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14.エピルローグ1.初体験。

「もうっっっっっっっっっっしわけっございませんでしたぁあああああああ!」

「もうひわけございまへんでひたー! うぇぇぇん……」

「二人ともまずは落ち着いてスカート穿こうね……そして大声は頭に響くから止めて」


 ここは軍専用の医療施設である。透はベットの上で、体中を包帯で巻いてミイラ男になっていた。

 ベットの下で土下座しているのは、スカートを脱ぎ捨てた満と、同じく下着姿で大泣きしている蕾である。

 あの事件から三日、蕾を助けた透は急に消えたSPの円柱から結局落下してしまったのだ。

 気絶している蕾を護る為に、透は自分が下敷きとなったのである。


「紅鬼に運ばれる予定が私のせいでぇええええええ! うあぁああん!」

「元はといえば私が二人が手を組んでいると勘違いして暴走したからぁあああ! うぇぇええん!」

「だから……この傷は英雄石のSPを使い過ぎて体が耐えられなかっただけだよ」


 透は何度目になるか説明をして、姉妹揃って泣き方までそっくりだと苦笑する。

 その視線は優しい。


「その通りだ。まったく。あれほど無理はするなと言っておいたであろう」

「ひっ!? ひぃいいい!」

「きゃぁああ!? ごめんなさいー!」


 満の顔が真っ青になる。下着姿に関わらず大股を開いて後退りする。

 蕾は地面を這うように背を向けて逃げている。

 病室のドアを開けて入ってきたのは、どこからどう見ても幼女である音琵だった。

 音琵は白い袴姿で怪訝な顔をして、手にした扇子をパチンと閉じた。


「何だあの二人は? 俺の顔を見るなり逃げおって、失礼な奴らだ」

「あれが蕾と満さんだよ。父さんが稔梨さんを殺したと勘違いしてた人達」

「む……そうか、あれが稔梨の娘か。それにあれは満だったか、随分大きくなったものだな、俺も年を取るはずだ」


 音琵の登場に、満と蕾は二人でカーテンに上半身を隠して、抱き合うように震えていた。

 その様子を見て、音琵は年相応に見えない可愛い仕草で、ピョンと丸椅子の上に飛び乗る。

 飛び乗った事で、長い白髪がふわりとした。


「英雄石のSPを使ったのだ。しばらく拳を振るうなよ。壊れるぞ……それで、お前達は何をしている?」

「この度は私の勘違いで音琵様に多大なご迷惑をお掛けしました。格なる上はどんな罰でもお受けします」

「グスッ……わ、私もグスッ……透様この体を差し出す覚悟よ、グスッ……」


 満は音琵の前で正座し、蕾は透の前で正座して上半身の魅袴まで脱ごうとしていた。

 それを見て、まずは透がやれやれと首を振りながら蕾に話しかける。


「落ち着いて。夫婦でもないのに情を交わす気はまったくないから」

「グスッ……じゃあどうすれば許してもらえるの? そ、そうだわ。私のSPを全て吸い尽くしてもらえば、透様の傷も治って罰として地獄に行け……」

「こら」

「あうっ!」


 そっと透に寄り添って瞳を閉じて、唇を交わそうとしていた蕾はペチンとおでこを叩かれる。

 あうあうと泣いている蕾に、透は床に脱ぎ捨てた魅仁一式を穿くように命令した。

 蕾は素直に頷くと、魅仁一式を穿いて透の寝るベットに座り、再び瞳を閉じた。

 それは接吻を待つ乙女の顔である。


「この傷はSPを吸い過ぎてナノマシンが限界を超えたのが原因だよ。今吸ったら止め刺されちゃう。そうしたいのかな?」

「ち、ちが! し、知らなかったの! だったら、えっと……顔の原型がなくなるまで殴り殺して!」

「はぁ……どうしても気が済まないなら、僕の体が完治するまで護衛をしてくれないかな?」

「え……? 透様の命を狙った私がそんな大役……」

「命令だよ。弱っている僕を襲おうとする女の人は必ず居るからね。完治するまで護りきれたら許す。いいね?」

「グスッ……はい……この桜一紋に誓って必ず。ありがとう……透様」


 透に優しく頭を撫でられて、蕾は鼻水を啜りながら大きく頷いた。

 何とか丸く収まったようである。

 しかし、最大の問題はもう一組の方であった。


「俺が突き落としたと勘違いするのも無理はない。稔梨とはよく喧嘩していたからな、だからもう気にするな」

「あの右手がまさか稔梨姉さんを救い出そうと差し伸べられていたとも知らずに、私は蕾を復讐の鬼にしてしまいました。どうか殺してください」

「き、に、す、る、な! と申しているだろう! 何度も言わせるでないわ!」

「では仕方ありません。不本意ですが英雄のご子息を危険な目に合わせた張本人として、軍に処刑されます」


 音琵は丸椅子の上で肩を怒らせて許すと言うが、満の方は正座したまま聞く耳持たずである。

 その様子は子供の小言を黙って聞く大人、まるで張感がない。

 少し開いたドアの隙間から看護婦が声に気がついて一瞬覗くが、微笑ましい笑顔で通り過ぎるのがその証拠である。


「私のトビを困らせているのは誰かしら~?」

「わひゃぁ!?」


 ぬぅと満の背後に姿を現したのは餡子である。驚いた満は悲鳴を上げて飛び上がった。

 餡子が後ろから満の胸を両手で鷲掴みにしたのである。


「はい、スカート穿かせるの完了」

「あ、あれ?」

「うむ。見事だアンよ」

「いやぁ~ん! もっと褒めてトビ~!」

「何時の間に……?」

 

