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2.朝の風景。

「また派手にやったわね~、おはよう愛しの我が子!」

「おはよう……またそんな服で出歩いてるの?」


 透が道場から出ると、話しかけて来たのは布嗚 餡子あんこ。透の母親である。

 彼の体の線の細さは母親譲りのようである。

 しかし、透とは違い、餡子の鋭い視線は見る者を射抜いてしまいそうである。

 丈の短い黒いタンクトップは透の物と同じであり、黒いレギンス一体型の黒ミニスカートを穿いている。

 レギンスは黒い割に透明度があり、下から覗けば色々丸見えである。

 

「母さん。恥ずかしいからせめて臍は隠してくれないかな」

「実のむす……子に。恥ずかしそうにされても全然萌えないわ」

「どうして息子で一瞬どもったの? そういう問題じゃなくてね母さん、年相応の格好をしてほしいと頼んでるの」

「私の肉体年齢は18才よ。街を歩くと女子高生と間違われるんだから、こいつめ! 」


 餡子は拗ねた顔でそっぽ向きながら透に近付くと、横に並んで右腕を透の首へ回す。 


「まったく、私の子供の癖に私より背が高くなっちゃって、羨ましいわねその美貌!」

「イタタタッ。その理屈意味分からないよ。母さんだって背が低い訳じゃないでしょうに」


 ヘッドロックされながら頭をグリグリされて、透は呆れ顔である。

 二人は傍から見れば、学校でふざけ合う女子生徒に見えるだろう。


「入学祝いにお父さんがその内プレゼントくれるそうよ。こらーーー! あんた達、何時まで伸びてるの!」

「も、申し訳ありません奥様!」


 ヒラヒラと片手を上げて透に背を向けながら歩いていた餡子は、黒いショートブーツの先端で扉を開き、大声を上げた。

 扉の開く大きな音と、餡子の声を聞いたメイド達は、疲れ果てた表情を一変させ、大慌てで飛び上がった。

 そして、自分のスカートを急いで穿いて、蜘蛛の子を散らす様に自分の仕事場へと戻って行った。


「行儀悪すぎだよ母さん……父さんが見たら何て言うか」

「見てないから問題無し! それより朝ごはん早く食べなさい。入学式から遅刻しちゃだめよー」

「母さんが話しかけてこなかったら丁度の時間で……もう居ないか」


 視線を落として溜息を付いていた透が顔を上げると、もう餡子は遠くの方で後姿のまま、ヒラヒラと右手を振っていた。

 仕方ないなと、透は苦笑いをして朝食へと向かう事にした。


 時は少し進んで朝食の時間。


『朝のニュースの時間です。総理の解任から一週間、新たな総理候補が次々と名乗りを上げています。中でも注目されているのは男女平等を掲げる――』

「男女平等か、この人に票入れたいな」

「若様はまだ16才でございます。投票する為には20才になる必要があります」

「ははっ、そのくらい知ってるよ」


 朝食の味噌汁をお膳に戻して、笑いながら透が言う。

 ここはメイド達が並んで朝食を取る畳の敷き詰められた細長い和室である。

 御膳の前で向かい合って、二列になって正座するメイド達。

 透は上座でメイド達の列を見ながら、朝食を食べるのが日課である。


「差し出がましいこと申し上げました、罰としてスカートを脱ぎます」

「はぁ……あのね何度も言うけど」


 透に近い一番前の席にいたメイドが立ち上がり、ミニスカートを脱ごうとする。

 透は溜息を付いてメイドに近付き、左手を彼女の右肩に置いて、女のような優しい囁きで論する。


「女の人が男の前でスカートを自ら脱ぐ。それは僕に脱がされるより屈辱的なことでしょ? そんな事しなくていいから普通に……」

「大丈夫です若様。布嗚家に使えるメイドは全員若様を女だと思っ……あっ」


 メイドはしまったと言う顔で、口に両手を添えて思わず身を引いた。

 右肩に置かれていた透の左手が、空中で小刻みに震えている。


「全員……覚悟はいい?」 


 透の影の差す怖い笑顔を見て、メイド達はサッと青い顔になる。

 彼女達はこれから、再び道場の惨劇を再現する事になってしまうのである。

 失言をしてしまったメイドは他のメイドに土下座していた。


「スカートはちゃんと穿いてる? ちょっと強めに行くよ」

「お、お手柔らかに」


 メイド達は引き攣った顔で、声を合わせて言う。

 しかし、何故かその口元は僅かに釣りあがっている。

 後ろの方に並んでいるメイドなどは、笑顔で軽くガッツポーズしている。

 土下座しているメイドに良くやったと親指を立てる者もいる。

 そう、彼女達はスカートを脱がされたくて演技をしていたのである。


 "若様と何か間違いがあれば次期当主のお嫁さんになれる"

 

 彼女達が毎朝透の訓練に付き合うのも、これが狙いである。下着も何時も勝負物を着用している。

 これはメイド達による、玉の輿狙いの巧妙な罠だったのだ。

 そうとも知らず透は、その朝二度目の鍛錬に励み、メイド達の嬉々とした悲鳴が上がった。

 

「さてと、腹ごなしの運動にはなったかな」


 しかし、透は部屋の扉を後ろ手で閉めて、何事も無いように廊下を歩いて行く。

 透が去った部屋に残されたのは、スカートを剥ぎ取られ、恥ずかしさで動けずに倒れるメイド達である。

 彼女達の策略は見事に失敗の終わったのだ。


 布嗚 透。これが何時もと変わらない彼の朝の風景である。

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