震えたまま謝った。
しかし、許しては貰えなかった。無情にも一人目と同じ様にスカートが床にパサリと落ちる。
彼女は下着を隠すことも忘れて尻餅をついた。両目からは光が消え、涙が流れ出している。
透は最後の一人へと視線を向ける。
「え? え? わ、私も?」
最後の一人は大きい丸眼鏡を掛けた女子である。
他の二人とは違い、彼女は男子生徒が居る話を不思議そうに聞いていただけである。
「沈黙は僕が女と聞いても違和感が無いって言ってるのも同じだよね」
「そ、そんな目茶苦茶な――きゃぁあああ!」
最後の一人も透の手によって、理不尽にスカートを剥ぎ取られてしまった。
彼女は完全に無罪であるが、それを有罪にしてしまう程、透は女に間違われることが嫌いなのである。
次の日、三人は人前でスカートを脱がされたことを苦に自害し、自宅で無残な姿で発見されることになる。
女にとって人前でスカートを男に脱がされることは、死ぬほど屈辱的な事なのである。
「そうなりたくなかったら、今後は気をつけてね」
「はい……失礼しました。ううっ……俺、もうお婿さん貰えないよ」
「まだ良かったわよ。人気の無い体育館裏で脱がされて……グスッ」
「私は悪くないのに……酷いよ」
透は女子三人を人気の少ない体育館裏に呼び出してからスカートを脱がせたようである。
「さてと」
「ひっ!? ま、まだ何かあるのかよ……」
「も、もう止めて……」
「熱いのは嫌……」
透は制服の内ポケットに左手を入れたのを見て、女子三人はビクッと体を振るわせる。
一人はタバコでも出して、根性焼きでもされるのかと想像していた。
「スカート貸して、ホック直すから」
「え……? ああ……」
「ありがとう……」
「……綺麗」
怖がっていた三人を余所に、透が取り出したのは何の変哲もないソーイングセットである。
透は慣れた様子で、細く綺麗な指先で外れたホックの止め金部分を押さえる。
針の穴に通すために糸を小さな舌で軽く舐め、濡れた下唇が妖艶な光沢を放つ。
半開きの左目が悩ましげに閉じられ、縫い終わった糸を軽く噛んで切る。
女子三人はその様子を見て、頬を紅く染めて、モジモジし始める。
男口調の女子は何か物欲しげに唇を指で撫でる。
おでこの女子は右手を内腿の間に挟んで息を荒くする。
大きい丸眼鏡の女子は胸の前で両手を組んで、うっとりとした視線を送っていた。
透は女から見ても、何か引きつけられる様な妖艶さを漂わせていた。