 満は驚いた顔で、音琵を抱っこして座っている餡子を見る。

 何時の間にかタイト型スカートを穿かされていたのである。

 しかも、餡子は真後ろで胸を鷲掴みにしていた。餡子は一瞬で椅子に座り、音琵を抱っこした事になる。

 視線を感じたのか、餡子はデレデレの顔を止めて、鋭い視線を満に送った。


「ひぐっ……」


 満は息苦しさを感じて詰まった呻き声を上げた。

 体中から汗が噴出してくるのを感じる。自然と顎が上向きになり、呼吸も苦しくなった。

 首元にナイフを突きつけられて、殺される瞬間のイメージが満の脳裏に浮かぶ。


「満ちゃぁんだっけぇ~?」

「は、はい……」

「トビが許すって言ってんのにさぁ~、これ以上駄々をこねなぁいでほしぃなぁ~、満ちゃんのだぁ~じな人も一緒に殺してもいぃんだけどぉ?」


 その表情は悪戯な笑みを通り越して、完全に恐怖の対象である。

 白目の部分は徐々に黒く染まり、その姿は狂気に満ち溢れている。

 冷気が漂い、部屋の中の温度が下がったような錯覚を覚える。


「なっ……や、止め、彼は、関係な、い」

「ん……これは、母さんキレちゃったかな」

「い、息が出来ない……透様、これは一体」


 誰も知らないはずの事実を知っている餡子に、満は何とか声を出して許しを請う。

 透も少しだけ焦ったような顔をする。

 蕾は首を押さえて息苦しそうである。

 しかし、そんな重い空気は音琵によってあっさり軽くなった。


「こりゃ! 何をしているアン! さっさとそのどす黒いSPを引っ込めろ! この馬鹿者め!」

「あいたっ! ううっ……。だってあの子がトビを困らせるから~!」


 音琵が懐から出した扇子でベチッと餡子の鼻頭を叩くと、餡子は狂気を引っ込めて、怒られた子供のような顔になる。


「満よ。お前にも大事に思う人が居るならば死に急ぐな。稔梨が死んだ本当の理由を話していなかった俺も悪かったのだ」

「え……? お母さんが死んだ本当の理由? あ、そう言えばお母さんは戦死だって」


 蕾が事実の食い違いに気がついて視線を向ける。母親は戦死と聞かされていた。

 しかし、誤解が解けた今の話でも、稔梨は自殺と公表される筈である。


「うむ……実はな、稔梨はシロアモーメンのスカート部隊、白豹に襲われたのだ」

「白豹……アラジカで音琵様が壊滅させたシロアモーメンの精鋭スカート部隊」

「そうだ。奴らは稔梨の弱みを握っていたらしくてな。一人アラジカへと呼び出された稔梨は、そこで白豹の女達に……」


 音琵は瞳を閉じて悔しそうに唇を噛む。その沈黙が全てを物語っていた。


「戻ってきた稔梨は殆ど体にSPが残っていなかった。命に別状はなかったが、絶対安静の状態だったのだ」

「それで……お母さんは……」

「気がついた時には稔梨の姿は治療室から消えていた。必死で探し回ると、崖の上で立っているのを稔梨を見つけたのだ」

「私はそれを、離れた横の崖から双眼鏡で見ていました」

「うむ。あの時、稔梨は辱めを受けた事を悔いていた。そして海に身を投げたのだ」

「そんな……お母さん」

「すまない。俺があの時、この手で稔梨の手を掴み取っていたならば、今頃は親子揃って笑いながら暮せていただろう。お前を復讐者にしたのは俺だ。許してくれ」


 音琵は悔しそうに左手を握り締める。当時、稔梨は総司令官補佐。

 そんな彼女の自殺の事実は、敵にも味方の士気に関わる出来事だった。

 総司令と音琵は極秘に話し合った結果、稔梨の名誉を保つ為にも、その事実を隠蔽して戦死とした。

 音琵は蕾にそう告げると、話を終えた。

 真実を知った蕾は、数回深呼吸をしてから口を開いた。


「お母さんの……母の仇は音琵様が?」

「白豹の奴らは一人残らず、一番酷い方法でスカートを剥いだ。稔梨と同等以上の辱めを与えたやったよ。それを苦に全員その場でナイフを取り出して喉を突いた。生き残りは居ない」

「……わかりました。私の復讐はもう終わりました。これからは一人の愛芽 蕾と言う人間として生きます」

「そうか……まだ若い、人は誰でも生きている限りやり直せる」

「はい……はい! ありがとうございます!」


 蕾は屈託のない晴れやかな笑顔を見せる。

 その様子を見て、良かったと心で思いながら、透は笑みを見せていた。


「長く話してしまったな……俺はこれから軍に用事がある。これで失礼するぞ」

「あ! 私も報告に向かいます! 基地までお送りします!」

「そうか? では満に頼むとしよう」

「……私は街を散歩して帰るわ」

「何だアン? 拗ねてしまったのか? しょうがない奴だ。車まで肩車をさせてやる、機嫌を直せ」

「ほんと!? する! するする! トビ~! 可愛いよ~!」

「あ、待ってください! 蕾! 後で連絡するわね!」


 不機嫌そうにしていた餡子は目を輝かせて音琵を肩車し、鼻歌を歌いながら病室から出て行った。

 それに続いて、満も蕾に軽く手を振って出て行く。

 病室に残っているのは透と蕾のみである。


「コホンッ……透様」

「透でいいよ。あ。喋り方も丁寧とか止めてね」

「そ、そうか? では透、林檎を剥いてやろう」


 蕾は果物ナイフを手に取り、林檎の皮を器用に剥き始める。


「あれ……素の喋り方は?」

「あの喋り方は、その……子供の頃の物で、今はこっちが素なのだ。透が嫌なら頑張って直すが……直すわ」

「無理はしなくていいよ。どんな喋り方でも蕾が可愛いのは変わらないから」

「かわっ痛っ!」

「あ。ごめん、耐性が出来たとか言ってたから平気だと思って、消毒するね……あむ」

「ととととと、透!? あ、ん……」


 蕾が果物ナイフで左手の人差し指を切ったのを見て、透は怪我をした指先をパクリと口の中へ入れた。

 あまりの事に気が動転しそうになった蕾だったが、傷を舐められた衝撃で体をくねらせて色っぽい声を上げた。

 透の体には傷を治すためのナノマシンも備わっている。

 舐める事で多少の傷は唾液に混ざるナノマシンが修復するのだ。


「ん……よし。血止まったね」

「あ、あ、あ、あ、あ……」

「どうかしたの?」


 透は子供の頃に餡子が音琵にされていたのを見て育った。相変わらず羞恥心は無い。

 しかし、蕾はまったくの初体験。舐められている間、色っぽく喘ぎ声のようなものを出してしまっていた。

 顔を真っ赤にした蕾は大粒の涙を流し始める。


「透の……バカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 蕾は両手を握り締めて大きな声で叫ぶと、病室のドアから泣いて走り去って行った。


 愛芽 蕾16才。指の傷を舐められる初体験をした、春の朝の出来事である。


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